イチノイチ

度重なる改修が施された構造体を修復し、意匠としてリデザイン

福島県須賀川市にある繁華街のシンボルとして佇む市場だった建物を、新たな価値を生み出す場としてリデザインした「イチノイチ」。

設計は、神奈川県横浜市に事務所を構える株式会社no.555一級建築士事務所が担当。オーナーや地元の方々とブレインストーミングを行い、空間づくりに繋げたというこちらの建物の特徴などについて、no.555一級建築士事務所の土田拓也さんにコメントをいただきました。

■背景

建物は、福島県の中央に位置する須賀川市で60年前に市内初のRC造として建設された元市場。無骨で重々しい構造体は、現在では飲食店が細切れに入り、その時々で構造体にまで身勝手な改修が行われてきた。それでも繁華街のシンボル的な建物としては変わることなく、そして東日本大震災での大きな揺れにも耐え抜いてきたことに敬意すら感じる。

今回の計画では地元出身で東京在住のオーナーが地元の人が地元の良さに気付き、プライドを持てるような受発信の場をつくりたいというのがきっかけだった。オーナーや地元の方々などとブレインストーミングを行い、Re projectとしてさまざまなものを再考し、その中に新たな価値をつくろうとした計画である。

■コンセプト

ここでの「Re」を考える中で、「良き物を見直し世に伝える」「地元産の食物を地元のものであるときちんと伝えていく」「人と人とが再会する」など、幅の広い解釈の中で、単なる飲食の場ということではなく、さまざまなイベントにフレキシブルに対応できる構成こそが、さまざまなイベントに対応でき、むしろ現時点では考えられていないことへも柔軟に対応できる、そんな自由な空間こそがここでの空間づくりに重要になってくると考えている。

■手法、特徴

力強い構造体はできる限り人の目につくように露出させ、破壊された構造体は丁寧に修復し、これまで生き抜いてきた歴史を人にきちんと伝えるようにしているが、それそのものが意匠となっている。

構造体を露出させ、そのものを意匠としている

イチノイチ

また、街のメイン通りに空間の1/3を提供するように外部空間として減築を行い、その空間はビニールカーテンによって室内でも屋外にでも変化させられるようになっている。その空間の奥には完全に引き込める6枚の引き戸があり、引き戸を引き込むことによって店内すべてを外気空間に変化させることも可能。街の祭りやイベントも店内に引き込み、そして時には店内から街に提供していく。

イチノイチ

店内の家具などもすべてアンティークなどを修理・修復したものを使用し、店全体が「Re」の集積によって構成されている。このように街(通り)と空間とが共存・越境し、地元の方々に少しでも地元の良さを改めて感じていただき、そんな刺激の一つになることを願っている。

イチノイチ

所在地 福島県須賀川市本町1-1
設計 株式会社no.555一級建築士事務所
施工 株式会社ステップワン
構造 鉄筋コンクリート造
延床面積 100.24m2
竣工日 2022年1月11日
撮影 森政俊