「デザインとアートを、もう一度結びなおす」 —立命館大学×丹青社が挑む、新しい産学連携のかたち(1)

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「デザインとアートを、もう一度結びなおす」 —立命館大学×丹青社が挑む、新しい産学連携のかたち(1)

立命館大学と、空間づくりを手がける株式会社丹青社。両者は2025年8月に包括連携協定を結び、2026年4月には同大学にデザイン・アート学部が開設。研究と実装、教育と事業創出が交差する共創フィールド「DESIGN ART GUILD(以下、DAG)」が動き出しました。学部では「いかに失敗したか」を表彰する奨学金がつくられるなど、従来の学びの枠に収まらない試みが始まっています。

デザインとアートの再結合を掲げる同学部と、空間体験デザインにおいて挑戦を続ける同社は、どのようなきっかけで協働を始めたのでしょうか?立命館大学デザイン・アート学部教授の八重樫文さん、丹青社の鈴木朗裕さん、辰巳奉弘さんにDAGの現在地や今後の展望について話をうかがいました。

ミュージアムの空間づくりから始まった、立命館大学と丹青社の出会い

――立命館大学と丹青社の連携はどのようなきっかけで始まったのでしょうか?

辰巳奉弘さん(以下、辰巳):立命館大学さんとは、「立命館大学国際平和ミュージアム」や、グラングリーン大阪のイノベーション拠点「ROOT」など、空間づくりを通じてご縁がありました。そのなかで、新しくデザイン・アート学部/研究科を設立されると伺い、丹青社のクリエイティブ領域とも親和性があるのではないか?と考えました。そこから「ぜひ一緒に新しい事に挑戦しましょう!」と話が進んでいきました。

当初は漠然と、立命館大学さんの学術的な知見をお借りできたらいいな、という思いを抱いていました。実際にお話を進めていくなかで、実に幅広い分野の教員の方々が参加されることを知り、これは空間づくりと学術の融合で、想像以上の相乗効果が生まれるのではないかと期待が膨らんでいきました。

辰巳奉弘さんポートレート

辰巳奉弘 株式会社丹青社 執行役員 関西支店長

――鈴木さんは、どのような経緯でこの連携に加わったのですか。

鈴木朗裕さん(以下、鈴木):私は社内の専門チームであるCMIセンター(クロスメディアイノベーションセンター)の所属です。丹青社の事業ドメインは空間の設計・施工・展示・内装ですが、CMIセンターはそれ以外の、テクノロジーを使ったコンテンツ制作やソフトウェア開発といったクリエイティブを先導して手がけてきました。

デザイン・アート学部との連携をどう進めるかについても、通常の事業ドメインのプレーヤーとは違う、新しい形での取り組みを模索するなかで立命館大学さんから声を掛けていただきました。

鈴木朗裕さんポートレート

鈴木朗裕 株式会社丹青社 CMIセンター 空間メディアマーケティング統括部 統括部長

――立命館大学は、この連携をどう捉えていたのでしょうか。

八重樫文さん(以下、八重樫):もともとデザイン・アート学部の設立は、新しい学部を立ち上げるというより、新しい大学教育をつくっていく機会だと捉えていました。それは物理的な話だけではなく、「大学で学ぶ人とは誰なのか」を問い直さなければならない時代になっているということです。

今も一般的には高校を卒業して大学に来るというプロセスが想定されていると思いますが、大学のあり方としては、社会人が学ぶ場所に変わっていくべきだと考えています。ここで言う「社会人」とは、すでに働いている人だけではありません。高校生も含め、社会に生きるすべての人を指しています。

そのために必要だったのが企業との新しい連携でした。従来の産学連携は、企業が課題を持っていて、それを大学に相談していただき、大学が応えるというモデルでした。そうではなく、まだ誰も気付いていない、あるいは企業側もまだ問題だと認識していないことを一緒に考え、探求していきたいと思っています。

八重樫文さんポートレート

八重樫文 立命館大学 デザイン・アート学部 教授・副学部長。専門分野はデザイン理論で、「現代社会におけるデザイン概念のマネジメント」「デザイン研究独自の存在論・認識論・方法論の構築」を研究テーマとする

「デザイン・アート学部」という名称への戸惑いと、「ギルド」と名づけた理由

――そうして立ち上がったデザイン・アート学部/研究科ですが、丹青社として、この学部名を最初に聞いたとき、どのような印象を持ちましたか?

辰巳:私たちの仕事においては、デザインは主に空間デザインを指し、アートは空間の中のアクセントをイメージします。そういう捉え方だったので、最初にお聞きした段階では、私たちのイメージする領域より遥かに広域で、デザインとアートにはそういった捉え方もあるんだと新鮮に感じました。

鈴木:「デザイン」「アート」の学びと言うと美大が思い浮かびますし、当社にも美大卒のメンバーはいます。ただ、デザイン・アート学部ではもっと広義のデザインが問われていて、これまで私たちが取り組んできたデザインのイメージとは異なるものでした。転換点になったのは、八重樫さんの「デザインとは、新しい意味を生み出すことである。それがデザインの本質だ」というお話でした。

私たちも空間や体験に意味をもたせて制作していますが、どうしても見た目をつくる「意匠のデザイン」に偏る傾向にあります。形をつくるだけならAIが代替でき得る時代であり、それだけでは十分な価値を生み出せないのではないかと気付かされましたね。

デザイン・アート学部で育む5つの能力「問題解決力」「創造的思考力」「問題発見力」「共創力」「問い直し力」と、応用する4つの領野「新たな『情報』、『社会』、『環境』、『意味』のデザイン」の図説

デザイン・アート学部で育む5つの能力と応用する4つの領野

八重樫:デザインとアートは類似した概念のように思われながらも、職業や教育の領域ではかなり遠いところにあります。大学でもデザイン系とアート系は学科・コースが分かれており、同時には学べないのが実情です。そうした捉え方ではなく、もっと近いものとして考えていこうというのがこの学部の基本的な構想です。

――教員・学生・企業が領域を横断して混じり合う場所を、「ラボ」でも「コミュニティ」でもなく「DAG」と名付けたのはなぜでしょうか。

鈴木:「DAG(DESIGN ART GUILD)」の「ギルド」は、ゲームで言えばミッションが用意されていて、それを選び、パーティーを組んで挑みに行くものです。DAGも同じで、テーマや課題を持ち寄り、仲間を集め、教員、学生、私たちが一緒になって挑んでいく。そんなイメージです。実は、遊び心で企画書に「ギルド」と書いてみたんです。そうしたら「ギルドって良いね」とみんなに言われて、そのまま残りました(笑)。

空間体験に宿る美的感性—第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で見えた可能性

――丹青社の事業の一つに、アート・工芸作品のプラットフォーム「B-OWND(ビーオウンド)」があり、2026年のヴェネチア・ビエンナーレ 公式サテライトイベントにも出展されています。連携が始まってから、両者が実際に同じ現場に立った機会の一つがこの展示だったそうですね。八重樫さんは現地でどのようなことを感じましたか?

展示室の空間を覆いつくすように設置された、竹工芸作品の展示風景

ヴェネチア・ビエンナーレにて、「B-OWND」による竹工芸家・四代目田辺竹雲斎さんの展示風景(撮影:Kouki Hatano)

八重樫:現代美術の国際展覧会ですから、私のようにデザイン理論を専門とする人間はやはりほとんど来ていないんですよ。そこにデザイン・アート学部としての見方、可能性がまだあると感じました。デザインの観点が入る余地はあって、丹青社さんの空間づくりとデザイン的な側面がもっと生かされる可能性を感じました。

辰巳:アート事業「B-OWND」を通じて出展した工芸作品を、ただ展示するだけでは私たちがやっている意味がありません。当社のデザインチームが「B-OWND」の事業ポリシーやコンセプトを空間と体験展示に昇華させ、空間全体として発信することにチャレンジしました。

鈴木:たとえば新聞や雑誌は視覚情報が中心のメディアですが、空間は多感覚です。ビジュアルをどれだけ計算しても、音の印象ひとつで受け取り方は変わってしまう。複数の感覚が作用し合うことが空間というメディアの特徴だと思います。

一方、アートには見る人の内面に働きかける力があり、同時に圧倒的な存在感で有無を言わさず何かを感じさせる力もあります。これは八重樫さんとお話するなかで感じたことですが、こうしたアートの存在は空間体験に不可欠だと考えるようになりました。デザインとアートを空間のなかで繋げていく試みを、立命館大学さんと一緒に学びながら実践していけたらと思っています。

――こうした空間というメディアの捉え方は、学部のカリキュラムにも反映されているのでしょうか。

八重樫:学部のカリキュラムの基盤となる考え方として、「直接経験」と「美的感性」を掲げています。空間は私たちが直接経験するものであり、デザインやアートを広い文脈で捉えるときにも、私たち自身がどう対象を経験し、理解するのかが重要です。議論はどうしてもデジタルやAIに向かいますが、まず直接経験することから始まるのではないかと考えています。

デザイン・アート学部のカリキュラムの図説

「経験」を学びの一環として重視するデザイン・アート学部のカリキュラム

八重樫:そこに生まれる美的な感性を中心に据えようというのが、この学部の基本的なコンセプトです。私たちは立命館大学の17番目の学部ですが、既存の学問体系のなかで美的感性を前面に出している学部はこれまでありませんでした。それを別枠として見るのではなく、多様な専門領域の中のひとつとして位置付ける必要があると考えています。

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