デザインのチカラ

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INTERVIEW 22 Haier 既成概念を捨て去り、新しい家電を世に送り出す

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INTERVIEW 22

ハイアールアジアR&D株式会社 デザイングループ 既成概念を捨て去り、新しい家電を世に送り出す

ハイアールアジアR&D株式会社 デザイングループ 草瀬真吾氏(ディレクター)、小助川和宏氏(マネージャー)、石浜真也氏、佐藤周氏

2015.09.16

ハイアール アジアが日本と東南アジア向けに展開する家電ブランド、AQUA(アクア)の勢いに注目が集まっている。従来の洗濯機や冷蔵庫とは一線を画す発想はどのように生まれ、実現できたのか。各製品のデザインに迫る。

デザインはオフィスでしない

2015年6月に国内で発売開始した全自動洗濯機「SLASH(以下、スラッシュ)」は、手前に傾けた洗濯槽「スラッシュ・ドラム」が特徴的だ。目に鮮やかなレッド、ブルー、ゴールドの個性的な3色展開も斜めのドラムを強調している。

デザインを担当した ハイアール アジア R&Dデザイングループ ディレクター草瀬真吾氏は、以前の所属である三洋電機時代から白物家電を中心に手がけてきた。現在は、京都の開発部門に席を置いているが、ハイアール アジアの伊藤嘉明CEOからは「デザインはオフィスでするな」と良く言われるのだとか。

草瀬 真吾
草瀬 真吾 くさせ しんご
ハイアールアジアR&D株式会社 デザイングループ ディレクター
1986年三洋電機株式会社入社後、先行開発・調理小物・洗濯機などのデザインに従事。後にシリーズ家電・デザイン企画を担当。「AQUA」のロゴデザインも手掛ける。現在ハイアールアジアの商品全般のデザインマネジメント&ディレクションを担っている。
石浜 真也
石浜 真也 いしはま しんや
ハイアールアジアR&D株式会社 デザイングループ
2009年入社。中国市場、タイ、インドネシア、ベトナムなどの東南アジア各国に向けた冷蔵庫デザインを担当。現在、冷蔵庫や洗濯機といった既存家電の枠にとらわれない製品やサービスのデザインに携わっている。

草瀬:三洋電機時代の冷蔵庫と洗濯機のR&D全体が、ハイアール アジアに移っています。当時のデザインチームはそれぞれの開発部に属していました。伊藤CEOが就任してからは、デザインチームが伊藤CEOの直轄部署として1部門に統合されました。現在は領域を超えて様々なデザインを手がけるようになっています。

拠点としては、埼玉県熊谷市に冷蔵庫、京都市に洗濯機のR&Dがあるが、それらは一つのチームとして運用され、スタッフは横断的に新製品を開発している。異なる背景・視点を持つデザイナーが混ざることで、専門の縛りにとらわれない活動を目指している。

草瀬:家電っぽいデザインはするな、とも言われています。洗濯機や冷蔵庫の垣根をまたぐ、という意味であると同時に、『抜き勾配が…』『生産性が…』など、デザイナーとして当たり前の前提と考えてしまう条件も、売り場やお客様の視点から見直せ、という姿勢です。

既成概念を捨て去って、ものづくりを考え直すというスタンスが、「デザインはオフィスでするな」という言葉に込められている。「発想を自由に、いろいろなものを見てアウトプットすべきだと捉えている」、そう語るのは同じくハイアールアジアR&Dデザイングループの石浜真也氏だ。

石浜氏の前職は、遊園地のジェットコースターなどのアミューズメント機器メーカーでのデザイナー。ハイアール アジアでは、東南アジアや中国向けの冷蔵庫を中心に、東京・丸の内と熊谷を行き来しながら、幅広い領域のデザインに関わっている。

石浜:デザインはどこでもできる。だから、デザイナーは、開発拠点のロケーションに縛られることなく動ける環境にいるべきだと思っています。我々は、工業デザイナーと名乗っていてはいけないんですね。伊藤CEOは、我々に『ビジネスクリエイターであれ』と言います。お客様のためになっているかどうか常に意識しながら、技術に沿った形をデザインするだけではなく、幅広い視点で全体を捉えながら提案する力が求められています。

アジアのニーズがヒント、全自動洗濯機「スラッシュ」

スラッシュの特徴的な機能である斜めドラムは、三洋電機の時代から製造していた機構だが、日本市場向けの製品は久しく出ていなかった。一方で、ベトナムでは継続して発売されている人気の製品でもあった。ベトナム女性の平均身長が154cmと小柄なことから、衣類の取り出しやすさが好評で、シェアの首位を占めてきたのだ。
全自動洗濯機「SLASH」、蓋を閉じた時に見えるボタンは二つのみ
全自動洗濯機「SLASH」、蓋を閉じた時に見えるボタンは二つのみ
小柄な女性にも衣類を取り出しやすい
小柄な女性にも衣類を取り出しやすい
煩雑になりがちな操作系は側面に集約し、手前に作業スペースも生まれた
煩雑になりがちな操作系は側面に集約し、手前に作業スペースも生まれた

草瀬:家電のコモディティ化を意識する中で、ブランド名を隠してもアクアの製品だと認識してもらえるように、そして、ブランド認知度を上げるためにも再度、スラッシュに取り組むべきだと判断されたのです。ですから、デザインとしては、パッと見ですぐに分かってもらえるような形を意識しました。

外観デザインのアイキャッチになるのは、正面の形と色、そしてミニマムな操作ボタンだ。

草瀬:量販店の店頭に並ぶことを考慮したとき、多色展開してこそ目立つのではないかという社内の後押しもあり、3色展開を実現できました。今までの洗濯機のように、家庭内で目立たなくていいという考えとは真逆の発想です。また、ボタンが多い方が高機能を訴求しやすいのですが、今回はシンプルな表現に絞り込みました。外側の蓋を上げれば、各種のボタンで細かな設定をできるのは従来通りですが、外側に見えるのは二つのボタンと洗濯の残り時間を示すインジケーターだけです。

手前の操作部を側面に移動することで、洗濯槽全体を10度傾けて、その洗濯槽の形状に従う丸い開口が可能になった。結果として生まれた手前のスペースは、ちょっとした作業スペースとして予洗い等にも活用でるようになった。

草瀬:四角いブロックに円筒形を入れ込んだような形は、製品全体から醸し出すアイコン性も重視したイメージです。苦労したのは、全面に大きく張り出した丸みのある部分。技術担当者には、『こんな形状できるか』と一度は突っぱねられましたが、鉄板の本体と樹脂製のパネルを合わせる構造に苦労しながらも実現しました。

ドラム式洗濯機の流行が落ち着きつつある今だからこそ、縦型全自動洗濯機の利点を再認識してデザインしてみよう、という試みでもあった。

石浜:これがアクアブランドとして世の中に出したかった形です。家電は「家の電器」と書きますが、長年続けてきたこの「家電」の枠を脱し、アクアブランドとしては価値を伝える「価電」、可能性を拡げる「可電」を目指していきたいと考えています。今後も他社とは一線を画した切り口により、これまでと違うデザインを出していきたいと考えています。

今後は、このスラッシュを基点に、上位、下位機種を開発する予定もある。まだまだ洗濯機の可能性は広がると見込む。

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/