編集部の「そういえば、」2021年3月

編集部の「そういえば、」2021年3月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

イラストレーター・大津萌乃さんの個展「靄の町」

そういえば、先日、イラストレーターの大津萌乃さんの個展「靄の町」にうかがってきました。

大津萌乃「靄の町」

会期は3月12日から22日まで、会場は清澄白河のondo galleryで開催されました。

以前、特集記事「クリエイター5人に聞く―2020年、なに買った?」にてタイトルイラストを描いてくださった大津さん。「靄の町」と題した今回の個展では、曖昧でぼんやりした記憶の中の物事や、それらへの憧憬をテーマにした作品を展示していました。

大津萌乃「靄の町」

漫画家が使うようなGペンを使って描かれている大津さんの作品。実際に描かれている線を生で見ると、簡潔ではあるけれど体温を感じる肌のしっとりした質感や、反対に無機物の少しひやりとした感触を想起させるようで、いつまでもじぃっと見ていたくなるような作品ばかりでした。

今回、額装がそれぞれ特徴的なことにもすごく興味を惹かれました。絵の背景はガラスではなくアクリルパネルで、それぞれの作品に合わせてマーブルやすりガラスのような一風変わったアクリルが選ばれていました。

大津萌乃「靄の町」

アクリルは大津さんが「Miyuki acryl」で選んできたものだそう。

いまオンラインで作品を見る機会も増えていますが、やはり実物を拝見すると言い知れぬ存在感があって、こういう機会を大事にしたいなと感じました(もちろん感染症対策はきちんとした上で!)。大津さんは、まだ今年ほかにも個展開催の予定があるそうなので、またJDNのイベントコーナーなどでご紹介したいと思います!

(石田 織座)

視覚効果を笑って学ぶ「THE CORRIDOR CREW」

そういえば、たまたまYouTubeで見つけた「THE CORRIDOR CREW」というチャンネルに最近はまっています。ロサンゼルスの「Corridor Digital」という、CGやVFXといった視覚表現を用いたバイラルビデオや短編映画を制作するスタジオのチャンネルで、視覚効果や映像制作に関連するさまざまな動画が日々アップされています。

中でも、創業者であるVFXアーティストやスタッフが、さまざまな映画のCGやVFXについて解説するシリーズ「VFX Artist React」がとても楽しいので、いくつかおすすめを紹介します。

こちらの動画では、マーベル・シネマティック・ユニバース関連の映画のCGについて解説されています。マーベルの映画に限らず、CGを多用したハリウッドアクション大作において、エイリアンなどのキャラクターが登場した途端に「どうせCGなんだから」といったリアクションが生まれてしまうことはたびたびあると思いますが、「21世紀におけるダースベイダー」を目指して制作された「サノス」という悪役のキャラクターは、CGによってつくられてはいるものの、彼の恐ろしさや悲しみ、怒り、そして狂気というものが、ひりひりと観客に伝わるような表現が実現されています。

ジョシュ・ブローリンという俳優の演技によるモーションキャプチャーが、キャラクターにリアリティと人間味を感じさせる大きな要因となってはいるのですが、この動画では、100%CGによって表現されているサノスの肌や表情がいかに優れているのかがよくわかります。

CGで人間を描こうとする際に発生する、「不気味の谷(uncanny valley)」についてとても詳しく解説されているのがこの動画です。俳優の死や、実年齢とは異なる役柄を演じる必要性によって、最近では映画の中でCGによって実在の人物を登場させる作品がいくつか公開されていますが、観客はそれが生身の人間ではないことを、うまく説明はできないとしても、瞬時に察知してしまいます。ここでは、魂を感じさせるものとしての眼の動きの重要性や、顔のわずかな動きによって生まれてしまう違和感について、『ワイルド・スピード7』『ローグ・ワン』といった作品を題材に解説されています。

最後の1本は、特に一貫した作品が解説されている回ではないのですが、映画の中ではじめてCGのキャラクターが登場した1985年公開の『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』について紹介されている動画です。ステンドガラスから騎士が飛び出してくるという、10秒間の映像の制作に6ヶ月が費やされているというのも驚きですが、はじめてVFXアーティストとしてアカデミー賞を受賞したデニス・ミューランについてや、ジョン・ラセター、スティーブ・ジョブズについても語られているので、VFXやCGアニメーションの歴史のはじまり感じさせる動画としてとてもいいと思います。

現在40本ほど公開されているこのシリーズは、映画好きがそのまま大人になったようなメンバーが、きゃっきゃっとはしゃぎながら映画について話す姿に、ついつい一緒に笑ってしまうほどおもしろいんですが、VFXアーティストが視覚効果による表現を、どのような視点でみているのかがとてもよくわかりますし、映画の中のCGがどのような技術と工程でつくられているのかについて、とても理解が進む動画ばかりだと思います。光と影、表面のテクスチャーなど、シミュレーションによって再現されているあらゆる物理法則に対して、とても分析的な視点から加えられる解説の連続は、映画をみる目が劇的に変わってしまうほどです。

また、彼らがハリウッド産業のど真ん中で働くVFXアーティストではなく、小規模なインディペンデントスタジオを運営しているという点もおもしろいです。いまでは誰でもハリウッドと遜色のない表現ができるほどソフトウェアは進化していて、CGによるクリエイションもテクノロジーによって民主化されていることを、恥ずかしながらようやく知りました。彼らのような、ハリウッドの産業構造から自由なクリエイターたちが、これからあたらしい表現をどんどん生んでいくのかもしれないと思うとわくわくしますし、同時にハリウッドのシステムによって生み出される映画というクリエイションに、あらためて敬意を抱いたのでした。

(堀合 俊博)