「家」を舞台にした物語『未来のミライ』。細田守監督が映画と展示を通して伝えたいこと

「家」を舞台にした物語『未来のミライ』。細田守監督が映画と展示を通して伝えたいこと
『時をかける少女』や『サマーウォーズ』などの話題作を世に送り出してきた、細田守監督の最新作『未来のミライ』(スタジオ地図作品)が現在公開中だ。同作は、主人公くんちゃんが住む家の設計を建築家の谷尻誠さん(SUPPOSE DESIGN OFFICE)、物語で重要な役割を果たす「黒い新幹線」のデザインを川崎重工業の車両カンパニーに所属する亀田芳高さんが手がけるなど、デザインという観点からも注目を集めている。そして現在、映画の世界を体感型展示・最新テクノロジー・原画・背景画などを通じて表現した『未来のミライ展〜時を越える細田守の世界(以下、未来のミライ展)』が東京ドームシティ Gallery AaMoで9月17日まで開催。東京・大阪・富山で延べ13万人を動員した『バケモノの子展』に続く、細田守作品としては2回目の大規模展覧会となる。「家」を舞台にした物語に込められた想い、そして展示という手法を用いて、映画を立体的に表現して伝えたかったことを、細田守監督にうかがった。

――まずは、4歳の男の子を主人公に据え、「家」を舞台にした物語にしようと思ったきっかけを教えてください。

4歳の男の子を主人公にしたのは、自分の家にも下の子ができたことで、上の子が両親の愛を奪われて、苦悩している姿を見てすごいおもしろいなと思ったんです。それと4歳児そのものがおもしろい存在だなと感じるのは、「世界」というものすべてが「家の中」という最後の年齢だというのがあります。そこからは、だんだん社会性が芽生えてきて、小学生にもなると「小学校」と「家」の両方が世界になってくるんですよね。だから家の中が世界のすべてという限定された視点でのおもしろさが描けるんじゃないかと思ったんです。

身長100cmくらいの4歳児にとっては、大人が海外旅行や日本のいろんな場所へ遊びに行ったことと同等の範囲が家の中で、世界の果てが玄関なんです。僕らがすでに失ってしまった視点で、もう1回家を見てみるとどんな風に映るだろうか?というところから、建築家の谷尻誠さんと家のデザインを考えはじめたんですね。

谷尻誠さんが設計した家のリビング

谷尻誠さんが設計した家のリビング

――細田監督から谷尻さんにはどのような要望を伝えましたか?

僕からは、主人公から見たら家が世界のすべてということと、庭を中心にした家であってほしいというのが要望としてはありました。あとは、家が映画のすべての舞台になるわけですから、子どもが走り回って楽しい空間にしてほしいということが1番の要望だった気がします。それを造型的にどう応えるか、谷尻さんは随分悩まれたと思うんです。1回進め出してみたら恐ろしい豪邸になっちゃって(笑)。豪邸ではなく、もっと現実的な延床面積でつくっていこうとなり、谷尻さんから2つコンセプトが出てきたうちの1つが段差の家だったんです。

テーブルを2つ使って、大きなダイニングテーブルに。不ぞろいの椅子にも家主のこだわりを感じる

テーブルを2つ使って、大きなダイニングテーブルに。不ぞろいの椅子にも家主のこだわりを感じる

『未来のミライ』全編で重要な役割を果たす中庭

『未来のミライ』全編で重要な役割を果たす中庭

――舞台は横浜市の磯子区あたりですよね?わりと傾斜が多い地域かと思いますが、その傾斜を活かしたつくりの家なんですか?

物語の舞台は横浜市の磯子区と金沢区あたりをイメージ

物語の舞台は横浜市の磯子区と金沢区あたりをイメージ

そうですね、磯子区と金沢区の中間くらいですね。必ずしも磯子も金沢も坂道ばかりとは限らないですし、造成すれば水平な土地にもできます。実際ほとんどの家がそうだから。磯子だからこういう家になったわけではなく、もともと舞台としては決まっていて、さらにそれを活かした傾斜地に建つ家という点では、場所とコンセプトが合致してますよね。

傾斜地だからそこまで土地の価格は高くないし、造成していないからその分の値段も抑えられるし、しかも設計がおとうさん本人ですからね。さらにコストダウンできるんじゃないかと。そのうえで延床面積が148㎡あるんですけど、そのぐらい確保できたというのはある種、苦労の表れだと思いますね。

傾斜を生かして段差を使った構造

傾斜を生かして段差を使った構造

リビングはそんなに広いわけではないけれど、壁を取っ払うことで広めに見えています。もともとは前庭だったところを潰して離れをつくり、その間に中庭を配すことでより大きな空間にして、さらに言えば段差で傾斜させることによって風も通るということを谷尻さんと考えました。

オレンジ色の屋根が主人公の住む家

オレンジ色の屋根が主人公の住む家

部屋と部屋の段差はそれぞれ100cmなんですけど、それがちょうど4歳児の背丈と同じくらいなんです。つまり、主人公のくんちゃんが見ている世界と大人が見ている世界は、視点によって全然違うのもこの映画ならではというところかな。本当のことを言えば、子どもは成長するから、子どもの身長から造型しないんですけどね(笑)。

――細田監督ご自身は、家という場所でなにか工夫されていることはありますか?

今回の家のデザインにも関わってくると思うんですけども、けっこう壁を使いますよ。写真を貼ったり、誕生日会の時に「お誕生日おめでとう」みたいなメッセージを紙で切って貼りつけて、お祝い感を出したりとか。僕はそういうことをまったくやらない家に育ったんですけど、うちの奥さんはそういうのをやりたい派でして。うちの子どもも幼稚園でつくったものを貼ったりしています。

赤ちゃんにミルクをあげるおとうさんと、ミルクのやり方をレクチャーするおかあさん

赤ちゃんにミルクをあげるおとうさんと、ミルクのやり方をレクチャーするおかあさん

「子どもが素直に育つためには小さい頃からの写真を貼っておくべき」という話を、大学生くらいのお子さんを持つおとうさんが言ってたんです。「こういう風に育ったよ」という家族の写真を貼っておくと、子どもはむちゃくちゃなことにならないって(笑)。本当かどうかわからないけど、一理あるなと思うじゃないですか。そのために壁を確保する必要があるので、リビングにだーっと並んでた本棚を全部撤去しましたからね。

――ちなみに、家自体が生命や記憶のようなものを帯びると感じることはありますか?

やっぱりそういう要素はあると思いますね。例えば、上の子がいま5歳ですけど、それこそ子どもが産まれた時と、5年経った時といまとでは物の配置がだいぶ変化している。これがまさにいま直面していて、うちの子が来年小学生なんですけど、小学生になるということは部屋に問題があるんですよ……。同性だったら1部屋に押し込んじゃえってなると思うんですけど。うちはこの映画のように男と女なので、同じ部屋というわけにはいかないから、どういう風に再構成するかって難しいなと(笑)。

子どもの成長に合わせて家の中がどんどん変わっていく、そういうところが有機的ですよね。家族そのものを映すのが家なわけだから。今回の家も伝統的な家を描写しているわけではなくて、新しいこれからの僕らにとっての家族というものを探していこうという映画です。なので、歴史が堆積していくような家というのを谷尻さんとコンセプトにしたんですよね。

最初はもっとコンセプチュアルで、家族の歴史が詰まってるものにしたいということで、壁に地層みたいなものをつくるというアイデアが出たんだよね。それは1回CGでシミュレーションしてみたんだけど何だかわからなくて(笑)。もっと具体的に家族の歴史を受け継ぐようなものがいいということになって、それがキャビネットやダイニングテーブルだったりするんですよ。新築を建てる時に、昔の家で使っていたものを引き継ぐというのが建築家らしい考え方だなと。細かく見るとわかるんですが、日焼け跡とかもそのまま残っていたりします。

普通はせっかくだから新品にしたいと思いがちだけど、そこはやっぱり建築家だからこそ、古い材料を古いと思わないというか、味のある材料だと思って使うんじゃないかなと。もし、建築家と新しく家を建てることになって、そういう新しい切り口を見せてもらえたとしたら、僕らもそういう風にするかもしれないですよね。

――「未来のミライ展」は、細田監督作品としては2回目となる大規模展示になりますが、今回はどういうことを目指しましたか?

『バケモノの子展』(2015)の経験としてあるのは、美術設定の上條安里さんに「渋天街」の門をつくってもらったのですが、それは本当に映画の中に入ったような没入感がありました。そういうところを今回も出したいなって思っていたことが1つありまして。特に今回は、川崎重工業の亀田芳高さんがデザインした「黒い新幹線」のシートはすごい熱望してたんですよね。「ぜひ座りたい!」と。無事座れることができて満足しています(笑)。

未来の東京駅と黒い新幹線

未来の東京駅と黒い新幹線

黒い新幹線のシートに腰かける細田監督

黒い新幹線のシートに腰かける細田監督

もう1つはアニメーションのつくり方をもっと知ってほしい気持ちがありました。原画や美術を間近で目にしていただく機会をぜひつくりたい、その2本の柱が大きいと思いますね。

もっと言えば、黒い新幹線にしても、tupera tuperaさんの絵本『オニババ対ヒゲ』にしても、いろいろつくり込みながら進めてきたことを見てほしいんですね。黒い新幹線が登場するのは物語の最後の方ということもあり、どういう展開で使われてもいいように全体を通してつくってくださいとお願いをしていました。結局、本編では一部分しか使うことができなかったんですが。また『オニババ対ヒゲ』も本編に出てくるのは数ページなんですけど、実際にはまるごと1冊描いてもらっています。

tupera tupera オニババ対ヒゲの巨大絵本

tupera tupera オニババ対ヒゲの巨大絵本

子どもがワクワクするものをつくっている人へのリスペクトというのかな。新幹線や絵本は大人が何も言わなくても子どもの気持ちを掴んじゃうわけなんですよ。そういう子供をワクワクさせるものをつくる人たちにリスペクトを捧げたいというところがあり、この展示の中でそういう想いがしっかり表現できたので嬉しいですね。

子どもを育てている身としては、子どもを取り囲んでいるものにすごい恩恵を受けているんです。もちろんその子どもが成長していけば、年代ごとにお世話になるものが違うのかもしれないですけど。それらがあるおかげで、豊かな子ども時代を過ごせるわけですから、本当にありがとうございます!という感じなんですよね。

――展示のラストとなる、「ポストショー・細田作品インデックス」をご覧になった感想は?

作品上で、ほかの作品とリンクすることってないと思うんですけど、展示で作品がリンクされると全員集合感が強くなるのがおもしろいですよね。展示ゆえというか展示ならではだと思います。

ポストショー・細田作品インデックス

ポストショー・細田作品インデックス

――「未来のミライ」はこれまでの細田作品の延長線上にあるものなのか、それとも独立したものなのか、監督ご自身はどのように感じていますか?

やっぱりタイムリープ的なものがあるから、いままでの集大成という風に見てくださる方もいますね。自分としては、子どもは不思議な世界と常にリンクしている存在だと思っていて、それを映画で表現しようとするとこうなるというところがあるので、必ずしも集大成だと思ってないんですけど。ただ、(『時をかける少女』の)真琴と並んで展示されていると、納得感がある気がしてくるから何とも言えませんね。その作品単体で完結するように当然つくってはいるんですけど、とは言えひとりの人間が考えていることなので、アイデアとしては重複することがあったり、もしくはアニメーションの技術も積み上げられたものがあります。

未来の東京駅

未来の東京駅

例えば、植物を動かしてみたりとか、もしくは群衆シーンをつくってみたりとかは、やっぱり積み上げ、積み上げの上にあるっていうかね。『バケモノの子』あっての今回の東京駅の群衆だなという気がするし、『おおかみこどもの雨と雪』の自然描写があってこその今回の庭だなという気もします。そういうところで言えば、この展覧会を見ると「積み上げの上にあります」「関連があります」と言わざるを得ない(笑)。こうして一気に並んでいるのを見ると、うちの子どもたちも早く連れてきたいと思います(笑)。

等身大のミライちゃんとは一緒に撮影することも可能

等身大のミライちゃんとは一緒に撮影することも可能

取材・文:瀬尾陽(JDN)

未来のミライ
http://mirai-no-mirai.jp/

未来のミライ展〜時を越える細田守の世界
https://mirai-ten.jp/#/

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