次世代のデザイナーを育成する「東京デザインプレックス研究所(以下、TDP)」は、現役トップクリエイターが講師を務め、グラフィックやWeb、UX/UI、空間デザインなど幅広い分野で即戦力となるプロフェッショナルデザイナーを多く輩出しています。未経験からのキャリアチェンジやリスキリングを支援する体制が整っており、デザイン業界への就職・転職実績が豊富です。
アートディレクター/グラフィックデザイナーとして活躍する大橋祥さんは、2018年に同校のグラフィックデザイン専攻を修了。短期間で未経験からデザインスキルを身に付けられました。そんな大橋さんに、現在のお仕事内容からキャリアチェンジのきっかけ、TDPで身についたスキルや考え方について話をうかがいます。
スポーツイベントのロゴから、人気漫画の展示空間まで
――まずは、これまでの経歴と現在のお仕事について教えてください。
高校卒業後に進学したのはデザインとはまったく関係のない4年制大学で、卒業後はイベント制作会社へ入社しました。そこでは企画営業職として働いていましたが、イベントに向けてさまざまな領域のクリエイターと仕事をするうちに、自分も作り手側に回りたいと思うようになり、26歳の時に会社を退職してTDPに入学しました。

大橋祥 アートディレクター/グラフィックデザイナー。大学卒業後、イベント制作会社に営業企画として入社。2017年よりTDPのグラフィックデザイン専攻に通いながらデザイナーとして活動を開始。現在はクリエイティブチームのTNZQ、一般社団法人渋谷未来デザインに所属しながらフリーランスとしても活躍する
在学中に、イベント制作会社時代のクライアントだったクリエイティブチーム・TNZQ(タンザク)の設立者である金山淳吾に声をかけられ、現在もそこにデザイナーとして所属しながら、フリーランスとしても仕事を受けています。ロゴやキービジュアルなどのグラフィックデザインを中心に、案件によってはWebや空間のデザイン、イラスト制作などにも取り組んでいます。
――直近もしくは代表的なデザインワークをいくつかお聞きしてもいいですか。
代表的なもので言うと、アシックスさんが主催するバスケットボールのコンペティション「GRIP」のロゴとキービジュアルのデザインを担当しました。もともと僕はバスケに詳しくなかったのですが、一度、視察という形で試合を見させていただいた時に受けた印象をデザインに落とし込んでいます。
選手たちの躍動やぶつかり合って汗が飛び散る姿、最後の最後まで諦めずにシュートを放つ姿がとてもカッコよく映って、それをデザインで表現したいと思ったんです。具体的には、バスケットボールに墨を塗って、思い切り地面に叩きつけたシルエットをもとにロゴを制作しました。

墨のシルエットをもとに制作された「asics GRIP」ロゴの完成版
墨のシルエットは何度か試行したもののなかで一番しっくりくるものを選びましたが、試合と同様に出たとこ勝負で再現性のないデザインになったことが気に入っています。もともと、自分の子どもが床に牛乳をこぼしたときの飛び散った跡がカッコよくて、それが発想の源になってくれました。日常の中にもデザインにつながる発見があるんですよね。

何度もボールを叩きつけ、出来上がった数多くのサンプル
幅広くデザインを任せてもらえた案件として印象に残っているのは、写真家・映画監督の蜷川実花さんが監修するグラフィックマガジンの展示空間「GO Journal in SHIBUYA」にてアートディレクションとデザインを担当したことです。『GO Journal』はパラスポーツとパラアスリートの魅力を伝えるフリーマガジンで、2020年に、最新号の発刊を記念して渋谷スクランブルスクエア7階のイベントスペースで展示を開催しました。

「GO Journal in SHIBUYA」展示風景
この時はお題と展示会場だけ決まっていて、コンセプト設計や空間演出は自分に任されていました。トータルのデザイン設計を提案して、グラフィックデザインだけでなく空間演出まで担えたのはとてもうれしかったです。ボリューム感的には大変な仕事でしたが、前職時代に自分が手の届かなかった領域まで任せてもらえたのが自信につながりました。
直近では、六本木ヒルズの展望台「東京シティビュー」で開催された『チ。―地球の運動について―』の企画展のデザインも担当しました。キービジュアルは、企画展のコンセプトとなった「世界の見方が変わる」を視覚化するために、地球を想起させる球体の中に「?(問い)」が「!(発見)」へと転換する瞬間のモチーフを配置しました。地動説を証明するまでの過程を描いたこのマンガのテーマと企画展のコンセプトをうまく組み合わせられたのがよかったです。

「『チ。―地球の運動について―』× 東京シティビュー」展覧会キービジュアル

「?」が「!」へと転換していくモチーフ
企画展の空間には、マンガの印象的なセリフやコマも配置されていたのですが、文字の置き方や位置、フォントなどもディレクションさせていただき、空間のデザインまで含めて携われたのが楽しかったですね。

壁一面に配置されたセリフとコマ。強弱のある表現で、マンガの感動を呼び覚ますような空間
――グラフィックデザインを主軸にしつつ、空間のデザインにまで派生するなど、幅広く拡張していくようなお仕事をされている印象です。
前職のイベント制作会社時代はクリエイティブの全体に目がいっていたので、その経験が生きているかもしれません。ロゴを一つ提案する仕事であっても、それが映像になった際に使いやすいかどうか、空間に施すならこの形がいいのではないかといったところまで考えます。
ロゴやキービジュアルをその後の展開も含めてクライアントに提案すると、「じゃあ空間演出まで頼んでいいか」といった流れでお願いされることもあるんですよね。決まった役割に収まらずに、クライアントの要望を形にできること、そしてそれがイベントや展示に訪れた人の記憶に残ることにとてもやりがいを感じています。
――デザインしたものが、最終的にどのようにユーザーに届くかを大事にされているのですね。
それでいうと、日本財団パラスポーツサポートセンターのオフィスエントランスに飾られる装飾デザインを担当した仕事も印象深いです。パラアーチェリーやパラ陸上競技といった31のパラスポーツ競技団体をピクトグラムとして制作しました。

「PARA SPORTS PICT」
以前パラスポーツの仕事に関わった際、視覚障がいがある方と出会い、自分が普段取り組んでいるデザインは視覚表現であることを強く認識させられる経験がありました。そこで、このピクトグラムではエンボス加工を施すことで、その競技の特徴を触覚でも捉えられるように制作を進めていきました。実際に、オフィスに訪れた視覚障がいのある方がピクトグラムに触れていると聞いて、デザインを通してコミュニケーションの可能性を模索できたのがうれしかったです。

オフィスに飾られているピクトグラムの一部。エンボス加工と点字が施されている
営業職として働く中で感じた限界。そこで見えたデザイナーへの道
――営業職からキャリアチェンジしようと思ったきっかけは何ですか?
幼い頃から絵を描くのが好きで、小学校の卒業文集には「漫画家になりたい」と書いていたくらいでした。クラスTシャツのデザインをしたり、催し物があるとポスターを作ったり、学生時代から何かとものを作る役を担うことが多かったですね。
ただ、具体的にデザイナーになりたいと思ったのは、イベント制作会社で働くようになってからです。一つのイベントを作り上げる工程で出会った音響や照明、映像、そしてデザインといったさまざまな領域のプロフェッショナルに刺激を受けました。その一方で、「自分はこれから営業という職種でプロフェッショナルを発揮できるのか」ということに自信がなかったんです。そして、作り手側がすごくカッコよく見えたんですよね。

プロのデザイナーにお願いする際にラフを作ることがありますが、そういうときに自分でガチガチにイメージを作り込んでしまったりして、営業職としては求められてない領域まで踏み込んでいた。でも、やっぱりもっとこだわりたい。そう思ったときに、自分自身がデザイナーになる道を考えたんです。
――デザイン系の学校の中で、TDPを選んだ決め手を教えてください。
一番大きかったのは、セカンドキャリアを目指す過程でこの学校を選ぶ人が多いと、説明会で聞いたことですね。志やバックグラウンドの近しい人が集まっているなら一緒に頑張れるいい環境だと思いました。
デザインのハードルを上げてくれた存在
――TDPで新たにデザインを学んだことで、その後の仕事に役立った部分はどんなところですか?
デザインソフトの使い方を一から詳しく教えてくれましたし、何より課題制作という形で、仕事で言うプレゼンや納品の工程まで経験しながらデザインを学べるのが魅力だと思います。
デザイナーとして直接クライアントにロゴのコンセプトなどを伝える場面がありますが、そこでの言語化――なぜこの形や色、線の太さを選んだのかどうかを「ただカッコいいから」ではなく説明することは今でも大事にしていますし、それは授業で培われたものです。

一般社団法人渋谷未来デザインが主宰する、ソーシャル & カルチャーデザインの祭典「SOCIAL INNOVATION WEEK 2025」メインビジュアル。「毎日に、好奇心を。未来に、アイデアを。」というコンセプトを、人それぞれ異なる価値観や視点、アプローチが重なり合いながら社会を動かしていくようなデザインに落とし込んだ
あとは、もし独学でデザインを学んでいたら、自分自身が納得するデザインのハードルが低くなっていたと思います。TDPの講師や、私の場合TNZQの金山が在学中から作品を見てくれたからこそ、納得する基準を高くすることができました。
自分だけのセンスでは選び取らないデザインに触れることなども含め、自分の可能性を拡張してくれる環境だったと思います。私はフリーランスでの活動が多いので、最終のクオリティチェックは自分でするしかありません。その時に、これまで私のデザインを見てくれてきた方たちの存在の大きさを実感します。
自分に、本当に向いている仕事を見つけられた
――TDP在学中からTNZQでのお仕事も少しずつされていたそうですね。仕事をしながら学ぶなかで、モチベーション維持のために工夫したことはありますか?
前提として、好きなことを学べていることが嬉しくて、モチベーションは保たれていたと思います。さまざまなクリエイティブや著名なデザイナーの活躍に触れる中で、「悔しい」とか「なんて自分はセンスが乏しいんだろう」と思うことはありましたが、それがまた向上心につながっていました。
――キャリアチェンジをして、一番よかったと思うことは何ですか?
営業職時代は数字で負けてもなんとも思わなかったんですよね……。それが、デザインの分野に転向してからはクライアントに満足していただいたり、仕事を評価してもらえたりすることが増えた。楽しくて取り組んでいることに、いい評価までいただけるのはとてもうれしいことでした。
――最後に、キャリアチェンジのための一歩を踏み出すのに悩んでいる方に向けてメッセージをお願いしてもいいですか。
まずはやってみてから考える。これに尽きるかなと思います。デザインに限らず、少し関心が向いていることはまず取り組んでみないと、好きかどうか、向いているかどうかもわからない。その先にきっと道が拓けるので、デザインに興味があるならば、まずは挑戦してみてほしいです。

東京デザインプレックス研究所
https://www.tokyo-designplex.com/
大橋祥
https://sho-ohashi.com/
文:原航平 撮影:葛西亜理沙 取材・編集:萩原あとり(JDN)
初出:学び×デザイン情報サイト「Skhole by JDN」
https://skhole.japandesign.ne.jp/interview/tdp-ohashi/




