折り紙漆器 origami shikki

日本の伝統的な技法・産業・工芸を融合したサステナブルな器

本来は水に弱い和紙を、漆加工によって何度も洗える器に生まれ変わらせた「折り紙漆器」。漆加工を施しながらも折り紙のように折り曲げることができ、日本の伝統文化の融合が美しく表現されています。

「iF design award」や「A’Design Award & Competition 2022 – 2023」の銀賞を受賞するなど、そのデザイン性が高く評価されている同プロダクト。どのようにして誕生したのか、アートディレクターの守田篤史さんにうかがいました。

■背景・コンセプト

折り紙漆器は、日本が誇る伝統の融合をコンセプトにデザインしました。日本人にとって親しみのある伝統技法の折り紙、伝統素材の和紙、伝統工芸の漆といった3つの要素からインスピレーションし、新しい視点から見つめ直すことでこれらを融合し、持続可能なあり方を考えるプロジェクトです。

日本の伝統産業である和紙は、和紙を使った製品の売り上げの低迷に伴って発注が減少し、これまでの受注ベースの考え方では生産体制の維持が困難な状況になりつつあります。産地では、ひとつの伝統技術をひとつの工場だけが支えていることも少なくなく、工場が失われれば、その伝統技法ごと失われてしまうことになりかねません。

こうした背景から、日本の和紙の機能性や魅力をデザインの力で発信し、産地の伝統技法を後世に引き継いでいくために和紙の産地と連携した共創を目指しました。

折り紙漆器商品画像

伝統産業を守りながらサステナブルを追求するためはどうするべきかを考え、仕組みをデザインすることから折り紙漆器の開発はスタートしました。そこで、和紙の製造工程上どうしても模様の一部が欠けるなどして流通に乗らない「損紙」と呼ばれるものが発生し、廃棄されていることに注目。損紙に新たな価値を生み出すことで、損紙を和紙の工場にとって厄介なゴミではなく資源とするためのプロダクトをデザインしました。

■特徴

折り紙漆器に使われる和紙は加工性に優れた素材ですが、水に弱く、破れやすいという課題がありました。そこで和紙に漆加工を施すことで耐水性と堅牢性を高め、折り紙の技術によって構造的な強さを生み出しています。

また、漆は、硬化後に力が加わると塗膜が割れてしまうという難点から、漆加工を施した後から形状を変えることはほぼ不可能とされてきました。折り紙漆器では独自の手法と工程を経てこの難点を乗り越え、漆加工を施した後でも漆が割れず、折り紙のように折りあげることに成功。ただの商品の開発ではなく、折り紙漆器という新たな技法が誕生しました。

「洗える和紙」「折りたためる漆」という、これまでになかった新しい技術の開発は、令和の福井県に新たに誕生した伝統技術として定着していくでしょう。

また、パッケージは箱に収めることで折り紙漆器の折の山と谷の陰影が強調され、美しく見えるようにデザイン。スリーブ状に開くことで、日本の美しい山々に太陽光が差し込むように陰影が移り変わる様を表現しました。折り紙漆器の生み出す陰影の美しさを、パッケージを開く瞬間にも感じてほしいというテーマで設計しています。

折り紙漆器商品画像

■デザインについて

折り紙漆器の独特な幾何学デザインは、一枚の紙から折り上げることで生まれます。この折りの技法は数理折り紙の技法を応用することで実現しました。また、光のあたる角度によって現れる美しい表情(模様)は、折り紙漆器のベースとなっている越前の伝統技法「ひっかけ」を用いて抄(す)かれたことで現れる「ひっかけ紋様」によるものです。この紋様が、漆が施された味わいのある表情をより味わい深くしています。

折り紙漆器商品画像

■アートディレクター・守田篤史さんのコメント

折り紙漆器のプロジェクトは、伝統技術・伝統産業・伝統工芸を融合し、産地に新たな伝統を生み出すという壮大なモチベーションを持って進めていきました。技術開発において、何度も壁にぶつかりながら洗える和紙、折りたためる漆器という見たことのない技術を発明できたことは、クリエイターとして光栄なことだと思っています。

折り紙漆器はクリエイターの力だけではなく、和紙の職人さんや漆職人さんなどの知恵やこれまでの常識を変えていく熱意が合わさって誕生しました。関わってくださった人たちに感謝すると共に、これからも見たことのないものをデザインできるように励んでいきたいと思います。

産業構造の変化にともない、未来に引き継ぐことが難しくなってきている技術をすくいあげ、新しい可能性を見出し、未来につないでいきたい。だれもが知っているものから、だれも見たことがない世界をつくる。私たちは、そんな未来の景色を共に描けるパートナーでありたいと願っています。

デザインチーム:ペーパーパレード

デジタルとフィジカルの境界を横断しながら、紙や印刷の新しい価値を生み出すことをテーマにしている。

「紙や印刷の可能性を探ること」を原点に、紙と印刷という2つの要素に新しい要素を組み合わせることで、さらに多くの可能性へとつなげることを目指す。

サイズ 280×208×25mm
カラー 漆黒、朱赤、ターコイズ、ピンク
素材 和紙(越前和紙)、漆
内容 一色ずつの販売
重量 13g(本体)
価格(税込) 9,900円