ミラノデザインウィークMDW—桐山紀行

ミラノデザインウィークMDW—桐山紀行

34年連続のミラノデザインウィーク(以下、MDW)でした。さまざまなところで記述していますように、2005年から日本企業のブランドプロデュースを手がけ、これまで4社1協会の企画、会場、展示制作、設営、運営、PRまで毎年編成したチームメンバーと一丸となってプロジェクトを実施してきました。これまで参加協力いただいたメンバーは、その後、ほかのプロジェクトでも活躍しています。私の編成したチームから人材を輩出するようになったのは嬉しい限りです。

さて、今回も昨年同様グランドセイコーの唯一無二のムーブメント「スプリングドライブ」を訴求するインスタレーションを企画しました。刻むのではなく、流れる“時”をいかに高度に可視化するか随分考えました。そして今回はこの5年間でめざましい活動を見せる、コンテンポラリーデザインスタジオ「we+」の安藤さんと林さんに依頼することにしました。

「THE NATURE OF TIME」をテーマにつくられた、インスタレーション「FLUX」

「THE NATURE OF TIME」をテーマにつくられた、インスタレーション「FLUX」

くわしい説明は省略しますが、さまざまな仮説、実験、実施に向けて、we+を支えた専門家たちの粘り強い働きにはとても感謝しています。しかし、今回の作品には終わりはありません。たぶん私の手を離れても、さらにバーションアップがなされるでしょう。現在、Youtubeにメイキング映像を載せていますのでくわしく知りたい方はぜひご覧ください。

MDWは怖い場所です。この期間中ミラノ市内では、約1,500もの展示や展覧会が行われます。フィエラのミラノサローネと時間を調整し、話題に上がる展示をくまなく潰していくようなハードな一週間です。また、最近の傾向として、ハイテクや映像に頼りすぎる展示はあまり評価されません。観覧者との微妙な距離感を考慮した作品(展示)が求められています。それだけ観覧者も参加できる「劇場型MDW」になってきたと言えましょう。各企業が関係者やインフルエンサーを呼んで開催する前夜祭は重要な会です。ここでどれだけ高い評価をもらえるかでその後の集客数が変わります。私は毎回、最初の5秒の演出に神経を集中しています。

(写真中央)川上元美さんに作品を説明する、we+の安藤北斗さん

(写真中央)川上元美さんに作品を説明する、we+の安藤北斗さん

そんな中で、グランドセイコー「THE NATURE OF TIME」はスカラ座から2分の場所にあるポルディ・ペッツォーリ美術館を借用して開催しました。訪れた日本の来場者や出展者からは、どうやってこの美術館が借りられたのか不思議がられましたが、これも長い蓄積や実績の結果です。展示した展開は、非常にデリケートな時の流れを表現した作品で、多くのイタリア人からは「Complimenti(おめでとう、素晴らしい)」と声をかけていただきました。

会場となったポルディ・ペッツォーリ美術館

会場となったポルディ・ペッツォーリ美術館

インスタレーション作品「FLUX」

インスタレーション作品「FLUX」

例年になく日本企業の展示は増加し、デザイナー個人の展示も含めて活況を呈しています。各社各様、たくさんの工夫をしていますが、共通して言えるのはコアコンピタンスやコンセプトを明確に伝えきれているかです。多少泥臭くても、ハイテクすぎずとも、メッセージが分かりやすくハイセンスに構成されていることが重要です。

MDWでの評価は、今はオーディエンスが握っています。昔のようにメディアが紹介する、考察する時代は終わりました。家具および家具周辺だけだった時代からファッション、クルマ、時計など、ライフスタイル領域でそれぞれのブランド発表の場となりました。そしてオーディエンスは、独自の視点からSNSなどで発信しています。すでに家具やデザイン業界だけの催事ではなくなっています。モノからコトの時代にどれだけの視野角でライフスタイルを捉え、表現するか、一本の映画のような精密なコンテンツの世界が到来しています。

最近ミラノサローネ・MDWの報告会がさまざまなところで開催されています。昔は私もよく定点観測の視点から報告会を開催してきましたが、百聞は一見にしかず、興味がおありでしたら足を運んで、自分の眼で見て捉えた方が良いと思います。その方が時代の空気をリアルに感じることができるからです。昔のよき時代のイタリアンデザインをノスタルジックに懐かしんでも意味がありません。カオステックな状況をきちんと捉えていくこと、その中から次の種を見つける場だと思っています。

最後に、セイコーウオッチのインハウスデザイナーのMDW記が公開されましたので、こちらもご覧いただければ幸いです。

https://www.seiko-design.com/mdw/index.html

デザインディレクター桐山登士樹

桐山登士樹(デザインディレクター)

株式会社TRUNKディレクター、富山県総合デザインセンター所長、富山県美術館副館長。

30年に渡ってデザインの可能性を探り、さまざまな基盤や領域の活動を実践。特に1993年から今日まで「富山県総合デザインセンター」で地域のデザイン振興に携わり、商品化を前提とした「とやまデザインコンペティション」を企画・実施。地域の資産を生かした「幸のこわけ」の企画・商品化で成果を創出。

これまで、YCSデザインライブラリーや富山県総合デザインセンターなどのインフラ整備に参画。展覧会では「ニューヨーク近代美術館巡回 現代デザインに見る素材の変容(1996)」「イタリアデザインの巨匠/アキッレ・カスティリオーニ展(1988)」「日蘭交流 400周年記念 DROOG & DUTCH DESIGN展(2000)」「イタリアと日本 生活のデザイン展(2001)」「80歳現役デザイナー長大作展(2001)」他多数。ミラノデザインウィークでは2005年よりレクサス、キヤノン(エリータデザインアワード2011グランプリ受賞)、アイシン精機(Milano Design Award 2016 Best Engagement by IED受賞)、セイコーウオッチ「THE FLOW OF TIME」を総合プロデュース(2018)。メゾン・エ・オブシェでは、JETRO広報ブース「Japan Style」、伝産協会の海外販路プロデューサーを担う。「2015年ミラノ国際博覧会」日本館広報・行催事プロデューサー(金賞受賞)。共書「ニッポンのデザイナー100人」(朝日新聞社)。経済産業省「世界が驚く日本2016」研究会座長ほか。

http://www.trunk-design.jp/