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INTERVIEW 24 WHILL “車いすに見えないこと”を目指した、パーソナルモビリティ「WHILL Model A」

INTERVIEW 24

“車いすに見えないこと”を目指した、パーソナルモビリティ「WHILL Model A」

WHILL株式会社 CEO 杉江理氏

2016.04.28

街中を自由に走れる4輪駆動の電動車いす「WHILL Model A(ウィル・モデル・エー)」。スタイリッシュなデザインであることから、これまでの車いすのイメージとは大きくかけ離れている。スイッチを入れて行きたい方向にコントローラーを傾けるだけで楽に走行できる。高い走破性と小回りを両立させる特別なタイヤにより、7.5cmの段差を乗り越えたり、砂利道やでこぼこ道など悪路の走行もこなす。「WHILL Model A」は2015年度のグッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞し、話題を呼んだのでご存知の方も多いかもしれない。このモデルを開発したのが、今回訪問するWHILL株式会社だ。同社のオフィスがある横浜市鶴見区の横浜市産学共同研究センター実験棟を訪れ、CEOである杉江理氏にお話を伺った。

「WHILL」という名前に込められた思い

会社名であり、商品名にもなっている「WHILL(ウィル)」は語感がよく、親しみやすい名前だ。会社のロゴマークもシンプルで力強いデザインになっている。色がブルーであることも、見る人に柔らかい印象を与える。

杉江理(以下、杉江)この名前は、未来や意思を意味する「will」と、車輪を意味する「wheel」を組み合わせ、「未来、意思のある車輪」という意味で名付けた造語です。「新しい車輪というカテゴリーの移動体」という意味を込めました。

WHILL ロゴマーク

WHILL ロゴマーク

ロゴマークに添えたシンボルには2つの意味があります。1つは、WHILLの基本コンセプトである「いかに自由に動けるか」ということです。まさに飛んでいるように、グライダーに乗っているかのように自由に動けるという意味を込めて、グライダーをイメージした形にしました。もう1つは、矢印にも見える形で、前に進んでいる様を表しました。「前に、自由に、移動がスムーズにできる」というような思いも込められて作られたシンボルです。

ベースの色については、たとえば黄色や赤の場合、黄色と言えばバナナ、赤と言えばりんご、という風に形のあるものをイメージする場合が多いと思います。でも「青」の場合は、空や海といった、無形のものをイメージすることが多い。青にしたことで「形にできないもの」や「無限」など、動きのある自由な感じを表しました。

杉江理(すぎえさとし)

杉江理(すぎえさとし)1982年生まれ、静岡県出身。日産自動車開発本部を経て、一年間中国南京にて日本語教師に従事。その後2年間世界各地に滞在し新規プロダクト開発に携わる。元世界経済フォーラム(ダボス会議)GSC30歳以下日本代表。WHILL 最高経営責任者(CEO)兼 WHILL Inc.代表取締役。

「WHILL Model A」の社会に溶け込む先進的な思考

元々、自動車メーカーの開発部隊に勤めていたという杉江氏。このテーマに取り組もうと思ったきっかけについて話してもらった。

(杉江)車いすに乗る方から、「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」という話を聞いたのがきっかけの1つです。あきらめてしまう大きな問題点は、2つあります。

1つは車いすのイメージがあまり良くないということ。もう1つは、通路に溝があったり砂利道があると、通常の車いすでは走行に苦労してしまって行けない場所があるということです。この2つの問題点を解決したい、という思いから「WHILL Model A」の開発が始まりました。2010年にスタートし、2011年には東京モーターショーでプロトタイプを発表しました。そこで世界各国からいろんな反響があり、2012年に起業しました。

「WHILL Model A」は、スタイリッシュなデザインで、未来志向の乗り物のように思える。一度動いているところを見ると、誰もが乗ってみたいと思わせるようなデザインだ。

(杉江)“新しい歩道の移動体を作ろう”と進めていったので、そういう意味では今までの電動車いすのイメージではない、新しいものになったと自負しています。

「WHILL Model A」の特徴は大きく3つに分かれる。

(杉江)特徴は大きく3つです。まずスタイルですが、WHILLはすべてが丸と四角で構成されていて、斜めのラインがほとんどありません。斜めのラインは無機質に見えるので、できる限り入れませんでした。

ベンツなどはすごく動物感があると思うのですが、あれは斜めのラインがどんどん入ってくるとそう見えてくるんです。一方、キューブ(日産のコンパクトミニバン)などは四角と丸の構成でできているので、“ぽよん”としたイメージですよね。発想が家電っぽいというか。僕は電動車いすは車と家電の中間だと思っています。例えばスポーツカーみたいなギラギラしたものが歩道を走っていたら、ちょっと嫌ですよね。やはり車いすという乗り物は、社会に溶け込むという意味でも親近感があったほうがいいと思います。

WHILL Model A 全身

2つ目は、4WD(四輪駆動)で高い走破性があるということ。前輪を活かした構造で室内外ともに走行できます。前輪は横方向の24個の小さいタイヤで成り立っていて、さまざまな方向にスムーズに動くんです。小さいタイヤが横方向に動くことで、前輪が横方向への回転を得るわけです。このタイヤのおかげで室内外で小回りが効き、かつ4WDで走破性があるというのが特徴です。

タイヤアップ

3つ目は、ソフトウェアです。ユーザーがリモートコントロールできたり、介護者が後ろから押さなければいけないときにリモートコントロールができたり、またGPSが付いているので、家族の方が使用者がどこにいるのかを見守りたいときに役立ったり、ソフトウェアではそうした機能が利用できます。この3つがWHILLの特徴です。

実際に使うユーザーにとって最も重要なことは、“車いすに見えないこと”なのだという。そのためには、2つの要素が必要になってくる。

(杉江)まず、一般的な電動車いすの基本構成は、ドライブベースの上に椅子が乗っている形です。本来、椅子は室内で止まっているものというイメージがあるので、止まっているはずのものが外を走っていたら、やはりおかしく感じてしまう。これが椅子に見えないことを目指した理由です。カタログの写真も、座る部分の座面よりもハンドルの方が目立つイメージにしています。

もう1つの要素は、乗っている人が移動している姿勢を作るということです。移動している人というのは、車でもバイクでも基本的に手が前に出た形になります。WHILLではアームによって、移動している姿勢を作れる、もしくはそういう風に見せることができます。椅子に見えず、しかも移動している姿勢に見える、これが最も重要な要素です。

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