編集部の「そういえば、」2021年4月
ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。
どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。
海の中で「他者」と出会うドキュメンタリー
そういえば、今週はアカデミー賞の発表がありましたね。監督賞・作品賞・主演女優賞を受賞したクロエ・ジャオ監督作『ノマドランド』は本当にすばらしい作品なので、納得の結果ではありました。連休中にまだ観ていない作品は観に行こうと思っていたのですが、緊急事態宣言により都内はほとんどの映画館が休館。それでも今年は配信作のノミネートが多かったので、ゴールデンウィークは家で映画を観てゆっくり過ごそうと思います。
『ノマドランド』をはじめ、『ミナリ』や『Mank/マンク』、『シカゴ7裁判』など、すでに話題の作品が多いので観ている人も多いと思いますが、ついつい影に隠れがちなドキュメンタリー部門ノミネート作も見逃せない作品が多いです。特に今年の長編ドキュメンタリー賞を受賞した『オクトパスの神秘:賢者は語る』はとてもいい作品でした。
本作では、ドキュメンタリー映画作家のクレイグ・フォスターが、南アフリカのフォールス湾に潜り、藻が揺れる美しい海の中で出会ったマダコとの関係性を築いていく約1年間が描かれていきます。8本の足と2000個もの吸盤を持つタコが、どのように日々を過ごし、捕食者であるタテスジトラザメ(パジャマのような縦縞が特徴のため、英語名ではpyjama sharkだそうです)から身を隠す姿や、エビなどの餌を追う際の俊敏な動き、そして人間からするともっとも不思議に思える擬態の様子など、あまり目にすることができないタコの生態を、この映画では豊富な映像でじっくり堪能することができます。
そういった、海の生き物についてのドキュメンタリーとして楽しみにあふれた映画ではありますが、マダコと関係性を築くクレイグ・フォスターが、どこか海の底に潜りながら、こころの内面へと深く入り込んでいくような描かれ方をしているところが、この映画がユニークでおもしろいところだと思います。仕事ばかりの日々にこころのバランスを崩してしまった彼が、マダコという「他者」と出会うことで、次第に自分という存在と、コミュニケーションのあり方についての内省を深めていく。
毎日会いに行くことで次第に信頼関係を築いていく彼に、初めてマダコが腕を伸ばして触れる姿には思わず感動してしまいますし、1年間を通したマダコとの関係性と彼の気持ちの変化が、とても美しい映像とともに映し出されていく様子は、どこか個人的に綴られた手記を読んでいるような気持ちにさせられます。
コロナ禍で家からなかなか出られない日々が続き、自然や動物に触れたくなる気持ちでいっぱいになっていたのですが、この映画はそのどちらも満たしてくれると同時に、「他者」との関わり方そのものが大きく様変わりしてしまったいま、どのように自分を見つめ直したらいいのかについて、考えるひとつのきっかけにもなったような気がします。緊急事態宣言が明けたら水族館に行こうかな。
(堀合 俊博)
会期半ばで終了してしまった展覧会をミニレポート
そういえば、リモートワークになって1年以上経過しましたが、2020年に引き続き緊急事態宣言下のゴールデンウィークとなってしまいましたね。前回ほどではありませんが、多くの美術館が臨時休館となり、会期を残して中止になった展覧会や、なかには直前まで準備をしていたけど泣く泣く展覧会自体が中止となったものもあり残念でなりません……。
私もしかりですが、展覧会は会期ギリギリに駆け込みがちな方も多いと思います。今回は、参加できなかった方に向け、会期半ばで終了となってしまった2つの展覧会の様子を紹介します。
●佐藤可士和展
http://kashiwasato2020.com/
国立新美術館にて、5月10日まで開催予定だった「佐藤可士和展」。約30年にわたり第一線で活躍してきたクリエイティブディレクター・佐藤可士和さんが手がけた、多様なクライアントのVI・CI計画やブランド戦略など、活動の軌跡をたどる過去最大級の個展となりました。
会場は、「楽天」「ユニクロ」「T-POINT」など誰もが街で目にしたことがあるロゴが並ぶスペースや、CDジャケットや飲料のパッケージ、道端で通行人に配られるポケットティッシュまでもメディアととらえた斬新な広告展開にまつわるスペースなど大きく8つほどに分かれていました。
来場者の年代にもよりますが、「あ!この広告すごく覚えてる!」「これも可士和さんだったんだ!」といったような声が会場ではちらほら聞こえました。私も学生当時、よく街で目にした広告展開が会場に並んでいて、可士和さんの活動を振り返るとともに自分の記憶をたどるような印象深い展覧会でした。
●DESIGN MUSEUM BOX展
https://designmuseum.jp/topics/2021/02/16/80
Ginza Sony Parkで5月9日まで開催予定だった「DESIGN MUSEUM BOX展」は、NHK Eテレの番組「デザインミュージアムをデザインする」の関連企画の展覧会です。
同番組は、クリエイターが全国の博物館や工芸館、企業などのミュージアムに秘蔵されている宝物を「デザインの眼」で探し、新しい光を当てるというシリーズ。本展では、これまでに番組に出演した5人のクリエイターが行った「デザインの宝さがし」について展示されていました。
参加クリエイターは、建築家の田根剛さん、デザインエンジニアの田川欣哉さん、エクスペリエンスアーキテクトの水口哲也さん、映像作家の辻川幸一郎さん、ファッションデザイナーの森永邦彦さんの5人。
会場の奥には大きな日本地図が描かれたボードがあり、来場者がそれぞれがデザインミュージアムに収蔵したいと思う「デザインの宝物」を記せるような参加型の企画も行われていました。
来年こそ楽しい計画を気持ちよく立てられるようなゴールデンウィークを過ごしたいですね。おうち時間はまだまだ続きますが、読者のみなさんもよい連休をお過ごしください!
(石田 織座)