「千客万来(=たくさんの人が次から次へと来ること)」というタイトルが付けられた、神奈川県・葉山にある住宅。写真で見ただけなのに「居心地よさそう…」「なんだかテラス座りたくなるなぁ」という、特有のあたたかさが感じられます。
設計を担当した、山﨑健太郎デザインワークショップの代表・山﨑健太郎さんに、この住宅がつくられた背景やコンセプトなどについてお聞きしました。
■背景
敷地は、葉山の山側に位置し、緑豊かで穏やかな地域コミュニティーを感じられる場所にあります。クライアントの両親や兄弟、また多くの友人たちが住んでいるこの土地は、クライアントにとって特別な場所でした。それゆえ、ご自身の新しい住宅を、家族や友人たちが集う「千客万来の住まい」として、土地の記憶を引き受けていこうという想いも強く感じました。
その思いを受け、住宅でありつつ、まちとの中間領域となる土間やテラスを都市的な振る舞いを生み出す装置として捉えてみようと考えました。
■コンセプト
「いえは小さな都市である。」アルベルティ
テラスのベンチに腰掛けて通りを眺めたり、テラスの縁に体を預けて佇んだり、キッチン脇のデスクでみんなと一緒にいたり、一人で過ごしたりと、さまざまな「居方」をつくろうと試みています。
また、通りから土間越しにテラスで走りまわる子供たちの姿など、なんとも微笑ましい風景を見ることもできます。今すぐとはいかなくても、ご近所さんが温かく見守ることも近隣住民の都市的な振る舞いといえるかもしれません。家族と土地がゆっくりと重なりあいながら、さまざまなゲストやご近所さんと熟成されていく住宅を目指しています。
■課題となった点、手法、特徴
恵まれた環境を生かすように、土間やテラスといった中間領域を周辺環境と建物との隙間を埋めるように配置しました。蛇行した前面道路と駐車スペースを一体的な前庭となるように土間の建物を配置し、隣地の庭が借景となるようなパブリックテラスや、北側と西側の間知石積擁壁(けんちいしづみようへき)を生かせるようなプライベートなテラスを設けています。
各テラスとそれに対応する内部空間の床レベルをそろえ、3つのレベルを持ったフロア構成となっており、パブリックからプライベートへとグラーデーショナルな空間配列をしています。その段差部分にはベンチやデスクとして人が体を預けられるようなデザイン処理を施し、緩やかな敷居となるように考えました。一方、天井面は同一面の垂木あらわしの表現として、空間全体を統合させています。
所在地 | 神奈川県葉山町 |
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設計 | 山﨑健太郎デザインワークショップ |
施工 | 吉田修一/BESTA HOME |
構造 | 田畠隆志、田畑孝幸/ASD |
敷地面積 | 281.72m2 |
延床面積 | 121.21m2 |
竣工日(開業日) | 2019年3月1日 |
撮影 | 黒住直臣 |