ミラノデザインウィーク2017 インタビュー/倉本仁(JIN KURAMOTO STUDIO)

ミラノデザインウィーク2017 インタビュー/倉本仁(JIN KURAMOTO STUDIO)
建築や自動車、ディスプレイ用ガラスを中心に製造・販売をおこなうAGC旭硝子。第3回目の出展となる今回は、クリエーションパートナーに多彩なジャンルの製品デザインに携わる倉本仁さんと、ロンドンを拠点に活動するデザインスタジオ・Raw-Edgesを迎えた。テーマを「Touch」とし、従来のガラスのイメージを覆す、“ガラスに触れる”という新たな視点からガラスを見つめる展示を行った。倉本仁さんとAGC旭硝子の広報、宮川卓也さんに出展後の率直な感想や現地での反応などをうかがった。
“ガラスに触れる”というあたらしいテーマ設定

倉本仁さん(以下、倉本):もともと建材として広く世の中に使われるようになったガラスですが、いまはスマートフォンやタブレットPCなどのカバーガラスを触らない日がないくらいだと思います。そういうガラスの表面のサラサラ具合や厚みって実はすごく技術が進化しているんですけど、あまり知られていない。世の中に広まっていない技術開発にもっと触れてほしいという思いから、「Touch」というテーマが生まれました。

(写真左から)倉本仁さん、Raw-EdgesのYael MerとShay Alkalay。ガラスに「触れる」という行為に着目し、来場者を新しいガラス体験に導くオブジェを5つ作り出した

(写真左から)倉本仁さん、Raw-EdgesのYael MerとShay Alkalay。ガラスに「触れる」という行為に着目し、来場者を新しいガラス体験に導くオブジェを5つ作り出した

宮川卓也さん(以下、宮川):たとえば数字や言葉で「30%改善しました」って言っても、実際に触ってみないと良さはわからないですよね。普段は意識して触るというよりは、無意識の状態でガラスに触れていると思うんです。小さい頃に学校の先生や親に「ガラスは危ないから触るな!」って言われてたものに逆に注目してもらって、触れる(ふれる)というところに新しいガラスの使い道があることを体感していただきたかったんです。

そこで今回、倉本さんとRaw-Edgesに来場者を新しいガラス体験に導くオブジェをつくり出してもらいました。

ガラスのおもしろさや素材の特性をわかりやすく伝える

倉本:プロジェクトにあたり、ショールームや製造している工場に行き、ガラスにまつわる先端技術をたくさん知りました。実はすごい曲がるんだとか、薄くするとすごくしなやかな素材になったり、想像していたよりガラスはいろんなことができるんだなと。その体験を「Touch」という展示に絡めて、来場者にも実感してもらえる仕組みをつくろうと思いました。遊んでいただけのつもりが、知らないうちにガラスの魅力や知識を持ち帰ってもらえたらいいなって。

ただ、ガラスが素材としてどこまでできるかっていう知見が僕らにそこまでなかったので、とにかくたくさんの模型や提案を宮川さんや技術チームに見てもらいました。ガラスでできた階段とか、すごく柔らかい抱けるガラスとか(笑)。“新しい体験”というキーワードからいろいろアイデアを出して、その中で、できる・できないをみんなで判断していきましたね。言葉にするとすごく先進的な技術を、いかにわかりやすく感情豊かに伝えるかというところがいちばんおもしろくて難しいところでした。

倉本さんデザインの「ドラム」。会場ではちょっとしたセッションがはじまるほど大人気だった

倉本さんデザインの「シーソー」

倉本さんデザインの「モビール」

宮川:私としては、今日は何を持ってきてくれるんだろう?と、楽しみな日々でもありました。ドラムの時は弊社(東京・丸の内にあるAGC旭硝子本社)までポリバケツで持ってきてくれて、オフィス街でかなり目立ってましたね(笑)。

倉本:最初は光やセンサー系を使ったインタラクティブなものとか、自分の持っているスマホと連動するってアイデアも考えてたんです。でも打ち合わせを重ねていくうちに、とにかく「プリミティブ」にしようと新しいワードが出てきたんですね。テクノロジーを使わずに、ガラスの素材だけで新しい体験をつくろうと決まりました。公園にある遊具のように、子どもが考えずに遊べるような、ただ揺れるだけとか、叩いて音が出る、隠れることができるとか、要はシンプルにそぎ落としていったんですよ。

プリミティブな魅力を持つ、ガラスという素材

倉本:ガラス自体が4,000年も前から使われているプリミティブな素材ということも、シンプルにしていった理由のひとつかもしれません。

宮川:ガラスってメソポタミア文明の頃からずっとあるんです。実は現在もまだ、固体か液体かが決まっていなくて、ガラスって何かが明確に定義できていないんですよ。その都度の文化や文明にあわせて進化してきた、おもしろい素材なんです。

倉本:板ガラスは今回はじめて扱ったんですが、苦労した点は明解で、「ガラスは割れる」ってことですね。ほかの素材で、たとえば金属はちょっとグニャって曲がったり、木のイスとかは壊れ始めるって予兆があるんですけど、ガラスの場合は壊れ始めた瞬間に割れるんですよね。1か0かで、ちょっと失敗したら完全な失敗になっちゃうところがあって。何度も何度も模型つくって調整しながら、割れたから少しやり方変えましょうって繰り返しました。本当にAGC旭硝子の技術チームの助けがないと難しかったですね。

宮川:もちろん作品としては失敗になるかもしれないですけど、私たちは割れることも1つの機能として捉えています。ある程度割れないといけない場面があって、たとえば自動車のフロントガラスが割れなかったら事故を起こした際に頭蓋骨が損傷する恐れがあったり、割れないと脱出できないとか、使い方にもよりますけど、単に割れないことがいいことだとは一概に言えないという素材でもあるんです。

“人が入り込む余地”をつくる会場づくり

倉本:たくさんの人に実際に体験してもらうことを目的としたので、会場づくりもこれまでのドラマチックな完成した美しい空間から、オープンで人が入り込む余地がある、ある種、脇の甘い空間をつくりました。ガラスってキレイで神秘的なイメージがあって、ガラスが「楽しい」という面でうまくいっているものは見たことがなかったので不安は少しありましたよね。

宮川:AGG旭硝子は今年9月で創立110周年になりますが、いろんなことをやってきた中で「ガラスを通じて人が笑っている」っていうシーンをつくるのは、私たちにはなかなかできたことがなかったんです。でも今回、たくさんの人が参加してくれるにぎやかな展示会となりました。

倉本:展示会って神妙な顔をしている人が多いんですけど、子どもも大人もワイワイ参加できる展示になったんじゃないかなと。現地でパーカッションやってる人に誘うように音出してもらったりはしましたけど、いろんな人が入れ替わってずっとドラムを叩いたり、モビールがくるくる回るのを見ていたり、シーソーに触っていましたね。ガラスの展示会なのにずっとライブ会場みたいになってました。スタッフの男性陣が、ドラムを叩くのが日々上手になっていたのが印象に残ってますね(笑)。

All Photo: Akihide Mishima
構成・文:石田織座(JDN編集部)

倉本仁(JIN KURAMOTO STUDIO)/デザイナー
物事のコンセプトやストーリーを明快な造形表現で伝えるアプローチで家具、家電製品、アイウェアから自動車まで多彩なジャンルのデザイン開発に携わる。国内外のクライアントにデザインを提供。iF Design賞、Good Design賞、Red Dot Design Awardなど受賞多数。

【関連イベント】
Touch ~ミラノサローネ2017 帰国展~
会期:2017年7月4日(火)~7月29日(土)
会場:AGC studio 1階エントランスギャラリー
開館時間:10:00~18:00(日曜・月曜・祝祭日 休館)

Touch ~ミラノサローネ2017 帰国展~ 開催記念講演会
日時:2017年7月6日(木)18:30~20:00(18:00~受付)
会場:AGC studio 2階 会議室
出演:倉本仁
定員:70名(事前申込制)
参加費:無料(参加方法など詳細は下記サイトを参照ください)
https://www.agcstudio.jp