チーズタルト、シュークリーム、アップルパイ、スイートポテトなど、定番の洋菓子の数々を、完成されたデザインとともにブランドとして展開するBAKE Inc.(以下、BAKE)。“お菓子のスタートアップ”として2013年に創業したBAKEは、1ブランド1プロダクトというコンセプトのもと、パッケージから店舗設計、Webサイトのデザインにいたるまで、徹底したデザインの統一を実践することで、他のメーカーとは異なるお菓子ブランドとして差別化に成功している。
ハイクオリティなBAKEのクリエイションはどのように生み出されているのか?お菓子のスタートアップ企業であるBAKEは、デザインとビジネスをどのような位置付けで考えているのか。今回は、前後編を通して“お菓子を進化させる”ことをかかげるBAKEクリエイティブの裏側についてうかがっていく。前編となる本記事では、チーフクリエイティブディレクターを務める貞清誠治さんに、「食」をデザインすること、デザイナーのチームビルディング、ブランドを継続することなど、クリエイションにまつわるさまざまな考えを語っていただいた。
インテリアから、外食、そしてBAKEヘ
——貞清さんの経歴について聞かせてください。
貞清誠治(以下、貞清):僕は美大出身なのですが、インテリアデザイナーになりたかったんです。その頃ファッションの分野では“裏原”が全盛期で、ワンダーウォールの片山正通さんに憧れて、「インテリアをやるしかない!」という感じで(笑)。
大学卒業後、2年ほど設計事務所で働いたのですが、ある飲食店の店舗設計を担当した時に、満足のいく結果を出すことができなかったんです。そこで、きちんと外食ビジネスのことを知らないとダメだと感じて、一から学ぶために当時のクライアントの会社に転職しました。そのころはデザイナーズレストランが増えていた一方で潰れていくところも多く、見せかけのデザインだけは戦えないことを痛感したのと同時に、デザインとビジネスの関係に興味が出てきたんです。
僕はファッションが好きなので、社長がアパレル出身だったこともあって気が合ったんですよね。社長と一緒に新規ビジネスもやりましたし、インテリアの経験を活かして店舗の外装を考えたり、アルバイトや社員の面接、ホールスタッフ、マネジメントなど、なんでもやりました。
その後、社長の引退がきっかけで僕も退社して、アパレル会社とご縁があったんですが、アパレルを仕事にするのは自分にとってどこか違う気がして、また外食の会社に戻りました。そこでフリーランスになる準備をして、33歳の時に独立しました。そのあとは、これまでご縁のあった飲食店を中心に、クリエイティブ全般のアウトプットをお手伝いさせていただくようになりました。
BAKEの創業者の長沼晋太郎に出会ったのはその頃です。長沼のお姉さんが僕と同じ大学出身で、「弟が東京でお菓子の事業を立ち上げるから手伝ってほしい」と頼まれたのがきっかけでした。
——ちなみに長沼さんはどのような印象でしたか?
貞清:すごく目立ちたがり屋で、「ひとと違うことをやりたい!」という姿勢にブレがなくて、すごく付き合いやすかったですよ。5〜6坪の店に1千万もする機械を入れるなんて、アホですよね(笑)。
でもちゃんと本気だし、それがストーリーにもなる。彼は今30代前半なので、ちょうどアメリカのテック系企業に感化された年代なんですよね。その前身としてスターバックスやAppleなどがあり、デザインの重要性も理解していたので、決してデザインを後回しにすることがない。伝え方もシンプルなので、デザインをかたちにしやすかったです。
その後、「BAKE」「クロッカンシュー ザクザク」「RINGO」「PRESS BUTTER SAND」と、それぞれのブランドの立ち上げに携わりました。当時はまだ少人数だったので、店づくりやパッケージデザインなども手分けして、一人何役もこなしましたね。僕は途中までフリーランスで関わっていたんですが、1年ほど経ったタイミングでBAKEに入社しました。「PRESS BUTTER SAND」をはじめた頃からメンバーも増えたので、きちんとそれぞれのブランドにアートディレクターを立てて、僕が全ブランドのクリエイティブディレクションを担当するようになりました。
信頼できるメンバーで、本質をデザインする
——チーフクリエイティブディレクターとして、どのようにBAKEのブランディングをディレクションされていますか?
貞清:正直、食の業界はデザインに対する取り組みが少し遅れているところがあって、デザインのクオリティを上げていけば、世の中に少なからず刺激を与えることができると思うんですよね。
そのために、チームでデザインをする上で本当に信頼できるメンバーを集めています。いまはグラフィックデザイナーが8人、ウェブサイトの管理と店舗づくりの担当が5〜6人いますが、一人ひとりとゼロから一緒に仕事をした上で、各メンバーの特性を理解して、そのひとに合うと思うブランドを任せるようにしています。また、チームに偏りをなくすために、各メンバーの得意分野ができるだけ被らないようにすることは気をつけていますね。
各ブランドについてはアートディレクターが担当するので、それぞれが工夫を凝らしてやっていけばいいと思っています。唯一やってはいけないと思っているのは、本質からずれてしまうことですね。BAKEはものづくりを大切にする会社なので、アウトプットを通してそのことを伝えたいと思っているので。
ただ、そこをあえて言葉やルールで縛ってしまうことで動きづらくなるのもよくないと思っていて、実際に仕事をする中でその感覚をつかんでもらっています。僕は、自分がブランドのいちばんのファンであるべきだと思いますし、その商品を自分が買いたいと思うかどうかを、本気で意識してやってほしいと思っています。
——若手のデザイナーやチームメンバーの育成にあたって、クリエイティブディレクターの視点からどのように指導していますか?
貞清:“置きにいく”ようなデザインだとか、“万人にモテようとする”ようなデザインはしないように伝えてますね。“自分の汁を残す”というか、ちょっとした違和感や個性を徹底的に追求することで差別化すること。いわゆる“おしゃれなもの”で終わっていないかどうかは、かなり意識させています。
おしゃれなものやきれいなものって多くあるし、今はインスタグラムも盛んなので、クオリティが高いものが世の中にあふれているじゃないですか。その中で埋もれないもの、目に留まるものを残すという意味では、わかりやすくおしゃれであるよりも、少しダサいくらいでいいと僕は思っています。