デザインのチカラ

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INTERVIEW 12 SEIKO セイコーウオッチの「ダイナミックレンジ」を感じるデザイン

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INTERVIEW 12

SEIKO セイコーウオッチの「ダイナミックレンジ」を感じるデザイン

セイコーウオッチ株式会社 商品企画本部 デザイン統括部 シニアデザイナー 丸山哲朗氏、デザイナー 松江幸子氏、デザイナー 久保進一郎氏

2012.12.05

新生「Seiko Design Project 2012」

プロダクトに限らず、ソフトウェアやインタラクティブな作品も対象にした新しい試みでセイコーのブランド力をアピールする
プロダクトに限らず、ソフトウェアやインタラクティブな作品も対象にした新しい試みでセイコーのブランド力をアピールする

8年間継続してきた「セイコー パワーデザインプロジェクト」は、セイコーウオッチとしての当初の目標をほぼ達成した。そこで、さらにセイコーホールディングスがウオッチ・クロック以外のグループ内デザイナーにも参加を呼びかけ、新たな切り口で企画されたのが「Seiko Design Project 2012」だ。

丸山:セイコーホールディングスが主体となり、セイコーウオッチ、セイコークロックに限らず、今回の会場となった和光をはじめ、機器デザインをしているセイコーインスツル、眼鏡の企画をしているセイコーオプティカルプロダクツのメンバーに声をかけ、公募の形で作品を募ったところ、最終的に120を超える作品が集まりました。
募集に際して与えた仮のテーマは、「あっ!」。世の中を驚かせる、あるいは、日常の一瞬から人の一生まで、全く違う長さを捉える意味の深い言葉として設定しました。パワーデザインプロジェクトは、プロダクトを提案するかたちをとりましたが、今回はセイコー全体のブランド力をアピールする狙いもあり、プロダクトの枠を設けず、ソフトウェアでもインタラクティブな作品でも構わない、という公募条件にしたことも新しい試みです。
集まった作品を俯瞰してみると、目立つのは「モノよりコト」。ある意味、日本的な美意識に根ざした、人生や日常、思い出といった場面を切り取ったようなアイデアが多かったですね。

こうして、普段は接点のない製品を手がけているデザイナーたちの力を総合し、「時のカタチ 間のカタチ」をタイトルとしたデザイン展が2012年12月に開催される。

デザイナーが提案する「これからの時計」

「Seiko Design Project 2012」において、セイコーウオッチのメンバーが手がけた作品は、3つある。

松江:まずひとつめの作品が「見える約束」です。これは親が子どもに貼ってあげるシールで、時間の経過と共に絵が消えていくようになっています。その時間単位は、5分や1時間などさまざま。たとえば「この時計が消えたら帰ってきてね」というように、目盛りや針で表示しない、タイマーシールです。まだ時計を読めない子どもたちを想定しました。約束の時間をわくわくドキドキ楽しみながら、社会習慣として、時間の認識の仕方もサポートする提案です。

「子どものためのはじめてのセイコー」では、公共の場所で馴染みのあるセイコーの時計を、子どもの目の高さにリデザインしました。
公園などによく設置されている時計には、実はセイコーグループ製もよくみかけますが、ある意味、こうして記号化されている時計もセイコーの財産なんです。基本的なデザインを踏襲しながら、文字を少し丸くしたり、裏側には歯車を付けて回せる仕組みにしたり…。子どもの目の高さにすることで、時計を中心にしたコミュニケーションが生まれるのでは、と期待しています。

3つ目が「Very personal Seiko」です。
通常、商品としてお客様のところへ届いた時計がその後、どのような対話を生んでいるか、メーカーは全く知ることができないのですが、買った方にお話しを伺い、デザイナーがリメイクしてお返しする、という実験的な作品です。時計の提供は歌人の穂村弘さんにご協力いただきました。
穂村さんのエッセイで、セイコーの時計をオークションで落札したという話を読んだ時に、時計に対する愛情を強く感じたことがきっかけです。独立多眼が特徴的なキネティッククロノグラフを手に、未来感を語る穂村さんのお話に、さらにインスピレーションを得て、「宇宙人とコンタクトするための時計」をテーマに、実際の私物をリメイクしました。

いずれも個人と時計の関わりや、時計と一緒にどのような時を過ごすか、という着眼点から生まれた3作品。このほかに7作品、計10作品が展示される。

肌に貼った瞬間からだんだん色が変わり、やがて消えていくことで約束の時間がきたことを教えてくれるシール「見える約束」
肌に貼った瞬間からだんだん色が変わり、やがて消えていくことで約束の時間がきたことを教えてくれるシール「見える約束」
時にまつわる原風景にセイコーがあればと願い、公園の時計をリデザインした「子どものためのはじめてのセイコー」
時にまつわる原風景にセイコーがあればと願い、公園の時計をリデザインした「子どものためのはじめてのセイコー」

デザイナーとして大切なこと

「自分の美学、審美眼を養ってほしいですね」(丸山氏)
「自分の美学、審美眼を養ってほしいですね」(丸山氏)
「使う人のことをリアルに考えたデザインを大切に」(久保氏)
「使う人のことをリアルに考えたデザインを大切に」(久保氏)
「あまり尖りすぎず、バランスのいい配慮が求められているのでは」(松江氏)
「あまり尖りすぎず、バランスのいい配慮が求められているのでは」(松江氏)

最後に、腕時計という非常に複雑かつ精密でなければならないプロダクトを手がけるデザイナーにとって、必要な資質や心構えについて聞いてみた。

丸山:いまは各種ツールも発達していて、デザイン画だけを描くなら美大で学ばなくても誰でも描くことができる時代です。だからこそ、自分の美学、審美眼を養ってほしいですね。何が美しくて何が美しくないのか、自分なりに判断ができることが大切です。さらに突っ込んで、どこが美しいと感じたのか、また逆ならばなぜなのか分析する。そしてより良くするためにはどうしたらいいのか、考える訓練をしてください。対象はプロダクトでなくて構わない。街中にあるものでも、観劇でも、着るものでもいい、自分の中での美の確立が大切じゃないかなと思っています。日々、意識して自分の物差しを鍛えることが必要でしょう。細かいことにも目を留めて見過ごさない。特に、若いデザイナーやデザイナーを目指す人には、自分には関係ないと決めつけず、いろいろなことを経験してほしいですね。

久保:腕時計はかなりパーソナルな製品なので、自分がデザインするときには、誰かにプレゼントしたいとか、自分が買うならこれがほしい、とリアルに思えるもの、本当にお金を払う価値のあるデザインしかアウトプットしないように心がけています。
ただ、もちろん商品はブランドのものですから、自分とはちょっと違う感覚を持つ人のことも、リアルに想像してデザインします。そういうデザインに取り組んでいる時の自分との葛藤が一番おもしろいのかもしれません。結果、客観性が極まり社内での評価も高く、売れ行きも良いことが多いです。

松江:時計の展示会で最も大規模なのが、スイスのバーゼルワールドです。そこで感じるのは、ブランドの歴史や商品としての社会性が重視されることもあり、やたらと新しいものを受け入れる業界ではないということ。身につけるもの=その人、という腕時計は、モダンすぎるデザインだと、お客様を遠ざけることもあり得るんですね。だから、あまりデザインだけが尖りすぎないように、自分の気持ちに調整をかけることが多いかもしれません。個人的には突っ走る性格が強いのですが、そこは冷静になり、バランスよく踏みとどまりながら、お客様に寄り添うための配慮をすることも、デザイナーに求められるのだと感じています。


Seiko Design Project 2012
会期:12月6日~12月12日 10:30~19:00(最終日は17:00まで)
場所:銀座・和光本館 6F和光ホール
URL:http://www.seiko.co.jp/sdp/

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