これからの世の中のスタンダードとなる製品やサービスとはどうあるべきかを研究し、発信するブランド、THE株式会社から登場した「THE SCISSORS」。日本刀と同じつくり方で生まれたはさみだ。
私たちが普段よく目にする事務用のはさみは、持ち手が左右対称のものが主流。それは向きを気にせずさっと手に取れることや、左右同じ形にすることで効率的に生産することを考慮して生まれた形である。もともと、西洋でいう「SCISSORS」は握りやすさや切れ味を重視し、持ち手も刃も左右それぞれが機能的な形でつくられた左右非対称のものだったそう。そんなはさみの歴史に忠実に、細かい作業時の握りやすさや使い勝手を徹底的に追い求め、「THE SCISSORS」も左右非対称のフォルムに行き着いた。
日本刀と同じ「鍛造」と呼ばれる金属を叩いて加工する製法により精度と切れ味を高め、「剣先」という刃の先端に向かって徐々に厚みが薄くなっていく加工を施すことで、最も切りにくいと言われるはさみの先端での切れ味も確保している。どちらもステンレス板を加工してつくる現在のはさみには見られなくなってしまった技術だ。また、一般的なはさみの刃付け角度は55度前後だが、THE SCISSORSは45度。切るのが困難と言われるガーゼが切れることを、1丁ずつ手作業で確認して出荷している。
製造は事務用はさみのNO.1メーカー、プラス株式会社。プラスが生み出した、根元から刃先まで一定の力で切ることができる新技術と、古来から続くはさみの伝統的な加工技術を掛け合わせている。
刃物は贈り物には縁起が悪いと言われがちだが、実は「災いを断ち切り幸運を切り開く」と言われ、皇室でも慶事に刀剣を贈る習慣があることや、海外でも「魔を切る」と言われ、縁起の良い神聖なものとしてさまざまな祭り事や式典に使用されてきた。そんな歴史をモチーフに、桐箱入りでつくっている。
プロダクトデザインを担当した鈴木啓太さんは、本製品の出来に関して以下のようにコメント。「THE SCISSORSはオールステンレス製の鍛造ハサミ。これまでにない穴の空いたドーナツ状のカシメが気に入っています。とてもマニアックなのですが、ハンドル部分だけマスキングして梨地(シボ加工)したモデルもあります。鏡面とマットの境目をぜひ撫でていただきたいです。ブラックモデルも同じようにマスキングして着色しています。普通は別ピースにすることが多いので、手に取った人が驚くだろうなぁと思いながらドヤ顔でつくりました。パッケージも最高です。ハサミのアウトラインを0.2mmオフセットした線で桐板を切り抜き、そこにぴったりハサミを収納しました」。
デザイン:鈴木啓太
1982年愛知県生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒。2012年PRODUCT DESIGN CENTER、THE設立。物の歴史を一歩進める「堅実な革新」をテーマに、プランニングからエンジニアリングまでを統合的に行い、家電、モヴィリティ、家具、日用品、アートに至るまで、国内外で様々なプロジェクトを手掛けている。2015年『サンテティエンヌ国際デザインビエンナーレ』招待作家。2016年『HUBLOT DESIGN PRIZE 2016』ファイナリスト(アジア人初)。金沢美術工芸大学客員教授。グッドデザイン賞最年少審査委員。デザインあ「デザインの人」(Eテレ)出演。
http://www.productdesigncenter.jp/