編集部の「そういえば、」2022年1月

編集部の「そういえば、」2022年1月
2022/1/31 17:50

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

ウェス・アンダーソン流“dicipline”の更新 『フレンチ・ディスパッチ』

そういえば、ウェス・アンダーソン監督の最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が先週ようやく公開されました。米国では昨年10月にすでに公開されていたので待ち遠しく、公開初週に映画館に観に行きました。

『The New Yoker』の愛読者であるウェス・アンダーソンによる、雑誌やジャーナリストへの愛に溢れた本作は、20世紀フランスの架空の街を舞台にした雑誌編集社のものがたりで、まるで雑誌のページを開くようなビジュアル体験と、アンソロジーを読み進めていくような感覚で楽しめる作品です。

ウェス・アンダーソンのフィルモグラフィーとしては、前作が2018年の『犬ヶ島』で、同作はストップモーションによるアニメーション作品だったため、実写映画は2014年の『グランド・ブダペスト・ホテル』以来。当時、いまはなき渋谷のシネマライズにて観たのを思い出すと、随分と時間が経ったのを感じます。

ウェス・アンダーソンといえば、1本でも観たことがあればそのアイコニックな画面づくりが目に焼き付いてしまうような監督で、『ぼくの伯父さん』のジャック・タチや『散歩する惑星』のロイ・アンダーソンといった監督の画面づくりと共通するものがありつつも、画面に映るもののレイアウトや映画そのものが醸し出す雰囲気から、「これはウェス・アンダーソンの映画だ」とはっきりとわかる作家だと思います。

フィルモグラフィーが更新されるにつれて、徐々にその完璧主義と画面構成力のクオリティが上がっていくのを感じていましたが、『フレンチ・ディスパッチ』においては想像を遥かに超える“ウェス・アンダーソン性”というか、独自の手法がさらに推し進められているように感じました。

なにより全編にわたって手を抜いた画面がワンシーンも感じられないのがおそろしいところ。画面上に映り込む人物や衣装、舞台背景、小物、そして画面の上に配置されるタイポグラフィまで、1mmもずらさないほどの徹底した美意識が画面の隅々から感じられて、カットが変わるごとに独自のアイデアによる驚きがあります。

被写体に対して水平に固定されたカメラというのがウェス・アンダーソン映画の大きな特徴ですが、本作は「なにをどのように固定するのか」のバリエーションも豊かで、俳優の顔や手元、もしくは登場人物の視点などを固定した上で、背景を動かしていく手法であったり、静止画のように俳優たちの動きを止めたまま、横移動することで絵画的なパノラマを表現するなど、これまで試験的に行われていたようなアイデアの数々がより洗練させた映像として観ることができます。固定されたカメラに対して計算された縦横移動とズームイン・ズームアウトを用いることで、レイアウトを崩すことなく映像としての動きを見せる手法の精密さは、もう異常と言っていいレベルだと思います。

基本的な画面の横幅が通常よりも狭く設計されているのも本作の大きな特徴で、場面によって幅が広がったり、右や左に注釈的な映像や文字が挿入されていきます。雑誌を読んでいる感覚を映像に変換する上で、エディトリアルデザインのような感覚が用いられているのが新鮮であり、それもまたウェス・アンダーソン性に溢れています。

ウェス・アンダーソンの映画を見ていると、彼独自の“dicipline=規律”のようなものを感じてしまいます。それは美意識であり、ユーモアの感覚であり、作品全体のリズム感でもあるのですが、観客は映画がはじまってから終わるまで、ひとりの映画監督による“発表会”を、くすくす笑いながら見守るような気持ちになってしまう。それはもしかすると苦手な人からすると、劇場に入ったからには最後まで付き合ってあげるような感覚にも近いとは思いますが、彼のぶれない姿勢と無邪気な探究心の結晶としての作品に、ぼくとしては毎度感動させられてしまいます。本作の情報量の多さにはちょっと観終わって疲れてしまったのですが……観るたびに発見があるような、何度も味わえる映画だと思います。

(堀合 俊博)

絶縁テープがくっついた年賀状

そういえば、今年もグラフィックデザイナーの小玉文さんのものすごい年賀状が編集部に届きました。昨年もこのコラムでご紹介しましたが、小玉さんは毎年壮大なプロジェクトと言っても過言ではないクオリティの年賀状をつくり、送ってきてくださいます。

昨年は牛をモチーフにしたカセットテープ型の年賀状。今年は、なんと虎をモチーフにした「絶縁テープ」が台紙に留められた年賀状です!

表面は虎柄のかっこいい模様になっていると思いきや、よく見ると絶縁テープを含めて「二〇二二」の文字が描かれていることに気付きます。黒い部分が少し盛り上がっているように見えたので、黒い箔押し加工が施されたのかと想像しましたが、実際は黒い台紙に黄色い顔料箔を施しているのだそう。

そして小さく描かれた「BORDER」「BORDERLESS」の文字。ここには小玉さんの想いが込められています。以下、彼女のFacebookに投稿されたコメントを抜粋して紹介します。

「今年のBULLET Inc.の年賀状は、虎の黄×黒のシマシマと絶縁テープを使って二〇二二の文字を描いてみました。コロナの影響で、いろいろなことが分断されてしまった世の中。物事を控えめにしたり、つい諦めがちになったり……。しかしBULLET Inc.は、無駄に凝りまくった年賀状をつくることを今年も諦めていません!!!!!BORDERを、BORDERLESSに。絶縁を越えて。今年も全力で面白いモノをつくっていきますのでよろしくお願いいたします!(小玉文さんFacebookより)」

なお、今回の年賀状の箔押し加工は、昨年と同様に箔押し印刷工房のコスモテックさんが手がけています。今年も年賀状と言うにはとても贅沢に感じる1枚が届き、年の始まりを実感させていただきました。

テープ印刷:ショウエイ
箔押し:コスモテック
型抜き:東北紙業社
断裁:小林断截
インレタ:エイドクラフト

(石田 織座)