ソーシャルデザインプロジェクトで身につく「社会の当たり前を問う力」

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ソーシャルデザインプロジェクトで身につく「社会の当たり前を問う力」

世界各国で持続可能な社会づくりが求められている昨今。社会の仕組みや制度のデザインを通して世の中の課題を解決するために、さまざまな活動がおこなわれるようになりました。そういった活動は「ソーシャルデザイン」と呼ばれ、 時代の変化とともに需要の高まりが見られます。

なかでも、ソーシャルデザインを教育コンセプトのひとつに掲げる東京デザインプレックス研究所(以下、TDP)では、学⽣主体のラボラトリー「フューチャーデザインラボ」を企画・運営。「ソーシャル・カルチャー・ビジネス的視点を持つデザイナーを未来に向けて輩出する」ことを⽬的とし、積極的に活動しています。

今回、同校の修了生でデザインを通じて社会課題に向き合うプロジェクトに携わる鴻戸美月さん、水島素美さん、兵藤海さん、藤森晶子さんの4名に、「フューチャーデザインラボ」発のプロジェクトの内容やソーシャルデザインの面白さ、身についたスキルなどについて語っていただきました。

「死生観」「イマジナリーフレンド」「固定種野菜」「医療」……4人が向き合う社会課題とは

――プロジェクトに取り組むことになった経緯についてみなさんにうかがいます。まずは、「さだまらないオバケプロジェクト」で人々の死生観をデザインの力で変えていく活動をしている鴻戸さん、いかがでしょうか。

鴻戸美月さん(以下、鴻戸):TDPに入学し、同校が運営する「フューチャーデザインラボ」に所属したことがプロジェクト発足のきっかけです。

鴻戸美月さん

鴻戸美月(こうどみづき) 2019年4月〜9月 TDPのグラフィック/DTP専攻を受講。修了後、フリーランスでデザイン業務をおこないながら「フューチャーデザインラボ」に参加し、死をリデザインすることをコンセプトにプロダクト開発やイベント企画運営、エンディング業界のデザインコンサルティングを実施している 

鴻戸:ラボに所属すると数名でチームを組み、アプローチする社会課題について話し合います。私が世の中の死生観に興味を持つようになったのは、TDPスタッフの方がお母様を亡くされ、「母の遺品を整理しているのだけど思い切って捨てることができない」というお話を聞いたのがきっかけでした。

現代の日本では「死」について語ることはあまり好ましく思われません。そのため、悲しみを一人で抱えて塞ぎ込んでしまう。これは誰もがいつか必ず直面する問題です。だからこそ、私たちは「死」の捉え方をデザインの力で変えていきたいと思いました。遺された人が、亡くなった人との思い出を生きる糧にできるような世の中にしようと、さまざまなプロダクトを開発しています。

「KUMOMONAKA 雲もなか」商品写真

「あの人はどんな色?」と故人を想いながら餡に色をつけて食べる「KUMOMONAKA 雲もなか」は、家族や知人たちとワイワイ思い出を語り合う時間をつくる。葬儀の縮小化、そして葬儀後すぐの社会復帰により「故人への想いや自分の気持ちと向き合う時間」を失ってしまっている現代に、新しい弔い方を提案

――水島さんも鴻戸さんと同じく「フューチャーデザインラボ」に所属されていますが、本業はアパレルブランドの経営企画なんですよね?

水島素美さん

水島素美(みずしまもとみ) アパレルブランドの経営企画に携わる。2019年10月〜2020年6月 TDPのグラフィック/DTP専攻を受講し、フューチャーデザインラボの第4期生として活動。「どうしたら創造的な大人になれるのか」を実現する手段として「認知科学 X 創造力=大人版イマジナリーフレンド」の制作を提唱し、オルタナフレンド制作ラボワークショップを実施

水島素美さん(以下、水島):はい。普段は事業の分析業務など、会社の中長期的な経営計画の立案に携わっています。仕事をする中で思考が凝り固まっている自分に気づき、新しい視点や発想力を身につけるために、TDPでの学び直しを決めました。特に「フューチャーデザインラボ」は未来を予測しながら課題を発見しアプローチするという点で、本業にも学びが活かせそうだと思い参加しました。

――水島さんは、大人の発想力を高める「オルタナフレンドプロジェクト」のメンバーですが、「オルタナフレンド」とはなんなのでしょう?

水島:一言で表すと「大人版イマジナリーフレンド※」です。子供の豊かな発想力によって生み出されるイマジナリーフレンドは、年齢が上がるにつれて消えてしまいます。それなのに、発想力は大人になっても求められる。

私自身、本業やラボの活動で、アイデアが思うように出てこなくてやきもきする経験を幾度となくしてきました。そんな中で、イマジナリーフレンドが認知科学の観点で発想力を高める存在として有効だという論文を見つけて、私たち大人に必要なのは発想を手助けしてくれる相棒だと思ったんです。本プロジェクトではワークショップなどを通じて発想の枠組みを外す「オルタナフレンド」を見つける活動をおこなっています。

※「イマジナリーフレンド」とは、通常幼少期に見られる「空想上の友人」のこと。発達心理学などで用いられる言葉

「オルタナフレンド」活動風景

コミュニティスペース「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」にて、未知の価値に挑戦するプロジェクトとして参加したオルタナフレンドの展示風景。その他、日本最大級の科学と社会をつなぐオープンフォーラム「サイエンスアゴラ」などでワークショップを実施

――現在Web制作会社でデザイナーを本業としている兵藤さんも「フューチャーデザインラボ」所属ですが、ソーシャルデザインに興味を持ったきっかけを教えてください。

兵藤海さん(以下、兵藤):TDPのティーチングアシスタントがこのラボを薦めてくれたことが、きっかけでした。もともと自分が本業で培ってきたデザインのスキルを社会に活かしたいという思いが強く、当時コロナ禍だったこともあって何か世の中に貢献したいと感じていたんです。そんな時にラボの存在を知り、これは挑戦しないと後悔するなと応募を決めました。

兵藤海さん

兵藤海(ひょうどうかい) 2022年1月〜2022年9月 TDPのグラフィック/DTP専攻を受講。現在Webデザイナー、ディレクター。フューチャーデザインラボ第5期生。絶滅の危機にある固定種野菜が持続するためのサイクルを知ってもらうイベントの企画運営や、PRツールのデザイン企画などを実施

――兵藤さんは絶滅の恐れがある固定種野菜を持続させるためのプロジェクトのメンバーですが、固定種野菜とはどんな野菜なのでしょうか?

兵藤:固定種野菜とは、スーパーなどでほとんど出回ることのない、人間が選抜することで何世代にもわたり特性が継承される品種の野菜のことです。これらの野菜は、収穫量が少ないことや外食産業の普及などを理由に生産農家が減り、現在絶滅の危機に直面しています。

その現状を知った私たちは、フィールドワークとして各地の農家をまわり、固定種野菜の現状について調べていきました。拾い上げた課題をもとに、シェフとコラボした試食イベントを開催するなど、固定種野菜の魅力を知ってもらい、ファンを増やす活動をおこなっています。

固定種野菜のプロジェクト活動風景

固定種野菜が持続するためのサイクルを「知る・興味→体験→拡散→再購入・新規購入者の獲得→需要増加→生産者増加」と考え、このうち「体験」を提供するイベントを実施。イタリアンレストランのシェフがこの日のために開発した特別メニューを振るまった

――続いて、ストーマ(人工肛門)を手術で造設した患者さんの生活を豊かにするための「デザインストーマパウチプロジェクト」のメンバーである藤森さん。お三方とは違う経緯でプロジェクトに参加されたんですよね?

藤森晶子さん(以下、藤森):私は横浜市立大学先端医科学研究センターのコミュニケーション・デザイン・センターで、医療現場の課題をデザインの力で解決する仕事をしています。本プロジェクトは、ストーマ(人工肛門)を手術で造設した患者さんの気持ちを、少しでも明るくしたいという大腸外科医の先生の想いから誕生しました。

ストーマからの排泄物をためておく袋をストーマパウチといい、日本では透明なパウチが主流なのですが、そこに貼るデザインステッカーを開発するプロジェクトです。ソーシャルデザイン分野で横浜市立大学と長年交流のあるTDPと共同で活動をスタートし、その架け橋役として、TDP出身の私が発足メンバーに加わることになりました。

藤森晶子さん

藤森晶子(ふじもり まさこ) 横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター/デザイナー。2017年7月〜11月 TDPのグラフィック/DTP専攻を受講し、修了後「ストリートメディカルスクール(TDPと横浜市立大学との協働カリキュラム。TDPの修了生と医療関係者が集い、デザインや医療のプロフェッショナルに学ぶ教育プログラム)」の1期生に。プログラム修了後も2期生のアドバイザーを務め、現職

――医療分野の課題をデザインで解決するにあたって、どのようなことが大変でしたか?

藤森:私たちがデザインしているのは、透明で中身が確認しやすいという医療側のメリットに特化したストーマパウチを、患者さんの好みや気持ちに寄り添ってアレンジするためのステッカーです。しかし、それは機能上なくても問題ないもの。だからこそ、患者さんが使用中に邪魔に感じたり、不具合が起きたりするようなことは決してあってはなりません。ステッカーのグラフィックをデザインして終わりというわけではなく、医療の観点からも使用して問題がないかを細かく検証していく必要があります。

デザインストーマパウチプロジェクト

ストーマパウチのステッカーデザインはTDPの学生たちが担当。藤森さんはそれらの取りまとめやステッカーカタログのデザインのほか、クラウドファンディングの運営、ストーマパウチメーカーや印刷会社とのやりとり、納品までのディレクションを担当している

完成までは試行錯誤の繰り返しでしたが、先生やストーマパウチメーカー、印刷会社などあらゆる分野のプロの方たちの協力のもと、ステッカーを無事患者さんに届けることができました。大変なことも多かったですが、使っていただいた方から喜びの声をいただいた時は、心からつくって良かったと思いましたね。

忙しい社会人生活の中でのプロジェクト活動。
やりたいことを実現する力が身についた

――みなさん社会人ということで、本業とプロジェクト活動の両立が大変そうですね。

水島:一番大変なのは、メンバーそれぞれに本業がある中で、チームの心を一つにすることです。本業が忙しくなるとどうしても心の余裕がなくなってしまうので、リーダーとしてみんなのモチベーションが上がるように工夫しました。自分が率先してアイデアを出してみたり、一緒に展示会に行ってインプットの機会をつくったり。ラボのメンバーは何かを成し遂げたいという意志の強いメンバーばかりなので、みんなの力を最大限引き出せるよう尽力しましたね。

――プロジェクトに取り組んだからこそ得られた学びや身についたスキルはありますか?

鴻戸:学生としてデザインを勉強していた時は、知識を得ても、自分がやりたいと思ったことをなかなか実現できず悶々としていました。しかし、プロジェクト活動では、自分たちで問題を発見し、深掘りし、アイデアを形にするスキルを身につけることができます。「デザイン」とは、やりたいと思ったことを自分の手で実現させる力なんだと、身に染みて実感しました。

鴻戸美月さん、水島素美さん、藤森晶子さん

「解決したい」という強い想いが、人に共感されるデザインを生む

――ソーシャルデザインに携わることの魅力を教えてください。

兵藤:基本的に、私がWebデザイナーとしておこなっているクライアントワークは、クライアントができないことを私たちプロが代わりにする仕事です。自分の意見とクライアント側の意見に相違が生まれた時は、うまく折り合いをつけながら進めていく必要があります。

一方、フューチャーデザインラボの活動では、自分の気持ちや違和感を大事にすることがすごく大切だと感じています。自分たちが提起した問題に対して、本気で解決したいという想いがないと、人々に共感されるデザインは生まれません。自分がやりたいことと、いまやっていることにギャップを感じている人は、ソーシャルデザインの事例について一度調べてみてはいかがでしょうか。

――読者の中には、デザイナー以外の職業の方で「デザインの力で社会課題を解決すること」に興味のある方々もいらっしゃると思います。そういった方々に向けて、同じ立場の水島さんからメッセージをお願いします。

水島:兵藤さんもおっしゃったように、仕事をしていると自分では違和感があっても、それを受け入れるのが大人だという価値観が当たり前になりがちです。私もそうでした。しかし、ラボでの活動を通して世の中の当たり前に対して「本当にそうなのか?」と問いを立てる力が身につきました。

いまのご時世、AIを使えばそこそこ綺麗なデザインがつくれてしまいますが、デザインの領域は目に見えるものだけでなく、課題提起や戦略、コンセプトなど目に見えない部分まで広がっています。特にソーシャルデザインは、その目に見えない部分を考え抜く力が試される分野ですので、そういった思考力を身につけたい人にとっては最高のフィールドだと思います!

兵藤海さん、水島素美さん、鴻戸美月さん

取材・文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:加藤雄太 編集:萩原あとり(JDN)

東京デザインプレックス研究所
東京・渋谷にあるデザイナー・クリエイター育成の専門校。昼間部1年制と、土・日・平日夜・昼間短期集中クラスが用意されている。

【専攻】
グラフィック/DTP、WEBクリエイティブ、クリエイティブデザイン、商空間デザイン、インテリアデザイン、CAD/3DCG、UXリサーチ、UI/UX、デザインストラテジー、デジタルコミュニケーションデザイン(昼間部1年制)、空間コンテンポラリーデザイン(昼間部1年制)、WEBインタラクションデザイン(昼間部1年制)
https://www.tokyo-designplex.com/