Web、タイポグラフィ、「伝える」ということ。「OnScreen Typography Day 2019」を振り返る

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Web、タイポグラフィ、「伝える」ということ。「OnScreen Typography Day 2019」を振り返る
タイポグラフィにかけられた「呪い」

カワセ:僕がオンスクリーンにおけるタイポグラフィについて人前でお話させていただくようになったのは、自分がフリーランスとして独立したときに最初につくったWebサイトが全部縦書きだったことがきっかけなんです。僕の中ではたまたま縦書きが好きで、情報設計しやすいし、ただそうしたってだけで大した理由もなかったんですけど。なぜかそれが少しだけバズって。そこからいろいろなイベントに呼んでいただくようになったんですけど、そのことにめちゃくちゃ違和感があったんです。

だって、紙でやるなら普通のことを、オンスクリーンでやっただけで急にすごいことみたいにされていて。そこで使ったJavaScriptだって僕は十分に理解していないし、なんなら何年前かからあったようなJavaScriptのライブラリを使ってやっているので、なんでここでこんなに持ち上げられるんだろうなと。

タイポグラフィってそもそも派閥というか、流派みたいなものがあるように“みえてしまう”部分があると思うんですよね。たしかに大別すれば、◯◯系のタイポグラフィなどといったこともありますが、別にそのことを守らないと殺されるみたいな話は特にないはずなのに(笑)。でもときどき殺されるのかみたいな勢いで突っ込まれることがあるんですよね。「君が言ってるのはタイポグラフィじゃない」みたいな。

有馬​:それを聞いて思い出したのが、アニメの予告編のムービーの仕事をしていたときに、公開した5分後くらいに「dumb quote(垂直のダブルクォートのこと。通常は使用しない)入っていますよ」ってDMが来たんですよね。僕もそれを見逃していて、はっとしたんです。でも、そういうことって素晴らしいなとは思うんですよ。詳しいひとや好きなひとたちが間違いを正していく。それはインターネットならではの情報への接し方というか、僕はティム・バーナーズ=リーにインターネットの使い方を教えてもらったと思っていて、オープンなインターネットを今でも信じているから、しゃべったことがないひとからDMが来るのは大歓迎なんですよ

土屋:インターネットで誰でも発信できることは素晴らしいことだと思うんですけど、そこに過度なルールの運用が行われると豊かではなくなっちゃうと思うんですよね。言葉って本来自由ですし、デザインもそうだと思います。その中で組み立てられていくルールそれ自体は「よりよくする」ために必要です。ただ、守らない者は絶対にダメという状況は苦しいし、そして守れば絶対大丈夫ということでもない。

有馬:僕も時々ふざけてツイッターとかで“タイポグラフィおじさん”について話したりするんだけど、やっぱりタイポグラフィってちょうどいい媒質なんですよね。おもしろいし、言いたくなっちゃう。タイポグラフィは、そういう呪いがかかった媒質だなとは思います。

マッシモ・ヴィネリが、「グリッドは下着だ」と言っていて、それは「だから見せるものじゃない」みたいな文脈の言葉だったんですけど、今のファッションで言うんだったら、あえて見せてるひとだっているわけですよね(笑)。そうやって、彼の意図とはちょっと違うかたちの世界もあるように、型から自由になろうとしている文化ってあるんですよね。それって豊かだと思うんですよ。ヒップホップのカルチャー出身のデザイナーがルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターをやっているみたいな。

鉄、水、土……Webサイトに感じる“っぽさ”

長谷川:私、オンスクリーンと印刷のタイポグラフィは全然違うと思っているんですよね。仕事としてはどちらもやっているんですが、意識としては全然違うんです。

オンスクリーンでは、言葉にほとんど機能がついている。ボタンやナビゲーションしかり、次のユーザーの行動を促す要素がたくさん散りばめられていて、その行動を促すためにデザインをしているというところがあります。ただ読ませるだけではなく、どう次の行動を促せるかということも考えながらデザインをしているので、感覚的には印刷と全然違うんですよね。だから、ちゃんとオンスクリーンのタイポグラフィを考えることはすごく重要だなと感じました。

有馬:オンスクリーンの場合、A4などといった白銀比の中にどうはめるかというよりは、何が入るかわからない箱の中でどうこうするという話になってくるので。コンテンツ自体はずっと縦に伸びていくわけだし、そもそもフォーマットとしての型が定まっていないから、考え方が違う。だからタイポグラフィも変わってきて当然ですよねということを、いつもグラフィックデザイナーと仕事をするときには話するんですよね。

後藤​:いつもよく例えるんですけど、Webサイトの場合はお弁当箱をつくっている感じなんですよね、テンプレートをつくっている、とも言えますが。

<strong>後藤健人</strong><br /> アートディレクター/デザイナー<br /> 1988年生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業。名古屋の制作会社を経て、2016年、日本デザインセンター入社。Webデザイン、フロントエンドの実装を中心に、映像・モーショングラフィックスなど、横断的にオンスクリーンメディアのデザインを手がける。<br /> 当日のセッション「バーティカル・グリッドでもっと深まるWebタイポグラフィー」では、Webデザインにおける縦方向の扱いについて語った。

後藤健人
アートディレクター/デザイナー
1988年生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業。名古屋の制作会社を経て、2016年、日本デザインセンター入社。Webデザイン、フロントエンドの実装を中心に、映像・モーショングラフィックスなど、横断的にオンスクリーンメディアのデザインを手がける。
当日のセッション「バーティカル・グリッドでもっと深まるWebタイポグラフィー」では、Webデザインにおける縦方向の扱いについて語った。

どんなおかずが入ってもちゃんとしたお弁当になるようにみたいな、そういうものをつくらなきゃいけないと思っていて。そのおかずは、つまりテキストだったり、画像だったりするのですが、画像なら正方形だったり、いろいろなフォーマットがあるなかで、そのいずれもが入っても問題ない“小鉢”があるみたいな。そういうことが大事かなと思っているんです。Webサイトでは、実装する段階ですべての要素をタグというもので囲わないといけないので、ある意味要素一つ一つが定義付けられた機能とも言えます。だから、機能がない場所はないんですよね。常に機能をつくっている。

長谷川:​Webサイトのなかのひとつひとつの機能をつくる上で、いろいろな思いがあるんですよね。企業の思いがあって、商品があって、伝えたい何かがあって、その先どうアクションしてほしいかとか、そういう意図もあって。そのコンセプトの出し方のセンスがみんな違って、意図が作り手のセンスを通してまっすぐと伝わってくるのがいいサイトなんだろうなと思います。

あと、結構話が脱線しますが、いろいろなデザイナーが作ったサイトをみていると、このひと“人間くさい”サイトをつくるなとか、“鉄”っぽいサイトをつくるなとか、作り手の作風ってかなり出てきますよね。“鉄”っぽいのほかには、“土”っぽいとか。

有馬:​その話けっこうわかります。鉄派はグリッドとか、「O」「A」みたいなグリフを気にしがち、みたいな感じ。“水”派の人は特に気にしないのにいいものをつくる、みたいなね。乱暴な分類ですけど。僕は自分でわりと鉄側の人間だなと思いますね。

長谷川​:有馬さんのつくるサイトって、鉄なんですよね。すごくいい意味で。

有馬​:実はすごく水になりたいんだけどできない、みたいな人間で(笑)。僕がちょっと長谷川さんにジェラシーを感じているのは、長谷川さんはもともと硬質な方なんだけど、ちょっとスライムっぽいところもあるんですよ。「なんで粘土にもなれるんだこのひと!」みたいな瞬間はあって。すげえ恥ずかしい、この話(笑)。

長谷川​:私は鉄を目指そうと思ってもなれないんです。それはないものねだりなんですよね。でも、たぶんそういった土になるか鉄になるかの違いって、1ピクセルの位置の違いの話だったりして、ここに置くか置かないか、といった積み重ねが“土”とか“鉄”の作風の違いになる気がする。この話、共有できてうれしい(笑)。

伝えたかったのは、Tipsではない「思い」

——イベントを振り返ってみてどうですか?

カワセ:「2回目やってください」はいろいろなところから言われたんですが、その一方でTipsを期待していらした方はやっぱりいっぱいいて、「Tipsがなくて残念でした」と言われたりして。でも、けっこうTipsあったと思うんですよね。

関口:​そうなんだよね。実は配慮したつもりなんだけどな。たしかに、いかにも「ここテストに出ますよ!」みたいな親切な出し方にしなかったというのは、きちんと来場者に満足して帰っていただくという意味では反省点でもありますが……。

カワセ:関口さんとは、CSSのプロパティを説明するとか、小技を紹介する感じじゃなくて、もうちょっと概念のところをがっちり話したいよねということは話していたんですよね。多角的にいろいろな考え方を見せて、「結局自分はどこに進んでいけばいいんだ?」というのを考えるきっかけを提供できるようなイベントになるといいよねって。

​あと、「正解なんてものはない」ということを受け取ってほしいなというのはすごく強くあるんです。フォントのことを知らないWebデザイナーでもきれいなグラフィックをつくったり、そういったことが許される世界だといいなと思っていて、そこは怖がらなくても大丈夫だと思うよと。本来は、わざわざオンスクリーンって分ける必要だってないはずだと思うので。

桝田:普段僕もけっこうTipsの話をすることが多いんですけど、今回のイベントでは、ものをつくるときの行動の話じゃなくて、「思い」とか理念の話をしたんですよね。エンジニア界隈ってTipsの話をすることが多かったりするので、そういった話はあんまりしないんですよね。それは僕も含めたエンジニア側の怠慢でもあったと思うんですが。

イベントが終わってからアンケートを拝見したり、ツイッターのハッシュタグとかを見ると、届いたひとには確実に届いた手応えはすごくありました。意外とエンジニアもデザイナーと同じことを考えているってことを伝えたかったし、そういうエンジニアと一緒に働けていないデザイナーがけっこういると思うので。

カワセ:皆さん共通で話していたなと思ったのは、理念に基づいて仕事をしましょうみたいなことかなと思っていて。これは別に無理に高尚である必要は全然なくて、理念があって、その上で作業する、という繰り返しでしかないと思うんです。

関口​:イベント当日は僕のセッションはなかったんですが、僕にとってのセッションはLP制作だったんです。散々悩んで、LPとは言えない構成にしちゃったんですが、その日来てほしい誰かに長い手紙を書いたんですね。その文章も最初は全然だめで、何回も書き直したり、土屋さんに泣きついたりもしたんですけど(笑)。

「なにかを伝えるということ自体を考える」ことを、様々なバックボーンのある方たちとある種ごちゃ混ぜになってやりたかったんですよ。世の中いろいろなことが起きているなかで、それに向き合うには、やっぱり泥臭くもがくこと。そしていかに根っこの部分で真っ正直に伝えるか、ということに尽きると思うんですよね。そのことに向き合いたかったんです。

聞き手:瀬尾陽 撮影:高木亜麗 文・編集:堀合俊博(JDN)