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INTERVIEW 23 Sony 新規事業を加速するサイトを独自展開-First Flight

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INTERVIEW 23

Sony 新規事業を加速するサイトを独自展開-First Flight

ソニー株式会社 新規事業創出部 小田島伸至氏(担当部長)、小澤勇人氏(FF事業室 統括課長)

2016.01.29

ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」、その名の通りアイデアの「種」を促進させるプログラムだ。2015年7月にオープンしたクラウドファンディングとEコマースのサイト「First Flight(ファースト・フライト)」は、そこで生まれた事業を積極的に展開するためのプラットフォームであり、すでにいくつもの革新的な試みが商品化を実現している。

意欲があれば誰でも参加可能、新規事業チャレンジの場

「First Flight(ファースト・フライト)」が誕生した背景には、2014年4月、CEO直轄組織として新設された新規事業創出部でスタートした新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」(以下、SAP)の存在がある。既存の事業領域に当てはまらない新規事業のアイデアを社内から広く集め、スタートアップに必要な資金や人材、ノウハウを提供するための組織だ。3か月に1度、社内で開催するオーディションを通過していくと事業化にチャレンジできるなど、新しい取り組みを実践している。SAPを率いる新規事業創出部 担当部長 小田島伸至氏は、「一般的にイメージするベンチャーというよりも、社員が活躍できる事業をひとつでも多く立ち上げたい」と話す。

小田島伸至(以下、小田島)「実際にSAPをはじめたところ、予想以上にたくさんの手が挙がりました。募集段階での選別はしません。ワールドカップに出るくらいの意気込みの人もいれば、週末サッカーくらいの人もいるという状況ですが、それで構わないのです。新しいことをやりたい人、ものづくりが好きなエンジニア、そういうDNAがソニーの社内にはあります。まずは意欲があれば誰でも参加でき、どこかに関わっていく形を目指しています」

新規事業創出部 担当部長 小田島伸至氏

新規事業創出部 担当部長 小田島伸至(おだしましんじ)1978年3月生まれ、埼玉県出身。2001年東京大学工学部卒業後、同年よりソニー(株)入社、デバイス営業へ配属。2007年~2011年デバイス営業としてデンマークへ海外赴任。2012年に帰国後、本社の事業戦略部門に配属。ソニーのイノベーション力向上に向け、ボトムアップで新規事業創出を促す社長直轄の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」を立案。2016年現在、新規事業創出部の担当部長として、イノベーションを創発するエコシステムの企画推進や、新規案件の事業化支援を先導。Qrio株式会社とエアロセンス株式会社の事業経営にも携わる。

ソニー本社内に、SAPの活動を支援するメーカースペース「クリエイティブラウンジ」も開設した。3Dプリンタや簡単な工作機など、ものづくりに必要な機材が用意されており、さまざまなトレーニングやワークショップにも適している。

小田島「クリエイティブラウンジはオープンから現在までに約16000人の利用者があり、トレーニングには1000人もの参加者を記録しています。過去5回のオーディションには約500件の応募があり、常にいくつかの案件が進行中です。SAPは例えるなら、見習いパイロットが経験とトレーニングを積んで飛び立つまでのホームベースでしょうね」

ソニー本社内に開設された、SAPの活動を支援するメーカースペース「クリエイティブラウンジ」

ソニー本社内に開設された、SAPの活動を支援するメーカースペース「クリエイティブラウンジ」

SAP始動から2年目に、消費者との新たなタッチポイントとして立ち上げたのが「First Flight」だった。可能性のある新規事業アイデアから生み出された商品だからといって、すぐに販売することは難しい。売れるかどうか分析するのにさえ、膨大な時間と費用がかかってしまう。「First Flight」はその解決策のひとつでもある。

小田島「狙いは大きく3つあります。まず、ソニー社員以外の声を拾うこと。ふたつめは、筋の良さそうなものはまず70~80%まで仕上げたうえでクラウドファンディングで世に問い、フィードバックを得ながら120%を目指して磨くためにお客様の反応を開発に活かすこと。そして、身の丈にふさわしい市場で実績が出たら、大きくしていくこと。『First Flight』は、世の中の目利きと、プロジェクトの開発力、販売能力を育てる枠組みです」

オフラインでの交流を重視、リアルな意見が開発の後押しに

「First Flight」のプロジェクトマネジャーを務める小澤勇人氏は、プロジェクトチームのメンバーと支援する人の声を結びつける役割を担っている。「いかにチャレンジャーが巣立つ土壌を豊かにできるか」、あらゆる方向性から新規事業を支える立場にもある。

プロジェクトの開発力と販売能力を育てる枠組み「First Flight」のロゴは、飛び立つ見習いパイロットをイメージした飛行機がモチーフ

プロジェクトの開発力と販売能力を育てる枠組み「First Flight」のロゴは、飛び立つ見習いパイロットをイメージした飛行機がモチーフ

小澤勇人(以下、小澤)「アンケートやヒアリング調査を経て、商品化するアプローチは従来からありましたが、商品価値に対して対価をお支払いただいたお客様からフィードバックをいただき、お客様と共に開発してくというのは新しい方法です。自分事として向き合ってくださったお客様がひとつのアイデアをどう感じているか、クリアに可視化されることは、お客様にとっても、開発者にとっても魅力的な姿だと思います。『First Flight』では、アイデアを工場とつなげたり、率直な意見を公表したり、商品を届けたり、といった開発者と、お客様の理想的なコミュニケーションを生みだすのが私の仕事です。より円滑なコミュニケーションのために、オフラインのイベントを仕かけるなど、お客様と直接対話する機会も大切にしています」

新規事業創出部 FF事業室 統括課長 小澤勇人氏

新規事業創出部 FF事業室 統括課長 小澤勇人(おざわはやと)1979年5月生まれ、東京都出身。2005年東京大学大学院工学系研究科を卒業後、同年よりソニー(株)入社、半導体事業本部へ配属。エンジニアとしてPSP搭載の小型パッケージ技術開発から量産までを経験したのち、2008年~2014年企画職としてWALKMAN、XPERIA Tabletの商品、アプリケーション企画に携わる。2016年現在、新規事業創出部でクラウドファンディングとEコマースを兼ね備えたサイト「First Flight」のプロジェクトマネージャーとして、新規事業創出活動に従事。

「First Flight」には支援者のほぼ半数がコメントを残してくれている。ネガティブなコメントはいままで1件もなく、魅力的な新しい機能の提案があり、事業化を目指すメンバーにとって励みになり、オフラインのイベントでの意見には心を打たれると言う。

小澤「まだ道半ば、というより、まだ2割。熱量の高いお客様とプロジェクトチームを集めていきたいし、SAPのプラットフォームとして、アイデアの魅力に共感してくださったお客様から少しずつ広がるのが理想です。お客様とプロジェクトチームと共にブランドを構築し、少しでも多くの方々に伝えていくために貢献していきたいと思っています。ここに来ればいちばん早く夢が実現できる、そんな場所になることを目指しています」

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1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/