■背景
ホテル名の「cup of tea ensemble」は、日本人が一杯のお茶に込めるゲストをもてなす気持ちや、ゲストにとっての「cup of tea(自分の好み)」になってほしいとの想いと、ホテルに関わる多くの方々がアンサンブルを奏でてほしいという想いから「ensemble」と名付けました。
同施設は岐阜県高山市にあり、地元出身のUターンを含む30代の3名で設立された、持続可能な地方都市のあり方を提案・実現するプロジェクトチーム・DONNAが企画を担当。パートナーとして、2020年に創業100周年を迎えた、飛騨高山を代表する家具メーカーの飛驒産業株式会社を迎えました。

プロジェクトメンバー
■コンセプト
今回のコラボレーションのコンセプトは「あるものをいかす」。飛驒産業が創業100周年を機に制定した4つの価値観「人を想う、時を継ぐ、技を磨く、森と歩む」と親和性が高いものであり、また、同じ飛騨地域の事業者としてDONNAの目指す「21世紀型の持続可能な地方都市の実現」にも深く共感いただいたことから共同プロジェクトとして推進しました。
地域資源の活用可能性を4つの切り口(杉材・間伐材・端材・中古品のリペア)から提案し、飛驒産業が100年の歴史を通じて培ってきた確かな加工技術で空間を表現しています。

工場視察風景
■手法、特徴
杉材
間伐された杉材の小径・短尺という特性を、不規則な隙間がアクセントのデザインとして建具・ベッドに活用。ランダムに空けられた隙間によって、室内の明かりが外通りにこぼれ、室内の温もりや団欒を感じさせる一方で、室内からは屋外の天気や時間、四季の移ろいなどを感じることができます。

杉材

建具に使用した杉材
間伐材
間伐材の利用にあたり、材/樹種をこちらが選ぶのではなく、森林資源保全の必要に応じて間伐された材をどう価値転換させるかを考えました。それぞれ樹種が異なる枝照明は、枝そのものの姿・形を活かしてデザインされ、手作業で溝を切り、LEDを埋め込んだもの。多目的スペースのテーブルは脚をしっかりとデザインすることで、材の形状に囚われず受けることを可能としています。

枝照明材

完成した枝照明
端材
1本の丸太から家具として利用される材は25%ほどです。製材現場を訪れた際、乾燥ボイラーの燃料として積まれた端材を見てもったいないと感じたと同時に、その整然と積まれた姿を美しく感じました。その美しさを再現するため、端材をそのまま円筒状に束ねてコーヒーテーブルとして製作しました。

製材現場に整然と積まれた端材

端材を円筒状に束ねて制作したコーヒーテーブル
中古品のリペア
飛驒産業は10年間の製品保証をおこなう一方で、⻑年使用される中で傷んだ家具の修理サービスも提供しています。併設されたコミュニティラウンジに配されたダイニングチェアの一部は、かつて飛驒産業で販売していた「マッキンレイ」シリーズの旧モデルを、リサイクルショップなどで調達。必要に応じて修理を行い、再生しました。

コミュニティラウンジ
このプロジェクトは当初、増え続ける外国人旅行客をターゲットとした宿の企画として始まりました。しかし、オーバーツーリズムによって街の魅力が薄れていく様子を目の当たりにする中で、いつしか「持続可能な地方都市のあり方を考える拠点づくり」へとメンバーの意識が変わっていきました。「cup of tea ensemble」が観光客のみならず、地域住民の方々にとっても、身の回りにある豊かな「もの」に気付くきっかけとなり、未来に繋がる持続可能なまちづくりを目指す拠点として利用されることを願っています。
所在地 | 岐阜県高山市八軒町1-36 |
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企画 | DONNA |
企画パートナー | 飛驒産業株式会社 |
設計 | 株式会社Kraft Architects |
施工 | 株式会社田中工務店 |
構造 | 鉄筋コンクリート構造 |
竣工日 | 2021年1月15日 |
撮影 | 西川公朗 |