遊びとウィットでブランドをデザインする、BAKE Inc.のクリエイティブディレクション

遊びとウィットでブランドをデザインする、BAKE Inc.のクリエイティブディレクション
事業者意識を持ってブランドをデザインしていく

——さまざまなブランドを展開している中で、生どら焼き専門店の「DOU(ドウ)」のように、早い段階で撤退されたブランドもありますが、ブランドの今後についてはどのように意思決定をしていますか?

貞清:ルールをかっちり設けているわけではありませんが、半年〜1年くらいで今後の展開についてのジャッジをつけるようにしています。開発にかかったコストを考えると心は痛いですが、初速が上がらない場合は「なにか違うんだろうな」と考えて、早いタイミングで切り替えるほうが、売れないものを何とか立て直すよりも、次に活かせると思うんです。

生どら焼き専門店「DOU(ドウ)」ブランドサイト

生どら焼き専門店「DOU(ドウ)」ブランドサイト

あと、そういったやり方が会社の体質にも合っている気がするんですよね。失敗と反省があって改めて自分たちの強みや弱みがわかってくるので、失敗は失敗としてナレッジを貯めていけばいいと思っています。失敗がないとインプットもないですからね。いろいろな要素が絡み合った総体がブランディングなので、その商品が売れなかったとしてもデザイナーのせいではないし、商品開発のせいでもないんです。ブランド哲学の共有というよりも、失敗も含めてブランドとしてどう成長していくのか、というのが僕らなりにあればいいのかなと。

食の業界に10年弱いる中で、いわゆるおしゃれで美味しいレストラン、サービスのいいレストランはたくさんありましたが、多くのお店がもう一歩抜け切れていない感じがあるのは否めません。たとえば「スターバックス」や「ブルーボトルコーヒー」などは、デザイン性の高さだけじゃなくて、世の中の水準を上げていこうという価値観みたいなものがある。最近増えているビーントゥーバーチョコレートの専門店なども、そうした動きのひとつですよね。僕たちが意識すべきはそういった企業だと思いますが、食の業界は、デザインとの向き合い方でまだまだ変わる可能性を秘めていると感じます。

また、うちはデザイン事務所じゃないので、デザイナーであっても事業者意識をしっかりもって取り組んでほしいことは、面接の段階からスタッフに伝えているんです。ブランドが大きくなった時に、外部と連携しながらディレクションする能力を身につけて欲しいですし、ブランドディレクターとして商品が売れる喜びも知ってほしいと思っています。

株式会社BAKE チーフクリエイティブディレクター 貞清誠治さん

遊びとワクワクの共有が生む「一体感」

——クリエイションを大切にする社風はどのように生まれているのでしょうか?

貞清:たとえば、ファッションが好きなメンバーが多いので、普段の生活の中で見たものや興味のあるものなど、ワクワクした体験をチャットで共有したり、アパレルのブランド展示会に一緒に行ってみるとか、みんなで同じものに触れるようにしています。“いま流行りのキーワード”みたいなことを考えても時代によっても変わってしまうので、「Supremeがバイク出したじゃん! あんな感じでいこうぜ」みたいなコミュニケーションの方が、むしろ伝わるんですよね。だから、いまのトレンドをちゃんとインプットした上で、自分たちがワクワクした体験をお菓子を通じてアウトプットできれば、それが僕たちらしいやり方なのかなと。

あと、少し前にマーケティングとクリエイティブの部署が主導となって、社内で夏祭りをやったんですよ。みんなで垂れ幕をつくって屋台を出したり、コスプレしてのど自慢大会をしたり。もうすごかったですよ(笑)。

このための準備に1週間以上取られましたが(笑)、そういう時にこそ「一体感」って生まれるんですよね。だから“遊び”の部分も必要ですし、ナレッジの蓄積の前に、上下や部署間の垣根なくコミュニケーションをとっていくことが、社内カルチャーをつくるためにはいちばん近道かもしれないですね。

ユーモアとウィットで、ブランドを続けていく

——BAKEのクリエイションにあたって、影響を受けたデザインやカルチャーはありますか?

貞清:僕個人の体験だと、ハイファッションやストリートカルチャーにはすごく影響を受けています。そういったブランドって、買い手の気持ちを煽りまくるじゃないですか(笑)。裏原全盛の時にそういった体験をしているので、自分がつくったものに対しても少しでも熱狂みたいなものが生まれれば、めちゃくちゃ幸せなことですよね。

あと、ユニクロのクリエイティブには影響を受けてます。あらゆる界隈のトップクリエイターがジョインされていたり、関わったりされていますよね、「こんなひと入るの?嘘だろ!?」みたいな(笑)。そんなユニクロのここ最近の動きにはものすごく刺激を受けていて。

——この先BAKEが10年、20年と続いていく中で、たとえばGoogleやAppleのようにデザインは変化していくのでしょうか?

貞清:僕は変わっていいと思っています。ものづくりメーカーでありお菓子メーカーなので、プロダクトとしてのお菓子は当然美味しくないといけないですし、うまいラーメン屋さんが味を変えているのと同じように、お菓子の味も変えていいんじゃないかなと。やっぱりその時代に合った変化ってあると思うので。

さまざまな競合企業がある中で、うちのようにまだ創業の浅い企業が、今後ファンとどうコミュニケーションを取りながらブランドを育んでいくのかは、これからの課題としてとても意識しています。もちろん新規のお客さまも大事ですが、あくまでベースはロイヤルカスタマーである方々です。

BAKEの強みはものづくりなので、今あるブランドを長く維持することと並行して、開発はこの先もずっと続けなければいけません。大事なのはお客様に楽しんでもらうことで、僕らはお菓子に対して格好つける必要はまったくないと思っています。ブランディングのひとつであるグラフィックデザインには、ユーモアやウィットがあったほうがコミュニケーションとしておもしろいので、BAKEらしさの骨格はぶらさず、遊びの要素はたくさん入れていきたいですね。

株式会社BAKE チーフクリエイティブディレクター 貞清誠治さん

ある時みんなで、「Appleみたいな新作発表会ができたらいいよね」ってふざけて話していたんです。1個200円で売る菓子屋がやることじゃないですが(笑)、ただ、そのくらいワクワクを届けられる会社でありたいということです。うちは若いメンバーの集まりなので、これからも新しいことにトライする姿勢には、社風として寛容でありたいと思っています。

文:開洋美 写真:寺島由佳里 取材・編集:堀合俊博(JDN)