少子化する日本。変化する教育の現場に、進化するテクノロジーはどう関わっていくのだろう。果たして昔から使われている「黒板」を、現代型にアップデートしたら…!?そんなお題に、面白法人KAYAC(以下、カヤック)と、黒板の製造メーカーの株式会社サカワ(以下、サカワ)がタッグを組んで挑んだ。そして生まれたのが、ハイブリッド黒板アプリ「Kocri(コクリ)」だ。教育現場にイノベーションを起こすべくつくられたこのアプリの背景を聞いた。
スマホアプリへ思い切って方向転換、
重視したのは利便性と導入コスト
深津:2014年5月の教育ITソリューションEXPOでは、「みらいのこくばんプロジェクト」はすごく好評で、製品化に向けて動こうということが決まりました。最初は、電子黒板ではできない機能をボリュームアップしたものにしようとサカワさんと話してました。でも、一般的な教育の現場で活用してもらうことを考えて、スマホアプリで製品化することになりました。
佐藤:スマホアプリにしたのは大きな転換でしたね。そもそも学校とスマホって、イメージが相反するものなので、スマホを教室に持ち込む勇気がなかなか出なかった。そこが一番の壁でしたね。でも電車に乗った時とか、みんなスマホを使ってるじゃないですか。やっぱりスマホ最高、便利だなって振りきって、思い切って移行したんです。そこからはものすごいスピードを上げて開発が進みましたね。
面白法人カヤック・佐藤ねじ氏(アートディレクター)
坂和:教育の現場でコストを下げることはものすごく重要なんです。買ったもので何かに投資するということができないので。それと、授業をはじめて、すぐ接続できる状態になるということにこだわりました。スマホアプリにすることで、パソコンを立ち上げて…コネクタに繋いで…という一連の手間を省くこともできます。
佐藤:いままでの授業だと前に行って教えなきゃいけないのですが、スマホだったら教室内を縦横無尽に移動できるようになります。だから、先生がカッコ良く見える(笑)。これはけっこう重要です。スマホで手際よく「パパパ!」って授業ができる。電子黒板って使い方がちょっと難しいので、あたふたしちゃったりするんです。それだとカッコ良くない。
坂和:試していただいた先生からも、「早く使いたい!」とか「みんなに自慢したい!」という反響がありました。
佐藤:もう一つの問題だったのは、教室の中で、黒板と電子黒板が別々に置いてあること。デジタル使うときはこっちに行って、アナログ使うときはこっちに行って、って右往左往してしまう。その点「コクリ」だと切り替えがいらないし、アナログのチョークとデジタルの映像が凄くマッチするというメリットもあります。
最大の難関だったアプリ化、
「未来過ぎない未来」のリアルなデザイン
佐々木晴也(以下、佐々木):僕は「みらいのこくばんプロジェクト」には参加していなくて、製品版からアプリのエンジニアとしてチームに入っています。このプロジェクトって、等身大の未来というか、未来過ぎない未来ですよね。スマホというタッチポイントはいまの市場的にすごく理にかなっていますし。制作時には、機能的にも技術的にも難しいことはありませんでした。アートディレクターの佐藤と話しながら、ミラーリングとかプロジェクタで投影するUIなどの部分をいかに簡単にするかにこだわっています。
面白法人カヤック・佐々木晴也氏(iOSエンジニア)
深津:画像の同期や、用意した授業の資料をちゃんとスマホに送ったり、ドロップボックスを同期させたり、そういうところをリアルに使えるUIにしています。普通のiPhoneでデフォルトに入っているアプリに近い、イレギュラーなところのないデザインです。
佐々木:パソコン経由で作ったPDFをスマホ上で表示させたり、カメラロールの写真や、ネットで検索した画像を表示させたり。操作が簡単でそのまま使えるアプリにしました。いまはiPhone版のみの開発です。
佐藤:すごいのは、iPhone上でどれだけ操作していても、コクリに出さない限りは絶対黒板には映らないということです。
深津:あと、コクリの文字は、サカワさんこだわりの「教科書フォント」を使っています。これは結構大事なポイントです。
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