凸版印刷のデザインシンクタンク「C-lab.」から発信するサーフェスデザイン(1)

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凸版印刷のデザインシンクタンク「C-lab.」から発信するサーフェスデザイン(1)

創業以来、100年以上にわたり印刷の可能性を広げてきた凸版印刷(以下、トッパン)。業界のリーディングカンパニーとして、デザインと技術の融合を進めてきた。そんな同社が力を入れてきた事業の一つに「建装材」がある。

建装材は、住宅や店舗などさまざまな空間の床、壁、天井、家具や什器の装飾に使われるもので、同社の建装材は1950年代から続く住宅・マンション向けから、90年代以降増えてきた店舗やホテル向けまで幅広い業界で使われている商材だ。近年、トッパンでは商業空間を扱う建築家やデザイナーに向け、独自に収集したデザイントレンド情報や建装材の提案を行うイベントなど、よりデザイン業界に特化した活動も行っている。

今回はトッパンの柏工場にうかがい、同社の建装材開発や、R&D活動を進めるデザインシンクタンク「C-lab.」について、2月中旬に開催されるセミナーイベントなどに関して、凸版印刷株式会社 環境デザイン事業部 クリエイティブ本部長の井ノ口清洋さんと同本部 海外デザイン部長の坪井剛さんにお話を聞いた。

トッパンの建装材事業の歴史

――まずはお二人の経歴を教えてください。

井ノ口清洋(以下、井ノ口):私は入社して33年になります。入社直後は、当時設立したばかりのインテリアアイデアセンターという部署に配属されました。その後、デザインマーケティング担当としてトッパンインターアメリカへの駐在や、ヨーロッパやアジアでのデザインプレゼンテーションを行ってきました。現在はC-lab.のクリエイティブワーク全体を統括しています。

井ノ口清洋 凸版印刷株式会社

井ノ口清洋 凸版印刷株式会社 環境デザイン事業部 クリエイティブ本部長

坪井剛さん(以下、坪井):私は1991年入社です。大学では工業デザイン科でプロダクトデザイナーを志望していました。特に材料に興味があり、ちょうど平面から立体へと事業を拡大する時期だったトッパンなら幅広い製品が扱えると思い、入社しました。入社後は壁紙をつくるチームに配属され、いわゆるサーフェスデザイナーとしてデザインをすることになりました。

坪井剛 凸版印刷株式会社 環境デザイン事業部 クリエイティブ本部 海外デザイン部長

――お二人が所属する、環境デザイン事業部とはどのような部署なのでしょうか?

井ノ口:約60年にわたり、床・壁・建具・家具などの化粧シートをはじめとする、暮らしを彩る建装材を提供しています。近年は化粧シートを核に、立体から空間へと企画提案の幅を広げ、まちづくりを視野に事業領域を拡大しています。

建装材イメージ

化粧シートの製品例。木目などの凹凸にはリアルなエンボステクスチャーを表現している。

トッパン 建装材 施工事例

トッパン 建装材、化粧シートで彩られた空間事例。

化粧シートには木目柄が多く用いられます。木目柄は柏工場にて素材選びから塗装仕上げ、版設計やレイアウトなどのデザインワーク、シリンダー版の彫刻やテストプレスまでが行われています。国内のみならず、海外とのデザイン開発の機会も多くなっています。

――そもそも建装材はいつ誕生したのでしょうか?

井ノ口:そもそもの誕生は、戦後復興のための住宅施策が行われた1950年代です。当社では、クッションフロアを開発された住宅建材メーカーさんとのお仕事がきっかけで、1956年に建装材事業部ができました。ただ、住宅関連企業へのBtoBが中心で、業界景気の影響を受けやすい問題がありました。

坪井:それが変化し始めたのが80年代です。1981年にオリジナルの木目柄化粧シートのラインナップ「101ブランド」を発売して以降、マンションや商業空間に関わる建設業者さんに弊社から直接販売する機会も増えたんです。

それ以降、事業の移り変わりに合わせて商材にも広がりが出てきました。機能を持たせた不燃対応の壁材や、アルミと化粧シートを組み合わせた製品をつくったり。化粧シートだけでなく、家具や建具を加工するなど、付加価値をつけたビジネスに展開していきました。

トッパンの環境デザイン事業部のキーコンセプト

トッパンの環境デザイン事業部のキーコンセプト。建装材中心の事業展開から、空間企画・施工、オールトッパン連携でのソリューションが加わっている。

井ノ口:印刷事業を行うトッパンとして平面から立体に商材が広がる中で、90年代後半には本格的に非住宅にも取り組むようになりました。2000年代に入り、タワーマンションや外資系ホテルが参入し始めたことが大きいです。非住宅の場合は住宅と同様に、汎用性の高い柄とバラエティに富んだ個性的な柄の両方が求められます。

“木目”をデザインするサーフェスデザイナー

――では、具体的にはどのような流れでサーフェスデザインが制作されるのでしょうか?

井ノ口:クリエイティブワークフローとしては、「デザインリサーチ:市場動向の分析」「プランニング:コンセプト立案」「デザイン制作」「プレゼンテーション:提案根拠、背景」がベースとなります。

具体的なデザイン制作は、「原稿探し~選定」「原稿加工~塗装」を経て、「スキャン」「デジタルワーク」という流れで進めていきます。デザイン制作と合わせ、製品の仕様はお客さまが商品をどの場所・部位で使いたいかなど特に技術連携に関わる要素なので、クリエイティブとテクノロジーの両方が必要です。例えば、色柄や手触り感などの細部にこだわるにも、印刷の際にグロスやマットインクをどう使うか、エンボスなどの加工はどうするのかなど技術の検討が不可欠だからです。

トッパンでは「原稿」と呼んでいる木目柄の元になる原材。床や壁など用途によって適した木目は違うため、用途やスタイルに合った木材をさまざまに購入している。

トッパンでは「原稿」と呼んでいる木目柄の元になる木材。床や壁など用途によって適した木目は違うため、用途やスタイルに合った木材をさまざまに調達し、ストックしている。

木目柄のデザインのレイアウトは、用途やシーンをイメージして検討される。

木目柄のデザインのレイアウトは、用途やシーンをイメージして検討される。

坪井:私は入社当初、木目制作に特化したチームに配属されたんです。最初は「これはデザインなのか?」と戸惑いましたが、経験を積むうちに少しずつ、「木目のデザイン」という、自然物を再現することはプロダクトデザインのひとつのジャンルなんだと実感できました。

トッパンの「C-lab.」が提案する、空間づくりと時代の“兆し”

――2012年からスタートさせた、インテリアデザインのトレンドなどを調査する「C-lab.」についても聞かせてください。

井ノ口:「C-lab.(シーラボ/Toppan Creative Laboratory)」は、凸版印刷が永年培ってきた生活空間におけるサーフェスデザインの企画・制作のノウハウをもとに、平面から立体、そして空間へのトータルな視野に立ち、製品から空間全体への提案を行う役割を担っているデザインシンクタンクです。

「C-lab.」では、生活者や空間に関する現状調査・分析に加え、独自のネットワークや最先端の情報から、レジデンシャル(住空間)、コマーシャル(商空間)、グローバル(海外)のデザイントレンドを捉え、時代の“兆し”を「C-lab.コンセプト」として発信しています。また質感表現の追及も「C-lab.」の大きな役割のひとつであり、CMF(Color・Material・Finish)+P(Pattern)の視点をベースにさまざまな角度からのアプローチを試みています。

「C-lab.」の考え方をあらわした図

歴代のC-lab.コンセプト

歴代のC-lab.コンセプト

井ノ口:たとえばコンセプトの発信を始めた2012年は、「SIMPLE WELL」というコンセプトを掲げました。震災直後だったこともあり、「昨⽇より少し」の幸せ、優しさ、明るさをとりもどすことを願い、シンプルで飾らないスタイルに、少しの“WELL”をのせて穏やかに暮らすことを提案しました。その後は「MY TREASURE」「GROWTH」「WISE」と続き、最新の2019年は、積極的に自分の歩幅で「新しい価値を創る」、そんな時代の到来をあらわした「STRIDE」をコンセプトとして提示しています。

海外各地のデザイン動向の経年調査・分析のオリジナル情報は、C-lab.のナレッジとして蓄積、体系化してデザインの大きな潮流を捉え、サーフェスデザインや空間企画の提案に活かしています。

坪井:私や井ノ口をはじめクリエイティブ本部のメンバーは、普段から新しい店舗や施設のインテリアをチェックしたり、展示会に足を運びます。いろいろな情報を持ち寄りつつ、新たな目線で消費者が好むトレンドの方向性を考えたり、共有したりするようなワークショップも行っています。新しいトレンドは過去からのデザインの潮流、流れの中にあり、継続してリサーチすることは重要です。イタリア・ミラノの家具展示会の視察は1980年代から開始し、今につながっています。

30年以上続けてリサーチ・分析している、ミラノのデザイン潮流

30年以上続けてリサーチ・分析している、ミラノのデザイントレンド

坪井:C-lab.コンセプトや各種分析結果はショールーム「FOREST」で発信していますが、ミラノデザインウィークや海外の国際展示会へ出展するなど、グローバル発信も行っています。ドイツのケルンで隔年ごとに行われている「インターツム ケルン国際家具インテリア産業見本市」には30年にわたり出展を続けています。また、ミラノデザインウィークでは、2016年、2017年とイタリアを拠点にグローバルに活躍する家具デザイナーや建築家とコラボレーションし、アルミルーバーの「フォルティナ」をベースに空間を演出しました。

出展時の様子

ミラノデザインウィーク出展時の様子

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