6月9日、“オンスクリーン”におけるタイポグラフィについて、7人の登壇者たちがそれぞれの考えを発表したイベント「OnScreen Typography Day 2019」が渋谷Abema Towersにて開催されました。中心となったのは、日本デザインセンターのクリエイティブディレクター/デザイナーの関口裕さんと、POLAAR代表を務めるコンセプター/デザイナーのカワセタケヒロさんの2人。当日は、なにか答えを提示するようなセミナーでもなければ、Tipsを紹介するレクチャーでもない、 “オンスクリーン”という言葉をめぐって、さまざまな考えが交わされる1日となりました。
7月終わりの某所、ふたたびイベントに登壇した7人が集まりました。なぜ、オンスクリーンについて語り合うイベントを実施したのか。そして、そもそも“オンスクリーン”とはどういう意味なのか。主催の2人が感じていた、Webにおけるタイポグラフィにまつわる違和感を中心に、ふたたび7人による対話がはじまります。
「言葉からはじめましょう。」という、関口さんによるイベントLPのテキストと同様に、その日も“オンスクリーン”という言葉からスタートしました。
“オンスクリーン”という言葉をめぐって
——まずは、イベントを開催するに至った経緯について聞かせてください。
関口:もともと僕はDTP上がりっていう経歴があるので、オンラインやWebまわりにおけるタイポグラフィや文字表現というものをこだわっていきたいみたいな気持ちがあったんですよ。それで、業界の底上げというか、オンスクリーンにおけるタイポグラフィを、もっとよくしていくための機会をつくりたいなあということを、カワセさん含めいろんな方とお話していたんですよね。
カワセ:関口さんとは、「FONTPLUS」のサイトリニューアルを手がけられたタイミングではじめてお会いしたんですが、どういう考えでサイトをつくられたかについて聞かせていただく機会があって。そのときにお話しいただいた内容が、僕が今までWebでタイポグラフィをやるということについて考えていたことを、まるまる実践されている印象を持ったんです。
たしかに、そういったWebにおけるタイポグラフィについて話がのぼるたびに、関口さんの名前も聞いていたんですよね。その後、じゃあそういうイベントをやれたらいいね、みたいな話が持ち上がって、じゃあ声をかけたい人が何人かいるから、と関口さんがキャスティングを進めてくださって、スタートしたという感じでした。
——イベントを企画しようと思った時点で「オンスクリーン」という言葉は使っていたんですか?
関口:いや、使っていなかったですね。でも、名前をつけないことにはイベントの企画が進まないので、とりあえずつけなくちゃとは思っていたんですが、「Webタイポグラフィ」だと狭いし、「インターネット」でも狭い。かといって、「デジタル」ってわけでもないときに、じゃあなんだろう?っていう感じで、なかなか適切な言葉がみつからなくて。
カワセ:僕がオンスクリーン・タイポグラフィという言葉を一番最初に聞いたのが、2010年にJAGDAで行われた「言葉のデザイン 2010 オンスクリーン・タイポグラフィを考える」という原研哉さんによる研究会で、当時はその言葉にすごく違和感があって。
ただ、結局デザイナーの職種って、媒体ごとに分けているじゃないですか。そういう意味でいうと、大別すれば確かにスクリーンデバイスの上=“オン”なわけで、そこでのグラフィックをつくるデザイナーがオンスクリーンという分け方になるのかなと、なんとなく自分の中では腹落ちはしてはいるんです。
有馬:僕もはじめて「オンスクリーン」という言葉を聞いたのは、原さんの口からだったんですが、正直そのときは「うわっ……」って思って(笑)。オンスクリーンっていう言葉は、もともと放送用語だったと思うので。
ただ、それって自分の感覚がちょっと硬直しすぎているのかもなという気も同時にしていて。当時の2010年の世界って、iPadの熱にまだみんながうなされていた時期でもあったんですよね。やべえ、これから電子書籍にどう対応しようかな、みたいな、やらなくちゃいけないことが急に増えていて。なので、そういった状況に適した言葉が求められいて、そこにフィットする言葉が再編集されたというか。
——オンスクリーンという言葉を聞いたとき、みなさんはそれぞれどう感じましたか?
長谷川:私は普段は全然オンスクリーンという言葉は使っていなくて、身の回りにもなかったのでなじみはありませんでした。なので、はじめて聞く言葉として捉えたのですが、「オンスクリーン」という語感自体は、嫌いじゃないです。もしタイトル名が「オンスクリーン」ではなくたとえば「デジタルタイポグラフィ」だったとしたら、違和感を覚えたかもしれません。
有馬:長谷川さんに質問なんですけど、“デジタル系のデザイナー”と言われたらイラッとします?長谷川さんはそういったお仕事をメインにしているかもしれないけど、アートディレクターとして仕事されている気がしていて。
長谷川:確かに、ちょっと違和感があります。なんだろう、たぶんそれって、デジタルタイポグラフィだと、ピクセルや解像度についての話になるけれど、オンスクリーンだと、“オン”がついているから、それをみているひとや場所も含めて、その周りにあることについて言っているような気がするんですよね。
関口:すごく正直に言えば、もやもやは抱えつつも、悩んでいたらイベントはできないので、もうええわってつけちゃったんです。これは完全に開き直りなんですけど、そもそもこういう議論が生まれるということが、結果的によかったんじゃないかなと思ってますね。
タイポグラフィのイベントに、編集者とエンジニアが登壇するということ
——必ずしもオンスクリーン分野ではない方も含めた、登壇者の幅を広くした意図はありますか?
関口:みなさんにお声がけした段階で、うっすらと僕の中ではそれぞれこういうことを話してほしいなというのはあって。なので統一感のなさは意図していたことではありました。
僕の中で、桝田さんと土屋さんの存在は今回かなりでかいと思ってるんです。主にデザイナー向けの、デザインについてのイベントだけど、デザイナーと名乗っていないひとが登壇する、ということが僕の中では大事で。
なぜかというと、ピュアなタイポグラフィではない観点も、オンスクリーン的なるものの文脈ではあり得ると思っているんです。例えば、この文脈だったらこういうタイポグラフィもいいじゃん、みたいな観点が無数にあるはずで、その中のどれを選び取るのか、という話で。別に何が間違っているとかじゃなくて、いろいろな角度からみんなで話していかないといけないだろうなという課題感は、僕としてはあったんです。
土屋:関口さんからイベントについて依頼されたときは、 Webの世界の積極的に学ぼうとする姿勢がある中で、Tips系のトークやセミナーはたくさん行われていると思うんですけど、その先の未来にはなにがあるのかな、「明日使えるテクニック」ではなくもう少し大局的な探求ができないかな、みたいな話をしていたんですよね。
それに、“正しくて間違いのないテクニック”について話してくれと言われたら、私は自分の口から話したいことが特にない。関口さんはたぶんそこをわかって私に依頼してくださっていて、本当にいま思っていることをしゃべればいいって言われて。
それならば、伝わる・伝えるということにまつわるあれこれについて、編集的な立場で日頃思っていることを話してみようと考えました。
——桝田さんはいかがですか?
桝田:僕が関口さんからイベントへのお誘いいただいたときは、たぶんまだオンスクリーンというイベント名が冠される前だったと思うんですが、関口さんには「ぶちかまして」と言われていて(笑)。
僕はビジュアルをやる人間でもなければ、タイポグラフィをやる人間でもない。どちらかというと僕はオンスクリーンではなく、スクリーンレスというか、スクリーンに載らないところ、見た目には出てこないところを中心にやっているので。ある意味自分がもうそういったオンスクリーン領域の人間ではないということは最初からからわかっていたので、クラシック・ジャズが流れていても、いきなりビートをぶちかますみたいな(笑)。そんな感じの勢いでいったんです。
土屋:桝田さんがビートをぶち込んでくれたおかげで、あとの我々(土屋、有馬)がラップできた、みたいな(笑)。