上空から見たときに「何だこの建物は?」と、誰もが不思議と興味を持つ建物は、神奈川県厚木市の森の里地区にある「水」と「管」を主役とした広場です。
この広場の設計を手がけたのは、T2P Architects Officeの小野龍人さん、三浦朋訓さん、Yang Shikwanさん。同施設が生まれた背景やデザインの特徴などについてコメントをいただきました。
■背景
神奈川県厚木市の森の里地区に、下水道管路網を専門的に管理・清掃をおこなう管清工業株式会社が有する「厚木の杜環境リサーチセンター」がある。この施設は下水道に関わる技術研修および研究開発、災害時の支援・避難場所、自然と触れ合う体験の場としての役割を担っており、下水道の未来をともに考える場所として利用されている。その敷地の入口にある既存駐車場を、誰でも訪れることが可能な広場にすることが求められた。
下水道に関わる仕事が祖業である会社ならではの場所づくりを目指した結果、訪れた人を迎え入れる企業の顔となるような建築とランドスケープを構想するにいたった。本来ならば公園の片隅に分散して設けられる屋外トイレや手洗い・防災用井戸などのエレメントを集約し、井水を活用する水庭と組み合わせ、敷地の中央に配置した。そして「水」と「管」を主役とする景観を生み出した。
■コンセプト
この建築は、高さの異なる3本の円筒を偏心し、重ね合わせて求心性を高めつつ、間に生じた空間に内部・外部を入れ替えながら諸機能を割り当てる構成である。水盤の輪郭は建築の3重の輪に連なる4番目の輪となり、波紋のような広がりを描き、建築とランドスケープが一体化する。広場、井戸の水場、トイレ、屋外手洗い、企業のシンボル、自然を際立たせる装置など複数の役割を新たな建築空間として結実することを目指した。

高さが異なる円筒を偏心してつくられた構造
輪の重なりの中心は入口にあたり、円形に空を切り取る中庭で、中心に屋外手洗いを配置している。緑豊かな風景から一転、抽象的な白い空間で、光の変化と水音を感じる場である。中心と2番目の円筒の間は、誰もが選択的に使用できる屋外トイレを配置した。各個室の窓から水庭を眺めることができ、3番目の円筒が外部からの視線を遮り、静寂な空間をもたらす。さらに外側は水遊びができる活動的な水場とし、周囲の芝生と連続することを考えた。

子どもが気軽に遊べる水場としての機能性もある
■課題となった点、手法、特徴
円筒という単純な幾何学形態を組み合わせ、空間のスケールや視線の操作を行い、周囲の自然につながる開放性と落ち着きが得られる閉鎖性とを両立する空間を築いた。水や緑、空といった自然の存在感を増幅する抽象的な白の空間には、長年下水道のメンテナンスにおいて水の清らかさに取り組み続けてきた企業の思いが込められている。トイレの給水にも井水が利用され、災害時も機能する「水まもりトイレ」と呼ばれる。

陽光があたたかく差し込む、水まもりトイレ
下水道「管」を手がかりに、3つの円筒空間に加えて、下水道のヒューム管を転用した手洗いや洗面台、排水管として使われるポリ塩化ビニル管を組み合わせた立体サインなど、細部にいたるまで「管」のイメージを重ね合わせることでこの施設の固有のデザインとしている。

排水管として使われるポリ塩化ビニル管を組み合わせた立体サイン
クライアントはこれまで、全国の学校に向けた出前授業等を通して、下水道や水環境の大切さを伝える啓発活動を続けてきた。企業精神を体現するこの「管の広場」を訪れた人が、普段は意識することの少ない都市を支える下水道インフラについて、考えを巡らせるきっかけになることを期待する。
所在地 | 神奈川県厚木市森の里若宮5-1 厚木の杜環境リサーチセンター |
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設計 | 小野龍人、三浦朋訓、Yang Shikwan/T2P Architects Office |
施工 | 株式会社小島組 |
構造 | アスコラル構造研究所 |
設備 | C.H.C.システム株式会社 |
サイン | AFFORDANCE |
クライアント | 管清工業株式会社 |
敷地面積 | 652.41㎡ |
延床面積 | 24.84㎡ |
竣工日(開業日) | 2022年11月1日 |
撮影 | Vincent Hecht |