博物館を象徴する「恐竜の塔」-福井県立恐竜博物館リニューアルプロジェクト(1)

[PR]
恐竜の塔

世界三大恐竜博物館に挙げられている日本有数の博物館「福井県立恐竜博物館」が、開館から23年の時を経て、2023年7月にリニューアルオープンした。展示の入れ替えや新館の建設などがおこなわれたリニューアルオープン後1年間の入館者数は118万人を突破し、過去最高を大幅に更新した。

話題の一つである新館のシンボルモニュメント「恐竜の塔」や、本格的な化石の研究が通年楽しめる「化石研究体験」をはじめとした、新館内の展示制作・施工、さらに博物館全体のサイン計画を含む設計は株式会社丹青社が、建築設計は黒川紀章建築都市設計事務所が担当した。

本記事では、福井県立恐竜博物館の宮田和周さん、黒川紀章建築都市設計事務所の斎藤織江さん、丹青社の大倉聡明さん、篠原宏一さん、倭文諭さん、野本真紀子さん、森川佳喜さんの7名に、それぞれの目線からこの一大プロジェクトを振り返っていただいた。

※斎藤さん、森川さんはオンライン参加

博物館を象徴する「恐竜の塔」、誕生秘話

――まずは今回の増改築にあたり、博物館ではどのような課題や要望があったのか、お聞かせください。

宮田和周さん(以下、宮田):福井県立恐竜博物館は、2000年に開館した、国内最大級の恐竜を専門とした古生物の博物館です。リニューアル前では年間最多で94万人もの方が訪れ、特に夏休みやゴールデンウィークに来館者が集中する施設でした。

2024年には北陸新幹線が福井まで延伸され、さらなる来館者の増加が見込まれていたため、博物館の機能強化と来館者の満足度向上を目指したのが、このプロジェクトの出発点です。

宮田和周

宮田和周(みやたかずのり) 福井県立恐竜博物館 探究・体験課長。福井県立大学恐竜学研究所客員教授。今回の博物館リニューアル(増改築プロジェクト)の「化石研究体験」で中心的な役割を果たす

大倉聡明さん(以下、大倉):丹青社では、増築された新館および本館に新設されたキッズスペースやライブラリーなどを新たに整備し、ホスピタリティ面を強化しました。また、「化石研究体験」など通年楽しめる体験型コンテンツを設け、どの季節に訪れても満足していただける施設づくりを目指しました。

大倉聡明

大倉聡明(おおくらとしあき) 株式会社丹青社 CMIセンター 空間メディアプロデュース統括部 デザインディレクター。商業空間をはじめ展示会などのイベント・エンタテインメント空間のデザインなど、幅広い専門知識を活用した、デザイン・設計業務を行っている。今回のプロジェクトでは全体のディレクションを手がけた

――新館の吹き抜け部分にできた「恐竜の塔」は、このプロジェクトを象徴する存在だと思いますが、どのように誕生したのでしょうか。

宮田:新館ができるにあたり、博物館の研究を示すシンボリックなものを見せたい、という期待がありました。博物館で発掘された化石や研究成果をベースにした展示を希望していたなか、「福井県では新種の恐竜が数多く見つかっているので、それらの恐竜を紹介するのはどうか」と丹青社さんから「恐竜の塔」の提案をいただきました。

恐竜の塔

新館の吹き抜け部分に誕生した「恐竜の塔」。全長13メートルのタワーには福井県で発見された恐竜(鳥類を含む)があしらわれている。上から「フクイラプトル、フクイプテリクス、フクイベナートル、フクイサウルス、コシサウルス、フクイティタン」

大倉:既存の本館と新たにできる新館をつなぐ動線上に3層吹き抜けのホールがあり、ここに福井の恐竜世界を象徴するシンボリックなものをつくれたらと思いました。最初は恐竜化石の発掘にちなんで大きな石をドーム内に配置し、そこに福井の恐竜を集めるのはどうかと考えていましたが、斎藤さんから建築設計の観点でアドバイスをいただき、タワー状にするアイデアを思いついたんです。

斎藤織江さん(以下、斎藤):吹き抜けはタマゴ型のドーム内部にあり、1階から地下2層分をエスカレーターで移動する動線になっています。降りていくにしたがってワクワク感が盛り上がり、現代から恐竜の世界にタイムスリップするような体験になればとお伝えしました。

斎藤織江

斎藤織江(さいとうおりえ) 株式会社黒川紀章建築都市設計事務所 設計部 課長。本プロジェクトがスタートした2019年から基本計画から基本・実施設計、現場管理業務まで携わっていた

――特にこだわった点や難しかった部分はありましたか?

大倉:正面からのビジュアルはもちろんですが、吹き抜けのどこから見ても楽しめるという条件をクリアすることに苦労しました。また、恐竜の塔はエスカレーターの間の限られたスペースに設置する必要があり、実物大の恐竜を配置しつつ、エスカレーターから手を伸ばしても届かない安全な距離を保つ設計が求められたことも大きな課題でした。

3Dで作成した建築データとタワーの模型データを組み合わせて、さまざまな角度から干渉がないか検証を重ねました。しかし、データ上では問題がなくても、現場では人の手で組み立てる際に多少の誤差が生じることがあります。

実際に一度恐竜を設置した際、固定部分と台座が合わず、再度工場に持ち帰って加工し直したこともありました。施工の際、恐竜の尻尾がエスカレーターに当たらないかなど、ハラハラする場面もありましたね。

恐竜の塔 設営作業中の様子

設営作業中の様子

斎藤:現場ではみなさん声掛けがすごかったですよね。恐竜を据え付ける時も「もっとこっち!」「いまだ!」と十数名で作業をされていたのが印象的でした。実際にできた恐竜の塔は恐竜が斜めに設置され、見る場所によって恐竜の重力が感じられないようにも見え、素敵なデザインだなと思います。

無彩色の恐竜が生む、空間の調和

――恐竜の色が統一されているのは空間のトーンと合わせるためでしょうか?

大倉:はい、建築との調和を意識し、無彩色にすることにしましたが、色については議論を重ねました。

宮田:近年、恐竜の色に関する研究が進んでいますが、シンボリックな展示としては、過去の生物として登場させるなら色をつけない方がいいと判断しました。結果的に、この空間にとてもマッチしたものになりましたし、新たなフォトスポットとしても人気です。

大倉:タワーをつくるにあたり、鉄骨の柱をあらかじめ建築の方で設置していただいた後に、当社で展示造作を施工しました。まさにこのタワーは建築との合作。しかも福井で発見された原寸大の恐竜が一堂に会する展示として、福井らしさを表現できたのではないかと思います。

「恐竜の塔」設置の様子

「恐竜の塔」設置作業中の様子

次ページ:4つの体験で化石研究を体感