A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの終わらない旅

©️ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Olivier Baco

2023年10月、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEがパリのHôtel du Grand Veneurで2日間限りの特別展示「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE: So the Journey Continues」をおこなった。2021年にブランドが立ち上がってから、パリでは初となる発表だった。

デザインライターの角尾舞さんが現地で取材を実施。今回の特別展示について、また今後のブランドの姿勢について、このチームを率いる宮前義之さんに聞いた。

「A-POC」の先へ

©️ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Olivier Baco

「A-POC」は「A Piece of Cloth」の略で、イッセイ ミヤケに通底する思想である「一枚の布」を名前の通り体現してきた。1998年に斬新なアイデアとともに発表されたこのブランドの名を引き継ぎ、2021年に宮前義之さんがエンジニアリングチームとともに立ち上げたのが、現在の「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE )」である。

プロダクト的な衣服のあり方を提案すると同時に、横尾忠則さんや宮島達男さんなどのアーティストのほか、デザイナーの狩野佑真さんや、メタマテリアルなどの研究開発をするNature Architects社、あるいはソニーのような大企業も含め、幅広い人やチームとのコラボレーションによるプロジェクトを、ブランドの立ち上げ以来次々と発表してきた。

©︎ISSEY MIYAKE INC.

今回パリで新しく発表したのは、「TYPE-I MM project」。同プロジェクトでは、指揮者の井上道義さんとそのもとに集まったオーケストラ全員を一人ひとり採寸し、それぞれの楽器の特性や体型に合わせて衣服を構築した。

会場の地下では没入的な映像空間が設計され、A-POC ABLEの衣服をまとった演奏者たちが演奏する様子が見られた。映像は、山中有さんが撮影したものだ。ブランドの立ち上げ直後から企画していたプロジェクトだったという。

「畑に種をまいて、一所懸命に水をあげて育てているような感覚です。料理人が畑に行って、育った野菜を見ながらレシピを考えるのに近いかもしれません。芽が出ない種だってありますしね」と宮前さんは話す。現在も、数えきれないほどのプロジェクトを同時並行で進めているという。

旅は続く

©️ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Olivier Baco

「A-POC ABLEはプロダクト的な発想と作り方のシリーズ『PRODUCT TYPES』と、『PROJECT TYPES』と呼ばれる異分野・異業種との協業を同時にやっています。インダストリアルな衣服であるPRODUCTは一度パターンを決めたら大きくは変えません。

しかしPROJECTでは、三宅がこれまでいろいろなことをしてきたように、素材の開発や外部とのコミュニケーションを含めて新しい挑戦をする。そうしないと、進化が止まってしまうので。自分が20年ほど三宅と一緒に仕事をして学んできたことを、もう一度社内の仕組みに取り入れていきたい気持ちがあるんです」と宮前さんは言う。

今回のパリでのインスタレーションも二部構成だった。会場の一階ではPRODUCT TYPESのシリーズが並び、地下1階では横尾忠則さんや宮島達男さん、そして先述した井上道義さんとのプロジェクト紹介がなされた。

「今回のテーマは『So the Journey Continues』です。ブランドの活動を、旅に見立てています。旅といっても、すべての行程が決まっているようなものではなくて、どこかに行ってふらっと誰かと会うような、それに近いことを私たちはイッセイ ミヤケのものづくりでやっていて、それがずっと続いていくという気持ちです」。

©️ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Olivier Baco

会場構成は建築家の中原崇志さんが担当。マネキンはすべて3Dプリンタでオリジナルに出力されたもので、それぞれのプロジェクトに合わせて制作されている。軽量で分解できるため、すべて日本から運ばれてきた。自然光の入る一階の会場と、没入感のある地下の会場が対照的だった。

今後のA-POC ABLEの活動について、宮前さんは以下のように話す。

「三宅のすごいところの一つは、人を育てることでした。人が成長するための場としてブランドやチームをつくってきたので、そういったことをA-POC ABLEでもできたら素敵だなと思っています。

アートとか大学の研究とか企業とか、いろんな人を巻き込むと外の風が入ってきて、自分たちも新しいものの見方ができるようになる。そういうことが企業の活動としても大事だし、発信することで活動に共感してくれる人たちがまた寄ってきてくれるようになるので、新しいプラットフォームをつくりたいです。ものをつくるための環境や仕組みづくり、そういうものがデザインにとって一番大事な気がしています。

色や形だけを決定するのがデザイナーの仕事という時代は終わったので、仕組みと同時にものを作っていく活動が、A-POC ABLEでできたらいいなと」。

新しい実験と協業を繰り返し、次々と見たことのない衣服やアイテムが発表されるA-POC ABLEの活動は、外から見ていてもわくわくしてならない。今後もきっと、誰も知らなかったつくり方や素材の衣服が軽やかに生まれ、育っていくのだろう。

宮前義之さん

宮前義之さん

取材・文:角尾舞 写真提供:イッセイ ミヤケ(宮前さんポートレート以外)