デザインのチカラ

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INTERVIEW 21 Honda 軽自動車の先入観を打破し、走る喜びをデザインで表現

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INTERVIEW 21

本田技術研究所 四輪R&Dセンター 軽自動車の先入観を打破し、走る喜びをデザインで表現

本田技術研究所 四輪R&Dセンター 杉浦良氏(デザイン室 1スタジオ 研究員) 稲森裕起氏(デザイン室 1スタジオ) 落合愛弓氏(デザイン室 3スタジオ)

2015.07.22

ホンダ「S660(エスロクロクマル)」は、「ビート」以来およそ20年ぶりのホンダによる軽自動車規格オープンカーだ。前身からの大きな飛躍と先進性を期待されたデザインは、どのようなプロセスを経て実現したのか。エクステリア、インテリア、カラー・マテリアルのデザインを担当した杉浦良氏、稲森裕起氏、落合愛弓氏が語った。

コンセプトカーから軽自動車規格へ

2011年の東京モーターショーで発表された「EV-STER(イーブイ スター)」。それがS660のデザイン面での出発点だ。もともと、社内コンペから軽スポーツカー企画が生まれていたのだが、その開発が凍結されてしまった。それをうけて、開発チームとデザイン部門がそれぞれに独自プロジェクトを進め、デザイン部門から提案されたのがEVによる先進スポーツ「EV-STER」。そして2013年の東京モーターショーで発表されたのが「S660 CONCEPT」。S660は、こうした流れをうけて2015年に発表・発売された。

「スポーツドライビング、着る感覚の一体感、オープンキャビン」をコンセプトに、着る感覚のパッケージを目指したS660。そのエクステリアデザインを担当した杉浦良氏は、企画スタート時から量産モデルまでデザイン開発に携わってきた。

杉浦良
杉浦 良 すぎうら りょう
デザイン室 1スタジオ
1999年入社。フィットとシティのエクステリア先行開発とインサイトのエクステリアを担当。その後、インサイトマイナーチェンジのエクステリア・プロジェクトリーダーを経て、EV-STER、S660 CONCEPT、S660のエクステリア・プロジェクトリーダー。

杉浦:EV-STERでは、「ADVANCED EXITEMENT」をキーワードに、まずアイデアスケッチを展開していきました。僕自身の考えですが、小さいスポーツカーには「ザ・ホンダ」と呼べる個性が備わっています。そこに、ホンダらしい先進性、かつ、長年ホンダを愛してくださっているベテランユーザーにも納得してもらえる魅力を持たせるべきだと考えながら、キースケッチを決定していきました。

方向性が決定すると、クレイ(粘土)を使ったスケールモデルの制作に進む。1/4スケールモデルを自ら削り、破綻している部分はないかどうかなど細かな部分までチェックしながら、再びデザインを描いてはクレイモデルで立体化する、という検討を繰り返す。

杉浦:最初は、あらゆる方向性を出し尽くす気持ちでアイデアを広げましたが、小さいという個性を大事にするポイントはおさえています。より身近な存在に感じてもらえるでしょうし、手元に置いておきたいとか、眺めているだけでも嬉しい気持ちになれるとか‥‥‥。たとえば、高性能でデザイン的にも素晴らしいカメラを手に入れたら嬉しくて、見ているだけでも酒がおいしく飲めるように、優れた品質のものが放つ独特な所有欲を満たす車をイメージしました。雑念というか余計なものが混じらず、とてもピュアな仕上がりになったと自負しています。

短い開発期間だったが、スピード感ある開発によって、アグレッシブでスピーディなスタイリングの車が実現。2011年の東京モーターショーへ出展し、海外でも披露された。確かな手応えを経て、量産開発が始動することになっていった。

S660パッケージデザインのコンセプト
S660パッケージデザインのコンセプト
EV-STERのエクステリアデザイン、アイデアスケッチ、方向性決定、モデル製作
EV-STERのエクステリアデザイン、アイデアスケッチ、方向性決定、モデル製作

デザインはスポーツです

量産開発では、EV-STERを軽自動車で実現する方向性となった。開発チームに設計担当者が加わり、まず、EV-STERを軽自動車規格にダウンサイジングしたクレイモデルを試作した。まだ荒削りな状態ではあったが、スタイリングが成立する、と実感したのはこのときだった。
エクステリアデザインコンセプト「ENERGETIC BULLET」
エクステリアデザインコンセプト「ENERGETIC BULLET」
エクステリア量産レンダリング
エクステリア量産レンダリング

杉浦:社内の評価も高く、まさに次世代ホンダのスポーツカーとしての佇まいもありました。設計と共に開発を進めるにあたって、それまでデザインで追求してきた良さを殺さないように心がけていくプロセスに入っていきました。

コンセプトに立ち返り、新たなキーワード「ENERGETIC BULLET」を加えた。弾丸のように高密度で勢いがあり、その力を包み込むサーフェスは躍動的で情緒感を漂わせる、というスポーツカーらしい魅力の訴求を開発チームで共有するためだ。

杉浦:スポーツカーなので、ロー&ワイドなスタイリングとホンダの先進性を意識して量産開発を進めていきました。僕はよく「デザイン作業はスポーツと同じです」と説明するのですが、カーデザインの仕事では感性や感覚だけでなく、体力と精神力も非常に問われます。

1/1スケールのモデル制作では粘土をひたすら盛っては削る作業を繰り返し、床に這いつくばってクレイまみれになりながらテーピングして形を追求する。設計担当者とは、安全性のためのハードポイントを確認しつつ、スタイリングを決めるほんの数ミリ単位でせめぎ合いながらも互いに歩み寄り、協力する。インテリアやボディカラーも含め、あらゆるセクションと議論を尽くすのも、エクステリアデザイナーの役割だ。

杉浦:日々、形を変えながら、より良い形を目指す中で注力したポイントは多くありますが、クローズモードもその一つです。日本ではルーフを開けて走行できる季節が限られているので、閉めたときにもスタイル良く見せるワンモーションフォルムと、動きのあるウェッジボディを際だたせるのがルーフを閉じた状態の姿。そして、ヘッドライトやリヤコンビネーションランプでは、ロー&ワイドボディを強調するために、灯体のグラフィックを工夫し、前後共にLEDを多く採用しています。最初から最後まで関わり、自分自身でも納得できるデザインにまとめられたのは、幸せなことだと感じています。

S660として2013年東京モーターショーに出展し、さらに細部まで追求した量産開発は、こうして完成した。

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/