ミラノサローネ2019—桐山紀行

ミラノサローネ2019—桐山紀行

イタリア・ミラノで4月9日から4月14日まで開催された「第58回 サローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)」。私にとっては34回目となるミラノサローネでしたが、はじめて見本市会場に足を運びませんでした。今年からプレスの登録方法が変わり、そろそろプレス前線からは引退しようと思ったからです。毎年日本から出向いて、ミラノサローネをここまで長い期間紹介してきたのは私以外には、あと数名のデザイナーしかいないでしょう。

Photo:Courtesy Salone del Mobile.Milano_Ludovica Mangini

Photo:Courtesy Salone del Mobile.Milano_Ludovica Mangini

B&B、ガイタノ・ペッシェ「UP5&6」チェアの50周年記念モデルオンリー

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カッシーナ

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第58回 サローネ国際家具見本市は、6日間で181か国から38万6,236人を記録したそうです。昨年に引き続き、すごい来場者数で注目度が伺えます。しかし、一方でイタリア経済の低迷は尾を引いているようです。個人的には昨年で底を脱したと思っていたのですが、今年の感想を数名の友人たちに聞くと新製品は少なく、過去の遺産にぶら下がっている感が強かったといいます。ただ、ミラノサローネの期間中に同時開催されていた照明・ライティングの見本市「エウロルーチェ」には見るべきデザインが数点あったとのこと。

個人的には、日本人デザイナーの活躍が目立った、若手デザイナーの登竜門であるサローネサテリテに行けなかったことが唯一悔やまれます。サローネサテリテに出展したものの中から優れたデザインに贈られる「サローネサテリテ・アワード」にて、1位にKULI-KULI、3位に坂下麦さんという、日本人デザイナーが受賞するといった快挙の年となりました。過去には、トネリコやAZUMI、nendo、田村奈穂さんほか、先輩デザイナーが受賞している賞なので、今後の2組の活躍が期待されます。

(写真中)KULI-KULIのデザイナー山内真一さん(右)坂下麦さん <br />Photo:Courtesy Salone del Mobile.Milano_Ludovica Mangini

(写真中)KULI-KULIのデザイナー山内真一さん(右)坂下麦さん
Photo:Courtesy Salone del Mobile.Milano_Ludovica Mangini

イタリアのデザイン界に魅せられ、通い始めたミラノサローネですがすでに過去の形態とは大きく違ってきています。一言で言うことは難しいのですが、少なくとも昔は100%メイドインイタリーでした。その後90年代にはスペインなど周辺諸国にもアウトソーシングするようにはなりましたが、個人経営者のオーナーたちには自信とプライドがありました。そうしたファミリー経営の中でデザイナーも鍛えられ、名声を博していきました。しかし、今のイタリアではメインドインイタリーを貫ける力はなく、中国や諸外国に分担して素材加工し、アッセンブルする力しかありません。また、マーケットも成熟し、経済発展の著しい国に頼るしかありません。そのことが入場者数に如実に現れています。

経営者のマインドも大きく変わりました。いまはビジネス第一主義、何とか持続的成長基盤に乗せたいと躍起になっています。期間中ミラノ市の関係者と意見交換する機会がありました。「何が一番欠けていると思いますか?」という問いに対して、「イノベーション」という答えがありました。過去の遺産をどのように継承し変革していくのか、現有のリソースを再構築しないと魅力的なイタリアデザインの繁栄は担保できないと思います。そして何よりイタリア人デザイナーの名前が消えかかっている点も気になります。

さまざま学んだ国だけにイタリアの奇跡を信じたいと思います。次回の記事では、担当しましたグランドセイコーほか、フォーリサローネについて記述します。

designディレクター桐山登士樹

桐山登士樹(デザインディレクター)

株式会社TRUNKディレクター、富山県総合デザインセンター所長、富山県美術館副館長。

30年に渡ってデザインの可能性を探り、さまざまな基盤や領域の活動を実践。特に1993年から今日まで「富山県総合デザインセンター」で地域のデザイン振興に携わり、商品化を前提とした「とやまデザインコンペティション」を企画・実施。地域の資産を生かした「幸のこわけ」の企画・商品化で成果を創出。

これまで、YCSデザインライブラリーや富山県総合デザインセンターなどのインフラ整備に参画。展覧会では「ニューヨーク近代美術館巡回 現代デザインに見る素材の変容(1996)」「イタリアデザインの巨匠/アキッレ・カスティリオーニ展(1988)」「日蘭交流 400周年記念 DROOG & DUTCH DESIGN展(2000)」「イタリアと日本 生活のデザイン展(2001)」「80歳現役デザイナー長大作展(2001)」他多数。ミラノデザインウィークでは2005年よりレクサス、キヤノン(エリータデザインアワード2011グランプリ受賞)、アイシン精機(Milano Design Award 2016 Best Engagement by IED受賞)、セイコーウオッチ「THE FLOW OF TIME」を総合プロデュース(2018)。メゾン・エ・オブシェでは、JETRO広報ブース「Japan Style」、伝産協会の海外販路プロデューサーを担う。「2015年ミラノ国際博覧会」日本館広報・行催事プロデューサー(金賞受賞)。共書「ニッポンのデザイナー100人」(朝日新聞社)。経済産業省「世界が驚く日本2016」研究会座長ほか。

http://www.trunk-design.jp/