桑沢デザイン研究所が生んだファッションの心-中村淑人×三上司×渡辺奈菜(2)

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桑沢デザイン研究所が生んだファッションの心-中村淑人×三上司×渡辺奈菜(2)
Vol.1 プロの感覚を育てる超実践主義と自立心を育む自由な校風
Vol.2 ファッションだけにとどまらない、可能性を拓く学び
Vol.3 現場で実感する、桑沢のファッションデザインの総合力

1954年の設立以来、桑沢デザイン研究所は多くのファッションデザイナーやアーティストを輩出してきた。ドイツのデザイン学校「バウハウス」のカリキュラムを軸とするだけあり、他のファッションデザイン系専門学校にはない総合力が身につけられると有名だ。そんな桑沢デザイン研究所で1990年代からファッションデザイン教育に携わってきた中村淑人先生を中心に、かつての教え子であり現在非常勤講師もつとめる、「TSUKASA MIKAMI」のデザイナー三上司さんと浴衣などを扱う「SUPER SEVEN」のデザイナー渡辺奈菜さんに、桑沢デザイン研究所の独自性やファッション業界で求められることについて鼎談をおこなっていただいた。

Vol.2 ファッションだけにとどまらない、可能性を拓く学び

中村:課題や授業で印象に残っているものはある?これは大変だったな、とか。

三上:僕は1年で受けたプロダクトの授業ですね。立体造形や点・線・面の考え方など、造形の基礎にはすごく刺激を受けました。普通なら服は布でつくるものだけど、アクリル板や紙を服の素材に使ったり、逆にテーマを元に素材を考えたりと柔軟な考え方ができるようになった気がします。

基礎造形

渡辺:私は3年で受けた外部講師によるデザイン学の講義です。各デザイン分野の第一線で活躍する方のお話が聞ける機会は貴重ですし、毎回楽しみにしていました。前学長の内田繁先生、ハローキティを企画された久保田達也さんなど、とても豪華な顔ぶれでしたから。眠そうにしている人もいましたけど、もったいないなと思っていました(笑)。

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中村:確かに桑沢のデザイン学の充実度はかなりのものだと思います。ファッションの世界に特化した内容が重視されがちですが、フェアトレードやサステナブルデザインに知的財産権など、ファッションビジネスの部分まで網羅しますからね。

個性と才能を自覚させ、ファッションへの興味を育てる

渡辺:日々の授業が終わると先生に質問しに行くこともよくしていました。課題も多くて大変でしたけど、授業は楽しかった覚えがあります。

中村:二人とも寡黙だけどすべてをきちんとやり遂げられる学生だったよね。卒業制作も非常に個性的で優秀な内容だった。3年のゼミや卒業制作はどんな感じでしたか?

三上:僕はテキスタイルの眞田ゼミ(現 LIVING Textile Designゼミ)で、考え方を大切に、掘り下げてものづくりを行う授業でした。必要があれば素材を一からつくることも普通なので、作業は辛かったけど楽しかったですね。卒制ではシーチングでつくったシャツを燃やして、その燃えかすを布にしてシャツをつくる作業を繰り返し、最後は墨になるというインスタレーションをやりました。

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中村:生きる上でのデザインを追求するために自分ととことん向き合う、というやり甲斐のあるゼミだよね。自分で制作した衣服を纏ってパフォーマンスやインスタレーションを行うから、ファッションのゼミだけどアート要素も強い。

渡辺:私はプロダクト系のゼミで、卒制ではトレンチコートつくりました。映像を学んでいたこともあり、洋服も映像的な見え方がするモノがつくりたかったんです。そこで、ベーシックなアイテムを4体並べることで時間の経過が表れ、ストーリーが浮かび上がる作品を提出しました。

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中村:2人とも卒制と並行したと思うけど、就職活動はどう進めていましたか。

三上:僕は就職に関しては楽観的でしたね。コレクションブランドのインターンとアルバイトを並行しつつ、こんな感じで洋服をつくり続けられればいいなぁ、という感じで。ただコンペには自主的にいろいろと出していましたね。卒業制作を派生させた作品が入賞したこともありました。

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(左)三上さんが高校時代に初めて見て影響を受けたというダムタイプの「memorandum」。衣服に興味を持つきっかけともなった。(右)コンペで入賞した作品。破壊と再構築の繰り返しがテーマ

渡辺:逆に私は、入学した時から就職したいと強く考えていました。3年になってパリコレに行きたいと考え、イッセイミヤケとコム・デ・ギャルソンに狙いを定めて活動しました。運良く入社できましたが、落ちていたら今頃どうなっていたか…(苦笑)。

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渡辺さんが在学時に描いていたスケッチと、課題で作った作品のプレゼン資料

中村:桑沢にも滝沢直己さん、藤田恭一先生、眞田岳彦先生とイッセイ出身の先生が多いのですが、国内外から志望者が集まるブランドだけに大変だったと思います。実は、国内大手メーカーのチーフクラスにも桑沢の卒業生が多いんですよ。小さい学校ですが、総合的なディレクション能力を持つ人材を輩出してきた歴史の一端なのかなと思いますね。

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