「Adobe Sensei」はこれからのデザイナーの働き方を変えるのか?-「Adobe MAX 2017」レポート

「Adobe Sensei」はこれからのデザイナーの働き方を変えるのか?-「Adobe MAX 2017」レポート
米国・ラスベガスで2017年10月18日~20日(現地時間)、「Adobe MAX 2017」が開催された。「Adobe MAX」はアドビ システムズ(以下、アドビ)が開催する、世界最大規模のクリエイティブ・カンファレンス。エグゼクティブによる基調講演やデザインに関するセッション、メーカーなどが出展し、新製品がそろうエキシビションなどのプログラムを開催。今年は64か国から12,000人のデザイナーやベンダーなど、クリエイティブに従事する人々が大集結した。
「Adobe MAX 2017」来場者は12,000人!

「Adobe MAX 2017」来場者は12,000人!

銃乱射事件が起こったラスベガスに哀悼の意を捧げる、アドビCEO兼会長のシャンタヌ・ナラヤン

銃乱射事件が起こったラスベガスに哀悼の意を捧げる、アドビCEO兼会長のシャンタヌ・ナラヤン

話題の中心はやはり「Adobe Sensei」

Creative Cloudに追加された5つの新製品。あらゆる発表の話題の中心となっていたのは、アドビのAI(人工知能)で、マシンラーニングのフレームワークである「Adobe Sensei」のことだった。AIはいま、アドビで最も大きな投資分野。Adobe Senseiはあらゆるアドビ製品に活用されており、Creative Cloudに同梱されているクリエイティブソフトウエアだけでなく、デジタルマーケティング分野でも幅広く使われている。アドビのCEO兼会長であるシャンタヌ・ナラヤンは、「ビジネス、コンテンツ、データを重ねることができるのはアドビだけ」と語る。この規模で、クリエイティブに関わるデータを集められるのがアドビの強みだ。

デジタル化が進み、デザイナーにかかる重圧は増えた。プリント、Web、デジタルフォト、平面からモーション、VRへと、これまでに考えられなかったくらいメディアが多様になり、同じコンテンツでもデザインのバリエーションをつくらなければならない。そんな時代にAdobe Senseiのマシンラーニングはクリエイターの仕事を奪うのではなく、人間がより創造的な仕事にフォーカスできる環境をつくってくれる。

インフォグラフィックスのデザインを自動化するツール「#PROJECTLINCOLN」

インフォグラフィックスのデザインを自動化するツール「#PROJECTLINCOLN」

例えばこれは、アドビが開発中のインフォグラフィックスのデザインを自動化するツール「#PROJECTLINCOLN」。これは水泳選手のタイムや出身国などをモチーフにしたインフォグラフィックス。この開発中のツールでは、数値などのデータを設定すると、グラフィカルなグラフを手間なく作成することができる。Adobe Senseiの登場前、データビジュアリゼーションやインフォグラフィックスは先進的なデザインのトレンドだったが、デザインの自動化が進むとデザイナーにはさらに上流のアイデアが求められていく。

同じようなことがあったのが、大量の写真から1枚の写真をつくる「フォトモザイク」の手法だ。かつては根気がいる作業で、限られた人にしかできないスペシャルな手法だった。しかしジェネレーターの登場を境に、堰を切ったように世の中に反乱し、いまでは一般的な、ありふれた手法となった。

これだけの製品にAdobe Senseiが使われている

これだけの製品にAdobe Senseiが使われている

「Adobe Sensei」の存在が、より人間のインテリジェンスを活かすことに

Adobe Senseiはデザイナーの作業を助けてくれる存在だ。フォント提供サービス「Typekit」ではビジュアルサーチによって似たフォントを探してくれるし、クラウドに特化した新しい「Lightroom CC」では撮影した写真には自動的にタグづけをAdobe Senseiがしてくれるので、もはや撮影日時で写真を探さなくても、「ゴールデンレトリバー」なんてキーワードを入れれば膨大なリストから検索ができる。さらに「ベストフォト」というボタンを押せば、美的な要素があるとAdobe Senseiが判断する“良い写真”を選んでくれる。

今回のアップデートで、2007年にリリースされたLightroomはさらに進化を遂げた。クラウドベースのフォトサービス、ソリューションとなって生まれ変わったのだ。いまやカメラ付スマホがスタンダートとなり、簡単に写真を撮ってそれをシェアするのがあたりまえの時代になった。デスクトップに縛られていてはならないということで、モバイルとクラウドがテーマになっている。

3Dの知識がなくても、2Dのグラフィックデザイナーが3D素材をコンポジットできるツール「Dimension CC」

3Dの知識がなくても、2Dのグラフィックデザイナーが3D素材をコンポジットできるツール「Dimension CC」

また、新製品の「Dimension CC」はAdobe Senseiによって、3Dの知識がなくても、2Dのグラフィックデザイナーが3D素材をコンポジットできるツール。3Dオブジェクトのマテリアルを変えたり、ライティングを変えることも可能。「レンダープレビュー」でレンダリング後がわかるので、それを見て決定すればいいという手軽さだ。

アドビがパッケージ版のアプリケーション販売からクラウド環境でシームレスに各製品が連携するCreative Cloudに移行したのは5年前のこと。今回のアップデートはそれ以来の大規模なものだと言える。クラウドから得られる情報とAdobe Senseiを使うことで、よりデザイナーの負担を減らすサービスに変化した。

アドビはAIをとてもポジティブにとらえている。シャンタヌ・ナラヤンは、「AIは人間の力を助けるもの。人間がしたくなかったこと、できなかったことをやってくれる存在。Adobe Senseiによって、人間のインテリジェンスがより活かされる」と言う。

人間ができて機械にできないのは、語るべきストーリーを持っていること、そしてストーリーを語ることができること。繰り返し語られたメッセージは、「これからのデザイナーはつまらないプロセスをやらなくていい。ユニークでクリエイティブなことに注力してほしい」という。それは裏返せば、デザイナーたちがより制限なく自由なクリエイティビティを求められるということであり、独創的なアイデアを生み出すことにフォーカスしていく必要があるということだ。デザイン教育にも、さらに幅広く深い教育が求められるだろう。そんな未来像に思いを馳せさせる、可能性に満ちた「Adobe MAX 2017」だった。

取材・文:齋藤あきこ

「Adobe MAX Japan」11月28日に開催!
日本でも2017年11月28日(火)、パシフィコ横浜にて開催されるクリエイターの祭典「Adobe MAX Japan」。昨年は2,000人以上の来場を記録し、大好評を博した。米国アドビ システムズのデジタルメディア事業部門担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるBryan Lamkin(ブライアン・ラムキン)や製品担当者たちが登場し、最新機能をプレゼンテーション。またメディアアーティスト、落合陽一さんによる基調講演や、製品の活用術を学ぶセミナー、今後の製品に搭載されるかもしれない機能をプレゼンする「Beer Bash」など、盛りだくさんのイベントを開催。事前申し込みで参加費無料!お申込みはお早めに。詳細は公式サイトにて。
https://www.event-web.net/adobemaxjapan/