色部義昭が語る、日本デザインセンターの未来を構想する「VISUALIZE 60」ができるまで

色部義昭が語る、日本デザインセンターの未来を構想する「VISUALIZE 60」ができるまで

入社から色部デザイン研究所の設立、取締役就任まで

—色部さんは東京藝大をご卒業後にNDCに入社され、2011年には色部デザイン研究所を発足、現在は取締役を務められています。NDCには、創業時からいまにいたるまで錚々たるクリエイターが所属されていますが、これまでを振り返ってみていかがですか?

そうですね、僕が入った頃といまの会社とでは、まったく印象が違うなとは感じていますね。入社当初は、亀倉雄策さんや横尾忠則さん、サイトウマコトさんといった伝説的な方々が所属されていた残り香のようなものは、実はほとんどなかったんですよ。もちろん、永井一正や原研哉ははばりばり働いていて、その二人はいまでもとても際立っているというか、むしろさらにパワーアップしていますが(笑)。

僕は本当にデザインが大好きだったので、クリエイティブな場所としてのNDCを思い描いていたのですが、入ったばかりの頃に先輩とお昼に行ってデザインの話をしていると「デザインが好きなの?色部くんはそっち系か」みたいなことを言われて、どういうことだろうと……(笑)。僕からするとNDCはみなさん「そっち系」だと思っていたんですが(笑)。

色部義昭さん

いま思えば、会社の中にはいろいろな視野の方がいて、ずっとこの会社を支えている大きなクライアントワークを手がけている方々であったり、職人肌の方など、みなさんそれぞれがプロフェッショナルとして、やってる仕事も違うんですよね。それでも、入ったばかりの自分としてはギャップを感じて、同期だった大黒大悟くんとお昼に行った時には「ちょっと想像と違くない……?」って話してましたね(笑)。

—たしかに、NDCはみなさん「そっち系」のイメージがありますね(笑)。最初はどういったお仕事からはじめられたんですか?

最初は、JRのロゴなどを手がけた山本洋司さんの研究室に在籍していました。洋司さんがやっていたのはJR関連の仕事と、トヨタ関連の仕事で、僕も海外宣伝用のツールなどの仕事もしていました。ただ、山本さんはあまり部下に仕事を頼むのが得意ではないというか、全部自分でやってしまうような方で(笑)。ご本人は当時60歳近くで徹夜続きなのに、「もう君は帰っていい」って言うような人だったんですよ。

それを見かねた隣の部屋の所属長が「色部くん、手が余っててかわいそうだね」と、パッケージデザインの仕事を振ってくれて。なので、その頃はその仕事を一生懸命やってた感じでしたね。その後、山本さんは定年を迎えられ、しばらくは会社に残って仕事をされていたんですが、少し量も減ってくるということで、僕が異動することになり、原デザイン研究所で働くことになりました。

原さんのところに入ったのはいいものの、どうやって入稿するのかといったこともよくわからないような状態でしたが、そこから一気に戦場の最前線に送り込まれた感じでしたね(笑)。

—戦場……(笑)。そこではどういった仕事からはじめられたんですか?

最初に担当したのが、小さな美術館のサイン計画のプロジェクトだったんです。当時、原さんのチームでもサイン計画というのはそんなに数多くやっていたわけではなくて、進め方のノウハウがそれほど多くない状態でした。なので、僕もわからないなりに進めていたんですが、そういった仕事をいくつかしているうちに、気がついたら「よくわからないもの担当」になっていて(笑)。

色部義昭さん

もちろん、無印良品のカタログをつくる仕事などもしていましたね。あとは、もともと大学で立体作品をつくっていたので、立体物をつくる仕事や、展示の構成などを担当していました。

—その後、色部デザイン研究所が発足されるまではどのような経緯があったんですか?

原デザイン研究所には3年半ぐらいいたんですが、レクサスやダイハツのプロモーションを担当している土屋制作室というチームへと異動することになったんです。そこでは、ロケに行って車の撮影をしたり、ポスターをつくったりしていたんですが、その傍らで少しずつ自分の仕事もするようになっていて、川村記念美術館のロゴやサインデザインもその頃の仕事でした。

川村記念美術館のサインデザイン

川村記念美術館のサインデザイン

川村記念美術館のサインデザイン

その後、それなりに自分の仕事が入ってきて、部署の仕事もやりつつ個人で抱えている仕事もしなくてはならない状況が続いていたので、会社に相談して研究所という部屋を設けることになりました。

—現在は取締役を務められていますが、お仕事の変化としてはいかがですか?

取締役としては、これまで続いてきた会社をアップデートしながら次につないでいくことが役割の一つなので、自分の仕事をするだけじゃなく、会社が成長していくにためにはどんな方向性に進むべきか、能力を発揮しやすい体制やルールづくりなど、経営者の目線で取り組む仕事が増えたことがいちばん大きいですね。

実際に役員業務をやってみると、僕らの仕事のほとんどを占めているブランディングの仕事において、クライアントが悩んでるポイントが、以前より明確にわかるようになった感覚はあります。たとえば、会社のロゴやタブラインを変えたいという依頼を受けた時に、経営目線からクライアントの悩みが実感としてわかるようになった部分はある気がします。

—入社当時のお話からお聞きしましたが、NDCという場の魅力についてどのように感じていますか?

たとえば、すぐ隣に三澤遥のような存在がいて、すごくおもしろいものをつくっていたり、LAから大黒大悟が情報共有してくれたり、たまに原さんの部屋を覗いて刺激を受けたり、そんなことが同じ空間で起っているということがNDCのおもしろさであり、長く働いている中でいいなと感じることですね。研究所のほかにも、カーコンフィグレーターの企画から設計までの仕事してる人など、エンジニアに近い立場のデザイナーもいたり、いろんなことができる人が社内にいるんですよね。

今回展示している無印良品の「気持ちがいいのはなぜだろう。」の映像を撮っている映像ディレクターの深尾大樹くんや、TVアニメ「アルドノア・ゼロ」のデザインをしている有馬トモユキくんなど、これまでに他の人がやっていなかったアプローチをしている人もいる。そういった人たちがすぐ横にいて、その仕事ぶりを覗き見できたり、場合によっては一緒にできる環境なんです。

無印良品「気持ちがいいのはなぜだろう。」

無印良品「気持ちがいいのはなぜだろう。」

TVアニメ「アルドノア・ゼロ」

TVアニメ「アルドノア・ゼロ」の展示

—色部さんが手がけられた「Osaka Metro」のモーションロゴに関しては、オンスクリーン制作室の後藤健人さんが手がけられていますね。

そうですね。その時も、後藤くんがどんなことが得意なのかを知っていたので、ロゴのかたちは決まってたんですけど、それを動くロゴとして正確に描くにはどうしたらいいだろうと、彼に相談したんです。

このロゴでは、最終的に3Dにする必要があったので、3Dデータを見る視点が大事でした。3Dでかたちを自在に操りながらデータを整えてくような、そんなやり方ができないだろうかと彼に相談をしたところ、CINEMA 4Dというソフトウェアで3Dのプラグインを使えばできそうだと、探りながらつくり上げていった感じでした。

「Osaka Metro」

「Osaka Metro」

「Osaka Metro」

—NDCでは、研究室間のインタラクションや、全社的なコミュニケーションの場や機会などがあるのでしょうか?

収支状況を把握する月ごとの会議と、半期ごとに予算会議があるので、そこで自分たちの活動報告であったり、「こんなチャレンジをします」といったことを発表する場があります。年末にはNDC賞という、毎年各部門推しのプロジェクトを集めて審査するアワードがあります。賞品もあって、大賞は100万円の賞金が出ますね。

—100万円!すごいですね。

どこか旅行にでも行ってこい、みたいな感じですね。社内の仕事はみんながそこで知ります。自己研鑽して、そういったかたちで社内で共有しています。

オーセンティックのレンジを広げていく、NDCの「VISUALIZE」のこれから

—6月15日からは森岡書店での展示も予定されています。最後に、NDCとしてこれからの「VISUALIZE」についてどのようなこと思い描いていますか?

いままでは、伝えたい側の視点を重視してVISUALIZEしていく仕事でしたが、ユーザーはよりリアルなものを求めていて、SNSでの評価を通してものを見ていたりと、情報の摂取の仕方が変わってきています。双方向性を持ったコミュニケーションの必要性はどんどん高まっていて、従来のようにお化粧をしてきれいに見せるというVISUALIZEが求められる状況ではなくなってきていると思うんですよね。

色部義昭さん

今回の「VISUALIZE」という言葉は、あるものの本質を可視化するという、本来デザインという言葉が持っていた意味ではあるんですが、デザインという言葉に、メイクアップすることできれいにみせる加飾のニュアンスが含まれて捉えられてしまっているような状況もある中では、我々の職能が素直に伝わりやすい言葉だと思っています。一方向的なデザインではない、さまざまな見え方や姿をVISUALIZEしていくことがこれからは必要になってくると考えています。

今回の展示をきっかけに立ち上げた構想系プロジェクトに関しては、まずはそれぞれが社会に実装されることが大事だと思っています。僕はあくまでそれを見守る立場ではありますが、実現につながるようにサポートしていきたいと思います。

NDCのよさは、歴史があり、オーセンティックな強みを持っているところだと思っています。ただ、そこにしがみつくわけじゃなくて、常にイノベーティブであろうとそのレンジを広げていくことが大事で。以前は、紙を中心にしたフィジカルなメディアに両脚が乗っかっている状態でしたが、映像やアプリケーションなどのオンスクリーンメディアに対しても最適な提案ができるような状況にシフトできました。空間からプロダクトまでメニューが加わり、昔では想像できなかったような、隅々まで行き渡ったフルパッケージの仕事がいまではできるようになっています。NDCは、これからもいろんな試みを続けていく中で、オーセンティックでイノーベーティブ、魅力的なVISUALIZEを実装していくことができたらいいですね。

色部義昭さん

写真:葛西亜理沙 取材・文・編集:堀合俊博(JDN)

【関連イベント】「VISUALIZE 60のトビラ絵展」

会場:森岡書店
会期:6/15(火)〜6/27(日)※6/21(月)はお休み
時間:13:00〜19:00
特典:トビラ絵入り書籍カバー(書籍「VISUALIZE 60」を持参またはご購入いただいた方へ)
詳細:https://visualize60.ndc.co.jp/exhibition/91

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