飛驒産業が「クマヒダ KUMAHIDA」で示す、100年の技術と木の家具のこれから

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飛驒産業が「クマヒダ KUMAHIDA」で示す、100年の技術と木の家具のこれから
飛驒高山を拠点にする家具メーカー・飛驒産業が、2020年に迎える創業100周年を記念した第一弾プロジェクトとして、建築家・隈研吾氏とのコラボレーションによる家具シリーズ「クマヒダ KUMAHIDA」を発表した。かねがね「21世紀は木の世紀」と語ってきた世界的建築家と、1300年の歴史を持つ“飛驒の匠”の技術を受け継ぎ、国内屈指の木工技術を誇る家具メーカーは、今回のコラボレーションを通して、木製家具にどのような革新をもたらしたのか?プロジェクトの中核を担った飛驒産業の常務取締役・岡田明子さんと、デザイン室課長である坂井雄大さんに、隈氏とのコラボレーションにいたった経緯や込められた思い、開発プロセスなどについてうかがった。
飛驒産業と建築家・隈研吾との出会い

––おふたりの仕事内容について教えてください。

岡田:私はもともと営業の仕事をしていましたが、2年ほど前から常務取締役という役員の立場で、中期的な経営計画や営業戦略などを担っています。また、この1年ほどは、飛驒産業の創業100周年に向けたブランディング・プロジェクトの推進にあたっています。

飛驒産業 常務取締役 岡田明子さん

飛驒産業 常務取締役 岡田明子さん

坂井:私はデザイン室に所属し、おもに商品開発の仕事をしています。デザイン室はその他にも新店オープン時の店舗設営や、毎年9月に開催している「飛驒の家具フェスティバル」などの展示会において、空間に関わる仕事も行います。

飛驒産業 デザイン室 課長 坂井雄大さん

飛驒産業 デザイン室 課長 坂井雄大さん

––100周年に向けたブランディング・プロジェクトは、どんなテーマのもとで進めているのですか?

岡田:私たちは、100年におよぶ経験の中で培ってきた技術をベースに、多岐にわたる事業を展開してきました。それらを再確認するという観点から、「私たちは何者なのか、そしてこれから先何をしていくべきなのか」ということを社内外に改めて伝えていきながら、いかにお客様に喜んでいただける取り組みができるかということをテーマに据えています。

––先日、創業100周年記念モデルとして「クマヒダ KUMAHIDA」がリリースされましたが、設計を手がけた隈研吾さんとの出会いについて教えてください。

坂井:以前から隈さんは、「21世紀は木の世紀」であるということを仰っていて、100年にわたって木の可能性を追求し、技術を磨いてきた我々としては、いつかお仕事をご一緒する機会がないかと考えていました。そして、2年ほど前に隈さんの事務所の方が工場見学にいらっしゃったことがきっかけでご縁が生まれ、やがて隈さんがイタリアに設計したパビリオンを小さな木のパズルにした「木霊 KODAMA」という製品をつくることになり、そこで初めてご一緒することができました。その後「木霊 KODAMA」は東京ステーションギャラリーでの個展でも展示していただきました。

「木霊 KODAMA」

「木霊 KODAMA」

––今回の「クマヒダ KUMAHIDA」が生まれるまでには、どのような経緯があったのですか?

坂井:我々から、「次は家具を一緒につくっていただけませんか」と提案をさせていただいたんです。私たちは主にホームユースの家具をつくってきましたが、昨今はオフィスなどでも木製家具が使われ始めている中で、多くの公共施設を設計されている隈さんとともにホームとコントラクトの垣根を超えるような家具をつくれないかというお話をしたところ、ご快諾いただけました。

岡田:コラボレーションの話が進んでいく中で、木を用いて家具をつくることの意義や私たちの考えというものを発信していくことができるプロジェクトになると確信できましたし、100周年の記念事業としてこれ以上ふさわしいものはないと思いました。このようなタイミングで隈さんとご一緒できるご縁に恵まれたことは、非常に幸運だったと感じています。

「柔らかさ」と「軽やかさ」を両立させる家具
「クマヒダ KUMAHIDA」のチェア。飛驒産業の高度な曲げ木・切削技術が実現した滑らかな曲面と、前脚から肘、背を構成するパーツの断面形状として採用した紡錘形によって、膨らみを持った「柔らかさ」と、シャープな「軽やかさ」を両立させている。

「クマヒダ KUMAHIDA」のチェア。飛驒産業の高度な曲げ木・切削技術が実現した滑らかな曲面と、前脚から肘、背を構成するパーツの断面形状として採用した紡錘形によって、膨らみを持った「柔らかさ」と、シャープな「軽やかさ」を両立させている。

––家具の制作はどのように進められたのですか?

坂井:まずは弊社の椅子などを通して私たちの曲木技術や杉の圧縮技術などを隈さんにご覧いただき、その後しばらくしてから曲線を多用した家具のデザインをご提案いただきました。歴代の建築家たちは多くの名作家具をつくっていますが、傾向としては建物との調和を重視した直線的でシャープなデザインが多いという印象を持っていたので、隈さんのデザインもそのような方向性になるのではないかと予想していました。ところが、最初にお見せいただいたスケッチはその対極とも言えるものだったので最初は驚きましたが、私たちの曲げ木技術をベースにデザインしていただいたことが伝わってきて嬉しかったですね。

––「クマヒダ KUMAHIDA」のデザインについて、隈さんはどんなことを話されていましたか?

坂井:隈さんが当初話されていたのは、木が持つ膨らみ感や、物の表情や質感を大切にしながら、「柔らかさ」と「軽やかさ」を表現したいということでした。また、これまで隈さんは空間に溶け込むような家具をつくるように心がけてきたそうですが、今回は家具そのものが主張を持ちながら、空間と調和するようなデザインに挑戦したいということだったので、我々もそうした部分を意識しながら、隈さんのデザインを実現するための方法を探っていきました。

飛驒産業 デザイン室 課長 坂井雄大さん

––隈さんの設計を形にする上で、特に難しかった部分があれば教えてください。

坂井:まずチェアに関しては、「柔らかさ」と「軽やかさ」を表現するために隈さんが設計された前脚から肘、背にかけてねじれるように曲がっていく独特の形状を実現させることが大きなチャレンジになりました。通常、生産性を考えると基準面というものがあると加工しやすいのですが、今回はねじれることでその基準面が変化していくような設計だったので難易度が高かったんです。最初の試作では、加工のしやすさや生産効率などを踏まえてかたちにしたものを提案したのですが、ご納得していただけませんでした。そこで次は生産効率などは一度脇に置き、「柔らかさ」と「軽やかさ」を表現するという隈さんの考えを私たちなりに咀嚼した試作を提案したところ、大変満足していただき、そこから微調整を経て完成に至りました。

岡田:私たち経営陣としては、隈さんとのものづくりであれば必ず素敵なものになるだろうという期待のもと、制作は現場に委ね、逐一報告される経過をワクワクしながら聞いていました。完成したものを最初に見た時は、その美しさにとても感動しましたね。私たちは毎年8月に創業祭を行っているのですが、そこで隈さんのインタビュー動画を社員と一緒に見たのですが、それも社内の意識高揚につながりました。今回の100周年記念事業では、内部へのコミュニケーションも大切にしていたので、そうした面でも今回の取り組みは素晴らしいものになったと思います。

“森の記憶が蘇る”木製家具の可能性

飛驒産業 デザイン室 課長 坂井雄大さん

––チェアとともにつくったテーブルについてもお話を聞かせてください。

坂井:テーブルは、新たに開発した中空構造の軽量無垢天板で、無垢天板に比べて軽いのが特徴です。また側面を4mmにまで削ぐことで、視覚的にも「軽やかさ」を表現しました。また、脚に関しても検証を繰り返したのですが、チェア同様に紡錘形の断面形状を採用した脚を斜めに接合したことで、動物を思わせるような生命感や躍動感が生まれました。隈さんは、木の家具は「生物としての人間」にとってぴったりなものだと話されていました。木のテーブルで食事をしていると、森から来た人間の原初の記憶が蘇ってくるから、自然と気持ちが落ち着いてくるのだと。

––先ほど、ホーム用家具とコントラクト家具の垣根を超えるというお話もありましたが、人々の暮らしや働き方が変化していく中で、これからの木製家具にはどんな可能性があると思われますか?

坂井:例えば、これまでのオフィス家具では、アーロンチェアのような高機能なものが広く使われてきました。しかし、昨今の働き方改革の流れなどを受けて、機能性や効率だけを追求するのではなく、働く人たちが心地よさや安らぎを感じられるようなオフィスも増えてきていますよね。最近では「木視率」という言葉も聞かれるようになっているように、オフィスや公共空間などにおいても木製家具というものが求められてくるのではないかと感じています。

岡田:隈さんも、海外から日本に来られる方たちに、ホテルやレストランなどで日本の木製家具を使ってもらうことは、いいおもてなしになるのではないかと仰っていました。今後ますます隈さんが設計された公共施設なども増えていくと思うので、そういうところにも「クマヒダ KUMAHIDA」を使っていただきたいですし、「クマヒダ KUMAHIDA」は飛驒産業の新しい可能性を切り開いてくれる製品になるのではないかと期待しています。

「デザインが技術を引き上げる」。クリエイターと職人の協働のこれから

––今回の「クマヒダ KUMAHIDA」に限らず、飛驒産業ではさまざまなクリエイターと協働してきましたが、その際に大切にしていることはありますか?

坂井:クリエイターと私たちのどちらかの思いだけが優先されたり、逆に押し殺されたりすることなく、お互いの価値観を突き合わせながら、双方が納得できる落としどころを見つけていくことを大切にしています。また、クリエイターと職人の間に立つこともデザイン室の大切な役割です。飛驒産業の職人たちは確かな腕があるので、クリエイターからの簡易的な図面で形にすることはできますが、生産性の部分など私たちが間に入って調整しなくてはいけないことがたくさんあります。一方、経験豊富な職人たちに及ばないところも多いので、常に相談をして、時に新たな技術開発を行いながら一緒に進めていくようにしています。

飛驒産業 デザイン室 課長 坂井雄大さん

岡田:「クマヒダ KUMAHIDA」をつくるためには高い加工技術が必要で、職人たちも慣れてくるまでは生産に時間がかかると思います。ただ、今年50周年を迎えた「穂高」というロングセラー商品にしても、当初はひじ掛けの曲線を再現することに職人たちが苦心したのですが、いまでは効率的に生産できるようになっており、こうした製品は少なくありません。「クマヒダ KUMAHIDA」は職人たちが大騒ぎするほど難易度が高かったのですが(笑)、継続してつくり続けていくことが、私たちを次のステップに連れて行ってくれると思っています。

坂井:デザインが技術を引き上げるということを100年にわたって繰り返してきたのが、飛驒産業の歴史です。これまでに培ってきた成功体験があるからこそ、職人たちは高い壁にも挑んでいけるのだと思います。

岡田:飛驒産業を支えているのは、いいものをつくりたいという職人の思いです。高い要求に対して、その場では文句を言いながらも(笑)、尻込みせずに取り組んでいくマインドがあるし、挑戦していくことがモチベーションにもなっているのだと思います。

飛驒産業 常務取締役 岡田明子さん

––創業100周年記念事業はこれからも続いていくと思いますが、来年に向けた抱負や今後の展望を教えてください。

岡田:具体的なプロジェクトは随時発表していく予定ですが、冒頭に申し上げたブランディング・プロジェクトの目的をしっかり達成していくために、商品開発や印刷物の制作などに1年かけて取り組んでいきたいと考えています。

現在の私たちは、飛驒産業が創業する前から木と共に生きてきた“飛驒の匠たち”の存在なしにはありえません。その歴史に敬意を払い、私たちは家具制作を軸に、樹液の研究開発や商品化などにも取り組んできました。これからも木のスペシャリストとしてさまざまな事業を展開し、多くのお客様に喜んでいただくいただくことを通して、日本の森林を元気にすることに貢献できればと思っています。

「クマヒダ KUMAHIDA」

文:原田優輝 撮影:葛西亜理沙 取材・編集:堀合俊博(JDN)

飛驒産業「クマヒダ KUMAHIDA」特設サイト
https://kitutuki.co.jp/kumahida/index.html