エンパシーを育む「土」となる、「茶々だいかんやま保育園」のクリエイティブディレクション

エンパシーを育む「土」となる、「茶々だいかんやま保育園」のクリエイティブディレクション

「持続可能な未来の主役を育む。」ことをコンセプトに、⾃然に対する感性を広げることができる保育園として2021年4月にオープンした「茶々だいかんやま保育園」。土壁や天然素材などの自然物を多用し、環境や多様性への意識を高めることができる空間が特徴である同園のクリエイティブディレクターとして、相鉄グループや中川政七商店、Oisixなど、さまざまな領域のブランディングを手がけてきたgood design company代表の水野学さんが参加しています。

関東近県に16園を展開する茶々保育園グループは、保育⼠の地位向上に向けた「オリジナルウエア開発」や「スタッフ名刺制度の導⼊」など、保育業界を変えるためのあたらしい取り組みをこれまでに実施してきました。同グループ初の都市型保育園としてオープンした同園の背景にある想いや、独自の空間が生み出されたプロセスについて、茶々保育園グループのCEOを務める迫田健太郎さんと、クリエイティブディレクターの水野さんにお話をうかがいました。

幼児教育の20年後を、とことん考える

――茶々保育園グループのこれまでの歩みについてお聞かせください。

迫田健太郎さん(以下、迫田):茶々保育園グループは、42年前に埼玉県の茶畑にて、母が保育園を創業したことからスタートしました。17、8年ほど前から、世の中では待機児童問題が取り沙汰されていますが、少子化が進む中で男女共同参画という機運もあり、ここ15年くらいは1年に1箇所を新たに開園するペースで事業を拡大しています。

<strong>迫田健太郎</strong> 社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ理事長 「Education is Empathy〜よりよく理解しあうことで、世界は変わる〜」をコンセプトに関東近県に16園を展開。1979年に埼玉県入間市の茶畑の真ん中に第1号園を設立して以来、子どもをひとりの人間として尊重し、丁寧に寄り添う保育・教育を行なっている。「育てているのは、未来」を法人のミッションとし、子どもたちや社会の20年後を見据えた関わりを大切にしている。保育士の地位向上のため日本で初めて保育スタッフへの名刺制度を導入し、インターネットテレビでパーソナリティを務めて保育の仕事のやりがいを伝えるなど、保育業界を変える新たな取り組みを積極的に行なっている。また、地域社会との交流を目的に保育園に併設した「ちゃちゃカフェ」はキッズデザイン賞を受賞。2017年に国家戦略特区制度を活用した日本初の都市公園内保育園を開園し、2021年4月には東京都渋谷区で新たに整備された地域福祉施設内にSDGsを意識した保育を実践する「茶々だいかんやま保育園」を開園。

迫田健太郎 社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ理事長 「Education is Empathy〜よりよく理解しあうことで、世界は変わる〜」をコンセプトに関東近県に16園を展開。1979年に埼玉県入間市の茶畑の真ん中に第1号園を設立して以来、子どもをひとりの人間として尊重し、丁寧に寄り添う保育・教育を行なっている。「育てているのは、未来」を法人のミッションとし、子どもたちや社会の20年後を見据えた関わりを大切にしている。保育士の地位向上のため日本で初めて保育スタッフへの名刺制度を導入し、インターネットテレビでパーソナリティを務めて保育の仕事のやりがいを伝えるなど、保育業界を変える新たな取り組みを積極的に行なっている。また、地域社会との交流を目的に保育園に併設した「ちゃちゃカフェ」はキッズデザイン賞を受賞。2017年に国家戦略特区制度を活用した日本初の都市公園内保育園を開園し、2021年4月には東京都渋谷区で新たに整備された地域福祉施設内にSDGsを意識した保育を実践する「茶々だいかんやま保育園」を開園。

――迫田さんは現在事業を引き継がれているとのことですが、以前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

迫田:アクセンチュアというビジネスコンサルティングの会社に勤務していました。教育に関しては専門外だったので、自分で勉強しました。なので、僕の場合は子どもたちそのものの目線よりも、社会にとっての保育園の位置付けや、保育士はどうあるべきかというフレームワークから乳幼児教育を考えています。あまり業界に染まろうとはしていない珍しいタイプだとは思うので、いい“ずれ”をつくっていきたいですね。

――茶々だいかんやま保育園をオープンするにあたって、クリエイティブディレクションを水野学さんに依頼された背景についてお聞かせください。

迫田:保育園は、言ってしまえば建物と保育士、園長がいれば成立してしまうものですが、本当にそれでいいんだろうかということを以前から感じていたんです。自分たちの活動をステージアップさせていくことや、より質を高めていくためには、外部のパートナーと組むことが必要なんじゃないかと。

もちろん、乳幼児教育そのものに関する学者さんとの学び合いも大事なんですが、社会の中で保育園とはどうあるべきなのかという視点は、長く業界の中に身を置いてしまうとわからなくなってしまうと思うので、少し距離をとって考えるためにも外部のパートナーが欲しいと考えたんです。

水野さんにお声がけしたのは、これまでつくり出されてきたものをずっと拝見していたということもあって、これからの茶々保育園グループをぜひ一緒に考えていただきたいと、2年ほど前に相談させていただきました。

――水野さんは、迫田さんから最初にご相談を受けた際にはどのようなことを感じましたか?

水野学さん(以下、水野):僕がこれまでにさまざまな仕事をしてきた中で、いろんなタイプのクライアントがいらっしゃいますが、迫田さんはかなり言語化にこだわるタイプだなと感じました。ある程度想いをまとめてからデザインしていくクライアントが多い中で、「この考えで本当にいいんだろうか」「僕たちがやりたいことはもっと別のことなんじゃないか」など、最初からそんなやりとりをさせていただいて、あらゆることに対して真摯に考えていらっしゃる方だなという印象でしたね。

<strong>水野学</strong> クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタント/good design company 代表 1972年東京生まれ。1996年多摩美術大学卒業。ブランドや商品の企画、グラフィック、パッケージ、インテリアデザイン、広告宣伝、長期的なブランド戦略までをトータルに手がける。主な仕事に相鉄グループ、熊本県「くまモン」、三井不動産、JR東日本「JRE POINT」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」、Oisix、NTTドコモ「iD」ほか。2012-2016年度 慶應義塾大学環境情報学部(SFC)特別招聘准教授。著書に『センスは知識からはじまる』、山口周氏との共著『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(朝日新聞出版)ほか。

水野学 クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタント/good design company 代表 1972年東京生まれ。1996年多摩美術大学卒業。ブランドや商品の企画、グラフィック、パッケージ、インテリアデザイン、広告宣伝、長期的なブランド戦略までをトータルに手がける。主な仕事に相鉄グループ、熊本県「くまモン」、三井不動産、JR東日本「JRE POINT」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」、Oisix、NTTドコモ「iD」ほか。2012-2016年度 慶應義塾大学環境情報学部(SFC)特別招聘准教授。著書に『センスは知識からはじまる』、山口周氏との共著『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(朝日新聞出版)ほか。

これはクライアントだから誉めているということではまったくなくて(笑)、すごいんですよ本当に。迫田さんは、しつこいくらい考えるんです。僕のまわりにも変わっているひとがたくさんいますが、その中でも上位に入るくらい、考えるオタク(笑)。

迫田:(笑)。ご相談におうかがいした時は明確に言語化できない想いでうずうずしている状態だったので、水野さんとお話していて、僕はずっと壁打ちの相手を求めていたんだなと感じましたね。

――クリエイティブディレクションのプロセスは、どのようなことからはじめられたのでしょうか?

水野:まず、とにかく話しまくる。保育園という場所に限らず、子どもという特別な時代の過ごし方を考える上で、個人にとってはもちろん、世界にとってもプラスになるようにするためにはどうしたらいいのかなど、さまざまなことを話しましたね。茶々保育園グループの創業者である迫田さんのお母様は、感覚的にそういったことを理解している方で、迫田さんは理論で考える。その両輪でグループが回っている印象ですね。

普段、仕事でうちのスタッフが「勉強させていただきます」と話していたら、「勉強じゃない、仕事だから」と言っているんですが、この仕事はめちゃくちゃ勉強になっています(笑)。もう一度子育てを経験したいぐらいの学びがありますね。

――茶々だいかんやま保育園のコンセプト「持続可能な未来の主役を育む」が生まれた背景についてお聞かせください。

迫田:水野さんには、最初から見せ方などのデザインをお願いしたわけではなく、組織や世界観のつくり方など、そもそものあり方を相談していました。そんな中で、茶々保育園グループとして多様性を尊重していきたい想いや、次世代の子どもたちにどのような地球を残すべきなのかなど、ひとつ前の世代として我々が感じている自責の念をぶつけさせていただいたんです。

そのうち、だんだんとSDGsというテーマが生まれてきました。これこそ乳幼児教育の業界がコミットしなければいけないことだと思い、避けて通れないテーマとしてかたちにしなければならないと考えたんです。20年後に子どもたちが社会に出た時にまで、この課題を積み残すわけにはいかない。この園を出た子どもたちが、サステナビリティを実現する人としてのちからを発揮できるためにはどうしたらいいのか、我々が考えなければいけないと思ったんです。

水野:20年後を考えるということについては、打ち合わせの時に繰り返しおっしゃられていましたね。ちょっと幼稚な話に聞こえるかもしれませんが、「もし世界大統領になって、なんでも決められるとしたらなにをしますか?」というようなこともたくさん話したんですよ。夢ですよね。子どもを預かるということを仕事にしている人が、どんな夢を描けるかという。それを思い描くための時間だったと思います。

子どもという木が育つ「土」をつくる

――同園の保育・教育方針である「自然に対する感性を広げる」ことを実現するための、デザインのコンセプトについてお聞かせください。

水野:代官山は僕が子育てをした場所なのですが、全力で子育てをしたので後悔はないものの、ひとつだけ子どもに申し訳なかったかなと思う部分があるとしたら、自然の中で育てることができなかったことなんですね。とはいえ、僕の友だちに新宿生まれ新宿育ちのめっちゃいいやつがいるので、必ずしも「子育ては自然の中でやるべき」とは言い切れないと思うんですよ(笑)。そうは言うものの、親としては子どものまわりに自然が足りていないことに悔しい思いをしていて、僕と同じように感じている人って少なくないと思うんですよね。

なので、都会に暮らしていても自然を感じられる環境の保育園をつくることが、子どもにとっても親にとっても、精神衛生上いいんじゃないかなと考えました。できる限り自然を取り入れることで、まずはないものがある状況をつくることが大事でしたね。

迫田:水野さんたちのお付き合いがはじまってから、この代官山に新しくつくることが決まったので、不思議な巡り合わせだなという気がしますね。水野さんから自然をテーマにするというお話をいただいた際に、まだかたちは見えなかったんですけど、なるほどという気持ちが強かったです。

茶々保育園グループはもともと田舎から出てきているので、代官山のオープンによってやっと都心に近づいた感じがありました。都市における保育・教育についての我々の考えの示し方として、ここでは風や土といった有機物に触れられることに、全力を尽くすべきだなと。首都圏の都心に近い場所で子育てをされている方へのメッセージにもなるように、重く受け止めなければいけないなと思いました。

――「自然」というコンセプトからは緑を思い浮かべる人が多いと思いますが、茶々だいかんやまは、壁の色やクラス名から「土」を連想させる空間になっています。

水野:ここは坂の途中にある立地なので、いわば掘りこんで建物がつくられているんですね。なので、「地層」みたいなイメージが合うんじゃないかなと考えました。「地層、いいかもしれない。やばい、ぞくぞくする」って、このテーマが出てきたときは盛り上がりましたよね(笑)。

迫田:茶々保育園グループでは、子どもを木に見立てて、子どもたちが育つ上で大事な「土」である保育・教育はどうあるべきか、ということをテーマに人材育成をしたことがあったので、このテーマは近しいものがあるなと思ったんです。茶々保育園グループのルーツであるお茶は、いい土でないと育たないということもあって、それならとことん「土」に向き合ってみようと考えていきました。

水野:「Clay」「Soil」「Seed」といったクラス名を示すサインは、吹き出しのかたちのデザインになっています。土や種など、自然の声に耳を傾けられる人になって欲しいという想いがここには込められています。また、部屋・空間ひとつひとつの声を感じ取れる人になって欲しいという願いも込め、キッチンやトイレ、カフェのサインも吹き出しの形状にしています。

園内のサインデザイン

園内のサインデザイン

子どもたちへヒントを示す「何もない空間」

――内装設計は「EANA」の岩﨑浩平さん・阿部任太さんが手がけられています。クリエイティブディレクションのプロセスはどのように実施されていたのでしょうか?

水野:「EANA」のお二人は、これまでも茶々保育園グループの園舎の設計を担当していて、茶々のみなさんの意見を汲み取ったデザインをされてきています。僕はいろいろと教えていただきながら、茶々だいかんやま保育園に関しては「何もない空間」にしたいなと考えました。

デザイナーや芸術家は、真っ白なキャンバスの上にいろんなものを思い描くことができますが、子どもの場合、キャンバスだけではなくてそこにヒントを用意しておくことで、自分なりの答えを導き出すことができます。茶々だいかんやま保育園では、保育園の中にキャンバスとしての要素を残しながら、たくさんのヒントが散りばめられていることが感じ取れる空間になるように意識しました。

たとえば玄関に関しては、段差を設けずにただ一本の線を引くことで、ここが靴を脱ぐ場所だということを示しています。大人が教えるのは簡単なんですけど、子どもたちには子どもたちの意思がある。「ここで靴を脱いだ方がいいんじゃないかな」と感じ取る力を引き出すような、そんな仕掛けをあちこちにつくりました。

茶々だいかんやま保育園のエントランス

茶々だいかんやま保育園のエントランス

玄関には段差を設けず、靴を脱ぐ場所だと子どもたちがわかるためのヒントとして一本の線が引かれている

玄関には段差を設けず、靴を脱ぐ場所だと子どもたちがわかるためのヒントとして一本の線が引かれている

迫田:つくる側の想いが強いと、ついつい足し算をしてしまいがちですよね。この建物は複合施設のため、ある程度場所のスペックなどの制限はあったんですが、こういった玄関の一本線なんて、なかなか考えつかないと思います。識別しやすいことが子どもたちに優しいという考え方が多いと思いますし、構想段階では少し不安もあったんですが、でき上がってみると子どもたちはちゃんとわかるんですよね。

水野:1、2回経験すれば子どもはすぐに理解しますよね。下駄箱に関しても、名前を貼るのではなく、ここに靴をしまうということを子どもたちがわかるようにするにはどうしたらいいのかを議論していきました

迫田:運営面でも、茶々保育園グループでは子どもたちが主体性に関われるような取り組みをしていて、現在はコロナ禍で実施できていないのですが、食事は給食ではなくビュッフェ形式なんです。給食というのは提供する側の言葉で、与えられたものだけを食べることは、子どもたちの主体性を考えるとどうなのかなと思い、この形式を採用しました。

不思議なんですけど、ビュッフェだからと言ってお肉ばっかり食べてしまう子どもはいないんですよね。子どもたちはここでコミュニティを形成しているので、まわりのことを見ながら振る舞うこともできますし、苦手なものもあえてトライしようという姿勢も見えます。残食も少ないですね。

茶々だいかんやま保育園の砂場スペース

茶々だいかんやま保育園の砂場スペース

――入ってすぐ目に入るお庭や砂場も印象的ですが、どのように設計されたのでしょうか?

迫田:園庭の設計や砂場の位置を決めるのも、水野さんの長いキャリアの中でこの1回しかないんじゃないかと、燃えていましたよね。子どもたちにとって都市型保育園のガーデンがどうあるべきなのか、保護者が毎日通るときに何を感じるべきかということを議論しながら進めていきました。

水野:砂場はイマジネーションの巣窟ですからね。壁や物置のスペースなどの制約がある中で、「山をつくったり水を流した時に、このサイズだと小さくないかな?」など、子どもたちが砂場でどんな遊び方をするのかを想像しながら考えていきました。茶々のみなさんから、「こんな子もいたりするんですよ」と教えていただいたりもしましたね。

ほかにも、思い入れがあるところといえば駐輪場ですね。緩やかな傾斜にある駐輪場なので、自転車が倒れた時のために、柵となるポールを設けたんです。結論だけ聞くとだれでも思いつきそうなものですが、みんなでゼロから答えを考えていく過程としてとても印象に残っています。このスペースはどうしようといった議論を、みんなでひとつひとつを積み重ねていくことで、茶々の想いを汲み取った表現の仕方を考えていきました。

エントランス前の駐輪スペース

エントランス前の駐輪スペース

――園内の家具はどのようにセレクトされたのでしょうか?

迫田:水野さんには、色合いのセレクトなどの相談に乗っていただきました。子ども向けの空間だとカラフルにしがちですが、それは子どもを子どもとしか捉えていない証拠で。幼稚園と違って保育園は朝から晩まで過ごす暮らしの場所なので、教室というよりもリビングであるべきだと思うんです。茶々保育園グループには、「子どもも一人の市民」という考え方があって、たとえば椅子選びに関しても、赤ちゃん用のものではなく大人と同じ目線で食事をとることができるハイチェアを使用しています。

水野:できるだけ自然なものや、内装に馴染むものをセレクトしました。部屋に対してどのくらいの大きさの家具であるべきなのかなど、サイズの検証はEANAのお二人がしてくれました。

クラス内の様子(提供写真)

クラス内の様子(提供写真)

迫田:腰高のしっかりしたものはドイツのメーカーの家具を使用しています。おままごと用のキッチンはハンドメイドの製品で、オリジナルと既製品の両方を使用しています。プラスチックを極力減らして、自然物をできるだけそろえたいなと思っています。施主としてはナチュラルなものって選びづらいので不安になるんですが、水野さんからは何度も背中を押してもらいましたね。

水野:茶々のみなさんがしっかりと考えているので、僕の仕事は「いいっすね!」って言う係なんですよ(笑)。「よいしょ!」っていう合いの手を入れる感じで(笑)。

水野さん、迫田さん

――地域に向けて開かれた交流スペースとして併設されている「ちゃちゃカフェ」は、どのような理由でつくられたのでしょうか?

迫田:働く親御さんたちの社会的な立場を考えたときに、現状は厳しすぎますよね。自分の時間がなくて当たり前というか、会社の肩書きと親という肩書き以外の時間が保証されていない。

保育園に訪れた保護者の方々が、15分や20分でもいいからここでお茶をして、充電してもらえたらと思うんです。そういう切り替えができる場所は、まだまだ世の中にないんですよね。働く親御さんがカフェに立ち寄ることに、世の中はまだ寛容ではない。子育てをしながら働く人たちにもっと生き生きしてもらうために、園内にカフェを併設すべきだなと考えたんです。

水野:誰もが人生で数回しか子育てをしないので、なにが正しいかなんてわからないですよね。みんなで子育てについて意見交換できるような、そんな場所にこのカフェがなっているんじゃないかなと思います。保育園は、子どもたちのためであると同時に、親御さんのための場所でもある。単に子どもを預ける場所というだけではなくて、ここにいたいという思える場所をつくることで、親御さんの安心にもつながるんですよね。

――水野さんにとって保育園のクリエイティブディレクションははじめてとのことですが、あらためてどのようなことを感じましたか?

水野:デザインの仕事はどれも尊いものだと思うのですが、保育園のクリエイティブはその人の人生に関わることなので、その重さは違いますよね。

感情があって、それを表現できるのが人間という生き物なので、つまらない箱に入れればつまらない人になってしまうかもしれない。逆に、おもしろい場所にすることで、どれだけ子どもたちの可能性を増やせるのかということを、この仕事ではものすごく考えています。僕も保育園の経営者になったつもりで、「負けないぞー!」と必死でつくりました(笑)。

ChaCha Cafe

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