デザインの

「未来の黒板」 サカワ × カヤック
テーマ

「未来の黒板」

  • 株式会社サカワ・常務取締役/坂和寿忠
  • 面白法人カヤック/深津康幸(ディレクター)、佐藤ねじ(アートディレクター)、佐々木晴也(iOSエンジニア)

新しい潮流を起しているプロジェクトから、「問題解決方法のヒント」や「社会との新しい関係づくり」を探る、「デザインの波」。第2回目のゲストは、ハイブリッド黒板アプリ「Kocri(コクリ)」を制作した面白法人カヤックの開発メンバー3名と、プロジェクトの起点となった株式会社サカワの常務取締役である坂和寿忠氏。

構成/文:齋藤あきこ、撮影:後藤武浩

少子化する日本。変化する教育の現場に、進化するテクノロジーはどう関わっていくのだろう。果たして昔から使われている「黒板」を、現代型にアップデートしたら…!?そんなお題に、面白法人KAYAC(以下、カヤック)と、黒板の製造メーカーの株式会社サカワ(以下、サカワ)がタッグを組んで挑んだ。そして生まれたのが、ハイブリッド黒板アプリ「Kocri(コクリ)」だ。教育現場にイノベーションを起こすべくつくられたこのアプリの背景を聞いた。

教育現場にもイノベーションの波、
ハイブリッド黒板アプリ「Kocri(コクリ)」とは?

坂和寿忠氏(以下、坂和):かんたんにいうと、学校の授業で先生が使うスマートフォン用アプリです。黒板に画像や映像、図形やグラフを投影するほか、スマホのカメラを使ってライブ中継することもできます。

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深津康幸氏(以下、深津):まず、「コクリ」のメリットとしては、スマホなので起動に時間がかかりません。必要な機材は既存のプロジェクタと、中継機器としてのAppleTV、あとは先生が使うスマホさえあればいい。

坂和:昨年、我々がカヤックさんとはじめた「みらいのこくばんプロジェクト」を発展させたものなんですね。「みらいのこくばんプロジェクト」では、黒板の上部に赤外線センサ搭載型のプロジェクタを取り付け、先生のジェスチャーで画像などが投影される仕組みにしていました。でも、学校ではそこまでハイスペックなプロジェクタを導入できないというコストの問題があったり、実際の授業で使ってみると、ジェスチャーで操作という複雑な仕掛けがいらないということがわかったんですね。そこで限られた予算で運営されている教育現場に最適化した結果、スマホアプリというカタチでの製品化になりました。

黒板を未来のカタチに進化させる、
「みらいのこくばんプロジェクト」がスタート

坂和:弊社(株式会社サカワ)では、これまで100年以上も黒板をつくってきました。黒板って、いまでも授業で一番使われているツールですよね。でも、見た目からしてほとんど変わっていないし、市場での価値が低下して価格がすごく安くなっているんです。弊社では電子黒板もつくっているのですが、それも市場にはあまり普及していない。だから、どうにか既存の黒板を未来のカタチに進化させたいという思いがありました。それで「いつも面白いことをやっているな」と以前から思っていたカヤックに「新しい黒板が作りたい!」ってメールを送ったんです。

株式会社サカワ・常務取締役 坂和寿忠氏

深津:いただいた文面を見て、反射的に「これは面白いものになるぞ!」って思いましたね。カヤックでもハードウェアやデバイスエンジニアリングなど、モノづくり系のプロジェクトを多くやっていて、ある程度知見がたまっていたタイミングだったんです。それが昨年2月のことでしたね。そこから5月の教育ITソリューションEXPOに向けて、「みらいのこくばんプロジェクト」のプロトタイプをつくっていきました。

面白法人カヤック・深津康幸氏(ディレクター)

佐藤:教育現場で導入されている電子黒板は、一部のリテラシーの高い先生だけしか使うことができない。おじいちゃん先生はいまもプリントした紙を黒板に貼っています。そういう現状があったので、単純にスーッと線が引けるとか、ガイドラインが出るとか、機能を絞ってシンプルなものにしました。そういうアイデアって、ブレスト上では普通すぎて面白くないと思うじゃないですか(笑)。でも、普通の黒板で成立していることに仕掛けを盛っても、結局は電子黒板と同じ道を辿ることになってしまうと感じました。

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