ミラノデザインウィーク2017 インタビュー/吉泉聡(TAKT PROJECT)

ミラノデザインウィーク2017 インタビュー/吉泉聡(TAKT PROJECT)
自動車の部品からミシンなどの住生活商品まで、幅広い分野で事業を展開するアイシン精機株式会社。4回目となる今回の出展テーマは、「The next frontier in mobility」。モビリティの新しい時代を拓き、人とクルマの新たな関係をリードしていくことを目指している。これからのモビリティ社会において注目度の高い「自動運転」「コネクティッド」「ゼロエミッション」の3つの技術領域への取組みをクリエイターが表現した。この記事では「自動運転」を担当した吉泉聡さん(TAKT PROJECT)に、作品プロセスや現地の人からの反応などを語っていただいた。
車の“気配”を感じさせるインスタレーション

一見何もない、黒い液体が張られた水盤に突如タイヤの軌跡があらわれるというインスタレーションを発表しました。自動運転の実現に重要な技術を“気配”として感じさせることで、車の動きの美しさを表現しています。4つのタイヤの軌跡が走り去るんですが、ちょうど車のタイヤの位置と原寸で表現されているので、実際に車が走っているように鑑賞者の前を過ぎ去っていきます。

自動車の部品の数は3万点と言われているんですが、その多くをつくっているのがアイシン精機。もともと彼らの主要産業が自動車部品なのですが、過去3年間で出展した際には車に関してフォーカスしていなかったので今年は主要産業をアピールしたいという思いがあったようです。

一番最初に僕の中で思ったのは「あまり車の形を出したくないな」ということでした。車の形をつくってしまうと自動車メーカーの展示みたいに見えるので、そことの違いをどう表現できるかが課題だと考えました。自動車をどういう風に下支えしているメーカーなのか、わかりやすく伝えなければいけないなと。

自動車はモビリティとも言われますが、「モビリティ=移動するもの」なので、一番大切なのは「移動する」ということをどういう風に考えるかだと思うんです。アイシン精機は動きそのものを部品を通してつくっている会社だと解釈して、形を出さずに車がどう動いているかというのを端的に表現できたら、アイシン精機の価値を本質的に伝えられるんじゃないかなと思いました。

あえてアナログな動きで表現した、タイヤの軌跡

8.0×4.5mの水盤に張られた黒い液体は磁性流体といって、砂鉄のように磁石に吸い寄せられる性質を持っています。仕組みとしては、水盤の下でタイヤ跡型の磁石を搭載したロボットが動くと、それに合わせて磁性流体が反応し、模様が浮き出るようになっていました。

流し込んでいるのは、砂鉄のように磁石に吸い寄せられる性質を持った磁性流体

タイヤ跡型の磁石をのせたロボットが走ることで、軌跡が生まれる

タイヤ跡型の磁石をのせたロボットが走ることで、軌跡が生まれる

動きのパターンがいくつかプログラミングされていて、ロボットはそれに応じて動きます。あまり速いと来場者が気付かない可能性があるので、時速はだいたい20kmくらいに設定していました。ゆっくり流れている方がストップモーションのような感じで見えるということがわかったので、当初想定していたよりも少し速度を落としました。

今回難しかったのは、ロボット、ロボットを走らせるライン、そして水盤の柱の位置関係を決めることでした。床に引いてあるラインを赤外線で読み取ってロボットが走る仕組みになっているのですが、8.0×4.5mという大きさの水盤の水平を保つために立てられた柱がたくさんあるので、それを避けながらロボットを走らせなきゃいけない……。その水平を出しつつ効率よく、3者のいい位置関係をつくるっていうことがポイントでしたね。もともとは下に電磁石を一面敷いて、プログラム制御で表現しようかとも思ったんですが、あんまり表現としてタイヤのパターンに見えなかったんです。実際マシンが走るっていうのが一番きれいに見えたので、アナログな形に落ち着きました。

磁性流体を流し込み、準備をおこなう吉泉さん

磁性流体を流し込み、準備をおこなう吉泉さん

中の様子

水盤の下の様子。水平を保つため、数多くの柱が設置されている

「日本的」と言われた予想外の反応

僕らも予想外だったんですけど、見た人の反応として多かったのは「日本的だね」と言われたことです。静寂な風景の中にタイヤがサーッと走っていくので、石庭とかを想像するという意見がけっこうありました。

来場者には、このインスタレーションの見た目はすごくシンプルでサイレントだけど、中はすごくテクノロジカルで、それはアイシン精機が取り組んでいることに本質的に近いんだという風に伝えました。人に優しい車の動きをつくっているんだけど、中でやっていることはすごくテクノロジカルだという話をするといっそう納得してくれました。

あと、中身や仕組みについてどうなっているのかってよく質問されました。ロボットが走っている下の部分を見えないように囲っていましたが、「中を見たい!」って多く言われましたね。だから、たまにメンテナンスで下を開けると人がガーって集まってきて、中がどうなっているのかみなさん興味津々でした(笑)。

会場が由緒あるトリエンナーレ美術館だったという場所性もあると思うんですが、ゆっくり時間をかけて見て下さる方が多かったです。デザインに興味がある人やちゃんと理解したいっていう人が多いのかなって印象は受けました。

ミラノで終わりではない、ここから企業活動の幅を伝えていく

技術的に難しい点が多かったので、僕の素直な感想としては「ホッとした」の一言に尽きます(笑)。たくさんの予算をかけて自社のプロモーションをできる場所はミラノ以外にはなかなかないのですし、アイシン精機にとっても特別な体験だしプロセスだったと思います。

今回、アイシン精機の中で仕切っていたのは広報部の方々だったんです。アイシン精機がミラノで何をやったかっていうことに興味を持ってくれる人はもちろん、社員にも見せたいという話をしていました。ミラノで打ち上げ花火的に終わるんじゃなく、企業活動のプロモーションの幅を広げていくっていうストーリーが彼らの中にはあるみたいですね。実際まだやるかは未定ですが、国内でも発表できたらうれしいですね。

撮影:大木大輔
構成・文:石田織座(JDN編集部)

吉泉聡(TAKT PROJECT)/デザイナー
デザインファーム「TAKT PROJECT」代表。DESIGN THINK+DO TANKを掲げ、「別の可能性をつくる」さまざまなプロジェクトを展開している。クライアントワークと平行し、実験的な自主研究プロジェクトも行い、その成果はミラノサローやメゾン・エ・オブジェ、ヘルシンキデザインウィークなど国内外で発表。研究成果から得られたナレッジと、多様なバックグラウンドを持ったメンバーにより、ジャンルを問わずプロジェクトに応じてデザインの役割を最大化する独自のアプローチを特徴とする。

http://www.taktproject.com/