編集部の「そういえば、」2022年2月

編集部の「そういえば、」2022年2月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

ひとりでつくらないと表現できないこと 『JUNK HEAD』

そういえば、昨年公開されて話題を集めた『JUNK HEAD』がPrime Videoで配信スタートしました。劇場公開時に気になっていたものの観逃してしまっていたので、さっそく週末に観ました。

『JUNK HEAD』は、監督・脚本・音楽・編集・撮影・出演など、堀貴秀さんがたったひとりで何役もこなしながら、7年をかけて制作されたストップモーションアニメーション映画です。公開されてから各所で絶賛の声が上げられる本作は、『シェイプ・オブ・ウォーター』などを手がけるギレルモ・デル・トロが賛辞を寄せるのも納得で、おそろしいほどの完成度で表現された堀監督の頭の中の世界に放り込まれるような気持ちになる作品でした。

新海誠監督による2002年の作品『ほしのこえ』をきっかけに、ひとりで映画を制作するということに可能性を見出したという堀監督ですが、新海監督がコンピュータで制作しているのに対して、『JUNK HEAD』はなにからなにまで手づくり。1/6サイズのセットが実際につくられ、登場するキャラクターたちはプラスチックやゴムなどの素材でつくられ、実際に動かしながらコマ撮りアニメーションとして撮影されています。

以前、湯浅政明監督にインタビューさせていただいた時にもお話しされていたのですが、コンピュータによる制作が当たり前になったいま、「ひとりでなんでもできる」ことが、アニメだけではなく、映画や音楽、さらには雑誌やメディア、本など、さまざまな領域で前提になっていることを感じています。一方で、ハリウッドの脚本づくりのプロセスや、ピクサーにおける「ブレイントラスト」と呼ばれるチームでのストーリービルディングが注目され、ラップミュージックを中心とした音楽の世界でも「コライティング(co-writing)」について多く取り沙汰されるようになりました。

そういった、ひとりで完結できる制作環境を持ちながら、いかに多くのクリエイターとコラボレーションすることが重要かという議論が、ここ10年近くの間にあらゆる領域で起きていて、そういった状況は、たったひとりで制作に取り組むクリエイターたちにとっては、どこか向かい風になっていたのではないかと思います。近年デザインについてのさまざまな領域で議論されるようになったことも、計画や設計を視覚化・言語化することでコラボレーションを活発かつ有意義なものにするという文脈が多かったように思いますし、いかにたくさんの人を巻き込みながら、それぞれが当事者意識を持ったチームをつくるのかといったことが重要視されてきました。

そんな中で『JUNK HEAD』を観ると、なんだか胸のすくような思いがしてしまったのが正直なところです。作品全体に感じるのは、圧倒的な熱量と同時に目に飛び込んでくる「歪さ」。それは集合知的に制作したものからは生まれ得ない表現の極端さであり、まとまらないまま表出している作家の思いでもあります。

ピクサーのブレイントラストというシステムは、全方位的な目配せによっておそろしい完成度の脚本を生んでいるのは確かですが、観る人のこころの中にある、個人的でどこか屈折したような部分には響きにくいのではないかなと思っていて、『JUNK HEAD』はそのもやもやに対して強烈な一手を打つような作品だと感じました。

個人的に、たったひとりで制作された音楽アルバムが子どもの頃から好きで、Ben Kwellerというアーティストが、すべての楽器をひとりで演奏しているセルフタイトルのアルバムのライナーノーツに書かれていた、「ギターを弾きながら歌う人間と、ドラムのライドを叩いている人間が同じであることに意味があるんだ」という言葉(うろ覚えですが)が、いつまでもこころに残っています。もちろん、集合知やコラボレーションのすばらしさというのも日々感じていますが、歌い手自身がライドでリズムを刻むことの価値について、あらためて考えたいなと思いました。

(堀合 俊博)

つい購入してしまう展示の小冊子

そういえば、最近部屋の大掃除と断捨離を行ったのですが、その際に書棚から出てきたZINEや小冊子に改めて見入ってしまいました。こういう書籍に関しては財布のひもがゆるみがちで、年代はバラバラですが、それぞれ展示やイベントで購入したものです。

ひとつめは、昨年春に行われた、イラストレーターの大津萌乃さんの個展で購入したZINE2種類です。レトロな風合いが出るリソグラフ印刷で刷られており、大津さんのイラスト描写にぴったりな印象を受けます。どちらの本も蛇腹折りになっており、「FAR AWEY」のほうは表裏それぞれちがう絵が展開されていて見ごたえたっぷり。

(左)「one piece one scene」(右)「FAR AWEY」

2つめは、アートブックレーベル「DOOKS」から2015年に発売された、アーティストの武居功一郎さんの作品集。Instagramに掲載された武居さんの作品をまとめたもので、白と黒ふたつのバージョンがあるそうです。自分で撮影した写真をデジタル処理することで、油彩画のようなイメージをつくり出している武居さん。氷のような堅い表情の作品から、絵の具を盛り上げてつくったようなものまで、色や形がさまざまでインスピレーションが湧く1冊です。

「100%」

3つめは、2014年に松本と東京にて開催された展示「帽子と詩の巡回美術館」のためのパンフレットとして制作された1冊です。同展は詩人のウチダゴウさんと、帽子作家・小林愛さんが企画したもので、七つの帽子が小林さんにより制作され、ウチダさんは帽子それぞれに対して七つの詩を書き下ろしました。もともとウチダさんの描く字のファンでこのパンフレットを購入したのですが、七つの童話が詰まったような贅沢な世界観があふれる1冊です。

「七つの帽子 七つの詩」

展示やイベントの思い出を少し持ち帰ることができるZINEやパンフレットなどの小冊子。大規模な展覧会のしっかりとした図録はもちろんですが、少し安価で手に入れやすいこともいいポイントだと思います。時間が経っても当時の記憶が蘇ってきたり、ほくほくとした気持ちになるのでおすすめしたい買い物です。

(石田 織座)