はくすい保育園

子どもの原体験をつくる場所

デザインコンセプト
担当:山﨑健太郎デザインワークショップ

この保育園は千葉県佐倉市にある定員60名の計画である。隣地で特別養護老人ホームを営む社会福祉法人誠友会が事業主として計画が進められた。建築計画は「保育園は大きな家である」という考えに基づいている。

周囲を山林に囲まれた敷地は南に緩やかに傾斜しており、それをそのまま利用して階段状に保育室を配置した。間仕切りで保育室をつくるのではなく、斜面にそった床を配置し、740mmの段差によって保育室を規定した。これは各保育室同士、たとえば3歳の子供と5歳の子供が同じ空間を意識できるような空間構成になっている。3歳の子供が寝ていて、5歳の子供がそばで遊んでいるといった生活リズムの違いは、「大きな家」の特徴として捉えている。

部屋にならないことで起こるデメリットより死角を極力つくらないことを優先させ、段差の安全対策を必要最低限にとどめた。運営する中で対応を講じるという、誠友会が特養で23年培った理念が引き継がれている。

各保育室端部に370mmの段差を設けることで行き来を可能にし、将来的に収容する子供の年齢構成の変化や異年齢保育への対応できる柔らかな空間構成としている。

「大きな家」とするための階段状の保育室は夏の通風計画には絶好の条件となった。南面と北面に大きく開放できるサッシと斜面を利用した重力換気により、建物に南から呼び込まれた風は北側のテラスへ抜けていく。そのため、夏季は風が弱い日でも室内を心地よい涼風が通り抜ける。

既存の井戸水を利用した屋根散水(屋根冷却)が設けられており、夏季にはタイマーによって自動的に散水する仕組み。屋根に散水された井水は屋根勾配に沿って建物の南側に落下し、その下に設けられたジャブジャブ池が水を受ける。風を取り入れる際には、屋根から落下する井水や池が気化冷却され、建物内に導く計画である。

また、建物の東西には既存の樹木を出来るだけ残したため、夏季は生い茂った緑が東西方向からの日差しを遮光してくれる。冬季は数カ所に設けられているトップライトから室内に十分に日差しを取り入れる。林立する柱部分に開けられたトップライトは、あたかも林の中の木漏れ日のように見える工夫をしている。取り入れた暖気は建物上部に溜まるため、サーキュレーションシステムが一定温度になると、温度センサーで暖気回収ファンが自動運転し、吸い込まれた暖気が建物下部の窓下から吹き出す仕組みとなっている。この装置よって太陽の恩恵を建物全体に供給する。

庇(ひさし)には屋根材のガルバリウムを裏打ちせずに表で使用。雨の音をダイレクトに感じてもらうこともこの保育園では楽しみのひとつと考えた。設備計画はエアコンを極力使わないことを目指しているが、むしろ子供たちが南のジャブジャブ池で遊んだり、庇から流れ落ちる滝を楽しみ、結果、熱環境でも快適だと感じてもらうことのほうが重要だと考えている。この場所でしか感じられない風や、庇から流れ落ちる滝で遊ぶという楽しみが子供たちの身体感覚を育み、原体験になってくれればうれしい。

所在地 千葉県佐倉市
設計 山﨑健太郎デザインワークショップ / 山﨑健太郎
構造設計 ASD / 田畠隆志、田畑孝幸
設備設計 yamada machinery office / 山田浩幸
敷地面積 1046.64m2
延床面積 530.28m2
プログラム 保育園
構造 木造
階数 地上2階
設計期間 2014年1月~2014年11月
撮影 黒住直臣