森岡書店がつくる、本を介したコミュニケーションが生まれる場所

第7回「みんなでクリエイティブナイト」レポート(中編)

森岡書店がつくる、本を介したコミュニケーションが生まれる場所

デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。「本とデザイン」をテーマに、BACH代表の幅允孝さんと森岡書店店主の森岡督行さんのお二人をゲストに迎えた第7回目の模様を、 3回に分けてお伝えしていきます。

前編に続き、中編では森岡さんによるレクチャーをお届けします。

神保町・一誠堂書店での日々

私は1998年に本の業界に入ったのですが、いつの間にかこの道23年、ベテランの域に差し掛かってきました。当時の本屋業界は、さまざまな変革期にあったと思います。もしかしたらそれは本の世界だけではなくて、アートや工芸など、さまざまな分野でもそうだったんじゃないかなと思うんですが、それには生活の隅々にインターネットが浸透してきたことが関係していると思います。

<strong>森岡督行</strong> 1974年生まれ。「一冊の本を売る書店」がテーマの森岡書店の店主。展覧会企画にも協力。「雑貨展」(21_21 DESIGN SIGHT)、「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「Khadi インドの明日をつむぐ」(21_21 DESIGN SIGHT)など。京都・和久傳のゲストハウス「川」や、「エルメスの手しごと」展のカフェライブラリーの選書を担当。文筆家として新潮社『工芸青花』のサイトで日記を、資生堂『花椿』サイトで「現代銀座考」を連載中。著書に『荒野の古本屋』(小学館文庫)、『ライオンごうのたび』(あかね書房)などがある。

森岡督行 1974年生まれ。「一冊の本を売る書店」がテーマの森岡書店の店主。展覧会企画にも協力。「雑貨展」(21_21 DESIGN SIGHT)、「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「Khadi インドの明日をつむぐ」(21_21 DESIGN SIGHT)など。京都・和久傳のゲストハウス「川」や、「エルメスの手しごと」展のカフェライブラリーの選書を担当。文筆家として新潮社『工芸青花』のサイトで日記を、資生堂『花椿』サイトで「現代銀座考」を連載中。著書に『荒野の古本屋』(小学館文庫)、『ライオンごうのたび』(あかね書房)などがある。

私はその頃、神田の古本屋に就職しました。一誠堂書店というところなんですが、社長である酒井健彦さんに私は拾ってもらったのかなという気がいまはしています。酒井さんはとてもおもしろい人で、さまざまなアドバイスをいただきました。

一誠堂書店には堅い本がたくさんあるんですが、吉川弘文館の「国史体系」といった業書や全集など、聞いたことないような本が並んでいるんですよ。お客さんも「帝王編年記はありますか?」と聞いてくるような方ばかりで、普通はわからないんですよね……。

自分も本を読んできた方だと思っていたんですけれど、全然答えられなくて、困ったなと思って、酒井さんに相談したんです。そしたら、それでいいんです、と。わからない時はわからないと言ってください、むしろお客さんに聞いてくださいって酒井さんは言うんですよね。以来、そのスタイルを貫いているんですが、中にはさらに一歩二歩踏み込んだような質問をしてくるお客さんもいて、たとえば「小林秀雄ってなんで『本居宣長』を書いたんだと思う?」と話しかけられたり。そういった会話が行われている書店にいたことが、いまの私の礎を築くことができたんじゃないかなと思っています。

他にも、一誠堂書店では毎日先輩が古本の市場から買ってきた本に落丁や書き込みがないかをチェックする係をやっていました。昭和のはじめから続いている本のチェックの仕方なんですが、5ページずつめくっていき、ページ数が5の倍数じゃない場合には落丁があるので、返品する。そして書き込みがないか確認するんですが、私にはそれがおもしろくて。書き込みを読むのがおもしろいですし、著者の略歴などもそこで知ることができるので、酒井さんからはその過程で本を覚えろって言われていましたね。

建築との出会いが生んだ森岡書店

森岡書店 銀座店

森岡書店 銀座店

そういったことを神田の古本屋時代にやっていて、その場所がすごく好きだったので、定年までいようかなと思っていたんですが、昭和2年に建った趣のあるビルに茅場町で出会ってしまいまして。私は建築がとても好きなんですが、そのビルの空間にやられてしまい、「なんだかいいな」と思ったら歯止めが効かなくなってしまったんです。その場所で本屋をやることのイメージがばーっと広がっていったんですね。当時30歳ぐらいだったんですが、「よし、やるか」と、何のビジョンもないまま森岡書店をはじめたんです。なので、はじめは場所と建築がだけがあったんですよね。

そこで10年弱ほど続けていたのですが、いまから6年前、今度は銀座の鈴木ビルという物件に出会ってしまって。昭和4年に建ったビルなんですが、そこでは日本工房という編集プロダクションが昭和14年から入っていて、日本絵画の専門誌がつくられていたんですね。

名取洋次郎さんをはじめ、亀倉雄策さんや原弘さん、河野鷹思さん、熊田五郎さんといったデザイナーや、写真家の土門拳さんといった、戦後日本の出版の礎を築いた人々がこのビルに集っていたという歴史的な背景にわくわくしてしまって。茅場町の時と同じく、私は物件で仕事を決めるみたいなとことがあるので、「よし、ここで一冊の本を売る書店をしよう」と移転を決めました。

津田直『Eknias Forest』の展示の様子

津田直『Eknias Forest』の展示の様子

一冊の本を売る書店というアイデアを着想したのは2007年ごろでした。茅場町の店舗で、新刊のローンチイベントを実施していたんですが、一冊の本に対して、たくさんのお客さんが来てくれていたんですね。そこから一冊の本を売る書店というアイデアが生まれて、茅場町の店舗がもう少しで10年目を迎えようとしていたとき、何か新しいことに挑戦してみたいなと思いまして、このアイデアでいこうと決心しました。

ローベル・クートラス『ある画家の仕事』の展示

ローベル・クートラス『ある画家の仕事』の展示

こんなふうにして、本の展覧会を毎週続けているんですけれど、時々出版もしています。一昨年、伊藤昊さんという、まったく無名な写真家のオリジナルプリントに触れる機会があったのですが、それに胸を打たれてしまって、写真集『GINZA TOKYO 1964』をつくりました。本は年に1回くらいつくっているので、これからも続けたいなと思っています。

黒田泰蔵作品写真集『A day in February with light - Kuroda Taizo』

黒田泰蔵作品写真集『A day in February with light – Kuroda Taizo』

京都・和久傳のゲストハウス「川」

京都・和久傳のゲストハウス「川」

また、選書の仕事もやっているのですが、これは京都のゲストハウス「川(sen)」の本棚で、月をイメージして構成しています。銀座三越のショーウィンドウを担当させてもらった時は、ショーウィンドウを一冊の本だと見立てて、ショーウィンドウの前で本を読んでもらうみたいな考え方で構成しました。

スマイルズの野崎亙さんがディレクションを手がけている、青山ブックセンター本店の跡地にできた「文喫」では、企画協力から関わらせていただいています。ここではエントランスのスペースで展覧会をやっていて、私もいくつか企画として参加させていただきました。

「文喫」での石川直樹さんの展示

「文喫」での石川直樹さんの展示

茶室のような空間で、本を介したコミュニケーションを

銀座店のオープン後、4ヶ月ほどは茅場町の店舗と並行してやっていたんですが、気づいたら圧倒的に銀座店に割く時間が多くて、自分でも楽しかったんですね。なので、銀座店に注力することに決めて、いまにいたっています。

森岡書店

以前、森岡書店銀座店に中国の方がいらっしゃったのですが、その際に「ここは日本文化の体現であって、茶室のようだ」とおっしゃっていただいたことがありました。なるほどなと思ったんですが、たしかにこの店では、中心には必ず本があって、扱う本によって空間がまったく異なるものになっていきます。そういった、本を介したコミュニケーションが生まれる場所として、これからもこの歴史あるビルの1室で、1冊の本にまつわる展覧会を続けていこうと思っています。

写真:服部冴佳(エイトブランディングデザイン) 文・編集:堀合俊博(JDN)

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