熱海の茶房

RC造と木架構でつくられた、人を柔らかく包み込む空間

静岡県熱海市にある、重厚感の中にも温かみのある茶房。勾配の強い斜面地に建つこの茶房を手がけたのは、山﨑健太郎デザインワークショップです。

ともすれば危険にも感じる崖を利用したこの建物がどのような構造になっているのか、設計を担当した山﨑健太郎デザインワークショップの山﨑健太郎さんにお話を伺いました。

■背景、コンセプト

この建築は、仕事をリタイアしたご夫婦が営む、60平米ほどの茶房です。奥行きの長い敷地は静岡県熱海市の来宮神社から急な坂を登ってしばらくのところにあり、斜面地を敷地分だけ削り取られたその環境は少し暴力的にも感じられました。

しかしながらこの場所では敷地に沿って心地よいせせらぎの音が聞こえたり、奥に向かってわずかに勾配がありました。そこで、暴力的な環境から客を守り、周辺に見え隠れする小さな魅力を存分に味わえるような建築をイメージしました。

熱海の茶房

断面図

■特徴

崖条例のため、細長い敷地の長手方向には崖上からの土砂崩れに対してコンクリート擁壁を設けました。一方、崖下からは安息角(土や粉粒体が滑り出さない限界の角度)の下まで基礎を下げた深基礎(高低差や傾斜がある場合に基礎部分を通常より深く工事をする手法)になっています。

この地面から持ち上げられたL字型のRC(鉄筋コンクリート)造の上に、軽やかな木造の架構をかけました。RC造は客を激しい環境から守り、木架構は柔らかく人包みこんでくれます。この敷地において、最適な構造形式だと考えました。

また水平力はRC造が担うため、上部の木造部分には風景の邪魔になるような構造材を設けずに済みました。天井高を2,100mmと低く抑えられた空間で、客はRC造と一体になったベンチに体を預け、軒の先に広がる樹木と小川のせせらぎだけを楽しむことができます。

所在地 静岡県熱海市
設計 山﨑健太郎デザインワークショップ
構造設計 多田脩二構造設計事務所
敷地面積 444.04m2
床面積 49.93m2
構造 鉄筋コンクリート造(一部木造)
階数 平屋
撮影 黒住直臣