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ユニバーサル・サウンドデザイン 代表取締役 中石真一路 「新発想のスピーカーは、偶然の発見から生まれた」
テーマ

「コミュニケーションサポートシステム」

  • ユニバーサル・サウンドデザイン 代表取締役/中石真一路

新しい潮流を起しているプロジェクトから、「問題解決方法のヒント」や「社会との新しい関係づくり」を探る、「デザインの波」。 第3回目のゲストは、難聴者にも聴こえやすいスピーカー「COMUOON(コミューン)」を開発したユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏。

構成/文:神吉 弘邦、撮影:真鍋奈央

身体的な障害のうちでも、外観から分かりにくいのが難聴。意思疎通が図りにくいことで生まれるコミュニケーションのギャップを、どう解決するか。サウンドデザインという観点から挑んだのが、ベンチャー企業のユニバーサル・サウンドデザインだ。音楽再生スピーカーの開発段階でたまたま気づいた音の特性にヒントを得て、これまでなかった製品ジャンルを切り拓いた。「壊れたコミュニケーションを修復したい」と語る、開発者の声を届ける。

新発想のスピーカーは、偶然の発見から生まれた

以前に在籍していたレコード会社で新規事業を立ち上げるプロジェクトがありました。そのとき「スピーカーを開発させてほしい」という僕の案が採用されたんです。面白いものを探すうち、慶應SFCの武藤佳恭教授にお会いして「遠くの場所に音を届けるスピーカー」を開発されていると知りました。

当初はその技術をPAスピーカーに応用できないかと思ったのですが、残念ながらその音はあまり向いていなかった。でも、検証中に教授が「難聴の人が聴こえやすいらしい」ということをポツリと仰ったんです。たまたま僕には中途難聴者の父がいたから「何で聴こえるんだろう?」と不思議に思ったんですね。特定の音が聴こえると分かったので、それを極めるべく研究者に方向転換したのです。

中石真一路(なかいししんいちろう)
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社代表取締役。熊本YMCA専門学校建築科卒業後、技術営業施工管理に従事。その後デジタルハリウッドに入学。卒業後は12年間にわたりwebディレクターおよび、プロジェクトマネージャーとして大手webサイトなどの市場調査、サービス開発、有料サイト立ち上げに従事。前職のEMIミュージック・ジャパンおよび、NPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会にて約3年の研究の末、「スピーカーシステムによる聴覚障害者の情報アクセシビリティ」という新しい分野を確立する。2012年4月に実父と共にユニバーサル・サウンドデザイン株式会社を設立。

1年間の研究の後、「COMUOON(コミューン)」の最初の試作品ができました。その後にNPOを設立して、試作機を貸し出しながら検証を進めました。この頃からずっと「コミュニケーションサポートシステム」と呼んでいます。以前から対話支援という目的は変わっていません。

COMUOONを試してもらうと、難聴の人にとって聴こえが良くなるけれど、意識しないと使っていることを忘れてしまうくらいの装置だと思います。通常ですと発話者の声とスピーカーからの音、双方から音を出すと遅延が発生したり、声が違うなどの違和感が出てしまうものです。「COMUOON」の場合はそれを感じさせないよう、さまざまな工夫を行っています。

構造と基盤の設計でノイズのない音をどうつくるかが大事ですね。量産の家電ではないから、際(きわ)を調整しながら改良を加えられす。今のロットは100台ほどで、商品ごとにディビジョンを4回くらい変えています。楽器づくりの世界にたとえれば僕がマイスター役です。難聴者の方が聴こえやすくなる音というのがあるので、基盤の段階から最後に聴こえる音まで全部チェックしています。でき上がった製品を難聴者に聴いてもらい、合格したら出荷です。

ものづくりはチームづくり。つくり手も、受け手も「物語」が必要

全てのプロジェクトに当てはまりますが、「この製品は必要なんだと分かってもらう」ことが最初のデザインだと思います。1人でつくれないものをつくるのだから、自分がやりたいことの未来を見せて、共感した人に来てもらう。ものづくりはチームをつくることから始まります。

製品の前には「物語」が必要です。ストーリーをつくると、そこに乗る役者が登場できる。そのとき、役割が被る人を外すようにしています。例えば野球でもバンドでも同じですね。アドバイザー的に入るならいいのですが、サードがセカンドのプレイにケチを付けたりしだすとチームがバラバラになりやすい。

「COMUOON」はトランスフォーム(変形)するスピーカー。“「どう使うんですか?」と興味を持ってもらう形がまず大事です。僕たちが目指しているのはドーンと構えた従来製品でなく、音でなんぼの勝負です”と中石氏は語る

回路設計はできても機構設計はできない人がいるとします。そこに機構設計のプロが加わり、さらにプロダクトデザイナーが参加する、というかたちが理想です。すると、それらの得意分野をつなげて動かす役割が必要になる。僕が今やっているのはその役で、チームをうまく回転させ、ケンカさせるときはさせる。メンバーに「それじゃユーザーは満足しないですよ」と発破をかけると、鼻息が荒くなる。役者がそろってるのだから、そこに演出が要るんですね。

偶然に起きたことですが、佐賀県の工場へプロトを持っていったときの話です。ユニバーサルデザインを推進する県の担当者に事前に頼み、難聴者の方に10人くらい声をかけて集まってもらったんですね。工場のエンジニアの前でデモをしたのですが、普段は筆談が必要な人なおばあちゃんが「聴こえます、こんなに話ができる」と泣き出してしまった。それを見て県の人が本気になって、エンジニアも絶対につくってやる!という気になってくれました。「本当に必要とされている」のが分かれば、ものづくりに携わる人は燃えるんです。

難聴者のなかにはスピーカーに恐怖心を持つ人もいるのでフォルムも工夫。開発当初はいわゆるスピーカーらしいソリッドな形状で親しみを持てるものではなかった(写真右)。医療現場などでのデザイン検証を経て、現在のサイズと形状にたどり着いた

ユーザーも背景を欲しがっています。その製品はなぜつくられたのか。いったい誰がつくったのか。それらを見せた方がいいと思うんです。マーケティングの結果、世の中に同じような製品が一杯あふれている。ネットで調べれば一番安いものが買える。そうではなくて「どうして生まれたのか」が分かる、共感できる製品が求められていると感じます。

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