イタリア・ミラノで4月9日から4月14日まで開催された「第58回 サローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)」。私にとっては34回目となるミラノサローネでしたが、はじめて見本市会場に足を運びませんでした。今年からプレスの登録方法が変わり、そろそろプレス前線からは引退しようと思ったからです。毎年日本から出向いて、ミラノサローネをここまで長い期間紹介してきたのは私以外には、あと数名のデザイナーしかいないでしょう。
Photo:Courtesy Salone del Mobile.Milano_Ludovica Mangini
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第58回 サローネ国際家具見本市は、6日間で181か国から38万6,236人を記録したそうです。昨年に引き続き、すごい来場者数で注目度が伺えます。しかし、一方でイタリア経済の低迷は尾を引いているようです。個人的には昨年で底を脱したと思っていたのですが、今年の感想を数名の友人たちに聞くと新製品は少なく、過去の遺産にぶら下がっている感が強かったといいます。ただ、ミラノサローネの期間中に同時開催されていた照明・ライティングの見本市「エウロルーチェ」には見るべきデザインが数点あったとのこと。
個人的には、日本人デザイナーの活躍が目立った、若手デザイナーの登竜門であるサローネサテリテに行けなかったことが唯一悔やまれます。サローネサテリテに出展したものの中から優れたデザインに贈られる「サローネサテリテ・アワード」にて、1位にKULI-KULI、3位に坂下麦さんという、日本人デザイナーが受賞するといった快挙の年となりました。過去には、トネリコやAZUMI、nendo、田村奈穂さんほか、先輩デザイナーが受賞している賞なので、今後の2組の活躍が期待されます。
(写真中)KULI-KULIのデザイナー山内真一さん(右)坂下麦さん
Photo:Courtesy Salone del Mobile.Milano_Ludovica Mangini
イタリアのデザイン界に魅せられ、通い始めたミラノサローネですがすでに過去の形態とは大きく違ってきています。一言で言うことは難しいのですが、少なくとも昔は100%メイドインイタリーでした。その後90年代にはスペインなど周辺諸国にもアウトソーシングするようにはなりましたが、個人経営者のオーナーたちには自信とプライドがありました。そうしたファミリー経営の中でデザイナーも鍛えられ、名声を博していきました。しかし、今のイタリアではメインドインイタリーを貫ける力はなく、中国や諸外国に分担して素材加工し、アッセンブルする力しかありません。また、マーケットも成熟し、経済発展の著しい国に頼るしかありません。そのことが入場者数に如実に現れています。
経営者のマインドも大きく変わりました。いまはビジネス第一主義、何とか持続的成長基盤に乗せたいと躍起になっています。期間中ミラノ市の関係者と意見交換する機会がありました。「何が一番欠けていると思いますか?」という問いに対して、「イノベーション」という答えがありました。過去の遺産をどのように継承し変革していくのか、現有のリソースを再構築しないと魅力的なイタリアデザインの繁栄は担保できないと思います。そして何よりイタリア人デザイナーの名前が消えかかっている点も気になります。
さまざま学んだ国だけにイタリアの奇跡を信じたいと思います。次回の記事では、担当しましたグランドセイコーほか、フォーリサローネについて記述します。