新たな試みにも挑戦、勘違いからスタートした「GOKITA HOUSE」

五木田智央インタビュー(1)

新たな試みにも挑戦、勘違いからスタートした「GOKITA HOUSE」
アートシーンとカルチャーシーンの境界線を溶かすような、強烈なインパクトを残す作品を発表してきた五木田智央さん。2014年にDIC川村記念美術館で開催された、「五木田智央 TOMOO GOKITA THE GREAT CIRCUS」でも唯一無二の存在感を見せつけた。

精力的な活動を続けてきた五木田さんの最新作を含むソロエキシビジョン、”[the MOTHER of DESIGN] GOKITA HOUSE”が東京・新丸ビル7階の「丸の内ハウス」で開催中だ。五木田さんにとって初の試みとなる巨大なバルーン作品や、これまで国内で発表されることの少なかった立体作品なども展示されている。日々制作に真摯に向き合いながら、遊び心も忘れないポップで重量感に満ちた作品世界についてうかがった。

勘違いからスタートした「GOKITA HOUSE」

山本宇一さんとテイ・トウワさんから声をかけていただいたのがきっかけです。最初は趣旨をまったく勘違いしていて、テイさんのイベントで何かやるんだと思っていたんですよ。ちょうどテイさんのジャケットもつくっていたので、「じゃあ、アナログジャケットに何かペイントしましょう」とか話してたら、「違う違う、五木田さんの個展をやってくださいよ」と言われて、「あれ?そういう話だったんですか?」となって(笑)。その話が5月末くらいだったかな。

その時点で、11月にアメリカのマイアミで個展が開かれる話が決まっていたから、正直どうしようかなあ……と思いました。突然お話をいただいたものの、頭の中はマイアミの個展のことしかなかったから。企画者の西山裕子さんから「巨大バルーンで作品をつくってみませんか?」という提案をいただき、ちょっと面白そうだったので「やってみたいです!」と返事しました。けっこう昔につくった20cmくらいのフィギュアがあって、それを巨大化したものが今回の新作「EL MANPO」です。7階までエレベーターで上ってきて、ドアが開くといきなりコイツが出迎えてくれます。

五木田智央さんと自身初の巨大バルーン作品「EL MANPO」

五木田智央さんと自身初の巨大バルーン作品「EL MANPO」

展覧会のタイトルは、展示会場の「丸の内ハウス」から、細野晴臣さんの「HOSONO HOUSE」(1973年に発表されたソロ第1作)のことを思い出して、じゃあ「GOKITA HOUSE」でイイじゃん!とノリで決めました(笑)。

展示に関しては緻密に計算して計画を立てるタイプではないですけど、けっこう会場を見てから考えますよ。美術館で展示するときも、デカければ良いというわけではないので、ちゃんと観やすくて収まりの良いサイズにしたりとか。

今回は旧作と新作の年代がバラバラなので、うまくまとまるかなーと思ったんですけど、意外にスッとまとまっちゃって。ちょっと反抗して、エキセントリックで変な展示にしてやろうかとも思ったんですけど、やっぱりわざとらしいのはやめようと素直に展示しました。

朝8時から規則正しくキャンバスに向かう

モノをつくる人は意外に平凡なものですよ。ぽんぽんインスピレーションが湧いたりするわけじゃないですからね。けっこう規則正しい生活を送ってますし。朝6時ぐらいに起きて、味噌汁をつくって、家族と朝ごはんを食べて、8時くらいにはアトリエに行って「さあ、やろうか」という感じです。

GOKITA HOUSE

で、まあ昼飯食うと眠くなるので、必ず昼寝をするようにして(笑)。また描き始めて、でも、集中力が持つのは、6時半から7時くらいまでですね。それ以上やっても上手くいかないのは長年の経験でわかっているので。会社員じゃないですけど、「はいおつかれ!また明日!」みたいな感じです。

もちろん、めちゃくちゃ調子が良くてノリノリの時もありますけど、かなりきちっとやっています。

迷いの中で見つけたシンボリックで怪しげなグラデーション

白から黒、黒から白のグラデーションを発見したのは偶然で。たまたま絵の具で遊んでいたら、このグラデーションを見つけました。それが2002年とか2003年とか。その頃はどーんと落ち込んだ時期で、何を描いて良いかわからなくなった時でした。この時期にアメリカに呼ばれるようになってから、グラデーションの手法を発見して、良いタイミングでガッと変わりました。この時はまだ紙の作品ばかり描いていましたね。

GOKITA HOUSE

日本と海外だと反応の違いはありますよね。海外の人は同じことやっていても反応が早いんですよ。2002年とか2003年頃にニューヨークで展示してから、急にギャラリストから声がかかるようになって、なんだかわからないうちに今に至ります。

国内では「Tシャツとかつくってるヤツだろ?」くらいに思われているんじゃないかな。川村美術館で個展をやったことで、それまで僕のことを知らなかった人には画家と思ってもらえたかも知れないですけど。

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