デザインのチカラ

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INTERVIEW 12 SEIKO セイコーウオッチの「ダイナミックレンジ」を感じるデザイン

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INTERVIEW 12

SEIKO セイコーウオッチの「ダイナミックレンジ」を感じるデザイン

セイコーウオッチ株式会社 商品企画本部 デザイン統括部 シニアデザイナー 丸山哲朗氏、デザイナー 松江幸子氏、デザイナー 久保進一郎氏

2012.11.21

デザイナーが個々の力で挑む「セイコー パワーデザインプロジェクト」

2002年から2009年まで、毎年一般に公開する展覧会形式で開催され、時計のデザインが秘める様々な可能性を新鮮なスタイルで披露してきた「セイコー パワーデザインプロジェクト」。2009年のプロジェクトディレクターを務めたデザイン統括部・丸山哲朗氏は、8回目のテーマ「ASTRON 40」についてこう振り返る。

丸山:2002年から2008年までパワーデザインプロジェクトを続けたことによって、各デザイナーの経験値も上がったと実感していました。そのため、そのまま継続するのではなく、2009年は「クオーツアストロン」の発売40周年を好機と捉え、自分たちのヘリテージに立ち戻ろうと考えたのです。

世界初のクオーツウオッチ クオーツアストロン(1969年) 2012年「アストロン」の名は世界初のソーラーGPSウオッチに引き継がれた
世界初のクオーツウオッチ クオーツアストロン(1969年)
2012年「アストロン」の名は世界初のソーラーGPSウオッチに引き継がれた

それまでのプロジェクトがどちらかというと、デザインの価値自体に注力する方向性が強かったのに対し、「ASTRON 40」では、温故知新、ブランドの価値を改めて見直すことを軸にしながら進めました。

「アストロン」は、1969年にセイコーが世界で初めて商品化したクオーツ式腕時計だ。この「アストロン」オリジナルモデルを、7名のデザイナーが各々の感性でアレンジ。実在の時計をテーマにしたのはパワーデザインプロジェクトで初めての試みだった。

丸山:我々自身にとっては「アストロン」の史実を現在の価値に展開するとどうなるかという課題でもありました。普段、デザイナーがやっていないことにプロジェクトとして取り組んでみるのは、非常に意味のある試みです。そして、腕時計の現在の立ち位置を見つめるためにも重要だと考えています。

第8回セイコーパワーデザインプロジェクト「ASTRON 40」
第8回セイコーパワーデザインプロジェクト「ASTRON 40」
60年代のテキスタイルをモチーフに当時の空気感を伝えたデザインや、祝いの胸章を表現したデザイン
60年代のテキスタイルをモチーフに当時の空気感を伝えたデザインや、祝いの胸章を表現したデザイン

こうして開催された8回目のパワーデザインプロジェクト「ASTRON 40」では、輝かしい歴史を記念するスタイルでまとめたもの、アストロンという言葉からヒントを得た宇宙的なコンセプトのものなど、計40本の時計が発表された。

丸山:伝えたかったことは、我々のデザインが世界初の「アストロン」から40年間続いている事実、そして、腕時計はたったひとつのデザインからテイストも価格もまったく異なるモノに生まれ変わる可能性を持っているということでした。元となるアストロンの形には手を加えずに、参加デザイナーの個性と、腕時計が持つダイナミックレンジの広さを、表現することができたと実感しています。

日常とは異なるプロジェクトでの成果

プロジェクトの第1回目からデザイナーとして参加、またコミュニケーションデザインも担当してきた松江幸子氏は、この活動の成果について語った。

松江:意外に、模範的にまとまろうとする力のほうが強く働くようで、「何やってもいいんだよ!」と言ってしまう場面が多かった気がしますね。最終的には呪縛?から開放され、参加したなりの手応えは誰にでもあったと思います。それは、結果としての形よりも、普段とは違う視点から形を導いた経験そのものかもしれません。例えば、今まで使ったことのない素材や、通常ではありえないスペック…つまり、商品となると価格との折り合いを常に考えなければいけないのですが、もっとニッチな世界にお客様がいることを想定し、実際に提案してみて初めてわかることがたくさんあると思います。多くのお客様に見ていただいているプロジェクトなのに、その「プロセスが成果」だったとは、内向きな感想になってしまうのかもしれませんが、個々のデザイナーの大きな糧になるのが、こうしたプロジェクトであり、結果としてブランドの魅力づくりにつながるのだと思います。

プロジェクト初回から運営を取り仕切り、リーダー的役割を担う松江氏
プロジェクト初回から運営を取り仕切り、リーダー的役割を担う松江氏

丸山:通常の業務では、常にブランドヴィジョンを基準に、適切な形であらわすことを目指していますが、このプロジェクトでは、メンバー自身が基準になるものさしを探すことから始めなければなりません。その意味で普段、あたりまえに意識しているコストやターゲット、技術的な制約条件などを、越えたとことにある「セイコーにとって何が必要なのか」、から始まって「自分の強みは何なのか」、「自分は何がやりたいのか」、突き詰めてほしいと期待してきました。
でも、何も制約がないとなると、素の自分をさらけ出すことになるので勇気がいるものですよね。普段とは別の意味で、ハードルが高いデザインへの取り組みになっていました。

そして2012年、新たな枠組みによる初めてのデザインプロジェクトが実施されることになった。

7名のデザイナーが各々の感性でアレンジした40本の時計の一部
7名のデザイナーが各々の感性でアレンジした40本の時計の一部
こうしたプロジェクトが個々のデザイナーの大きな糧になる
こうしたプロジェクトが個々のデザイナーの大きな糧になる

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/