「おいしい」への自信が、表現を自由にする。BAKE Inc.のアートディレクション

「おいしい」への自信が、表現を自由にする。BAKE Inc.のアートディレクション

チーズタルト、シュークリーム、アップルパイ、スイートポテトなど、定番の洋菓子の数々を、完成されたデザインとともにブランドとして展開するBAKE Inc.(以下、BAKE)。“お菓子のスタートアップ”として2013年に創業したBAKEは、1ブランド1プロダクトというコンセプトのもと、他のメーカーとは異なるお菓子ブランドとして差別化に成功している。

ハイクオリティなBAKEのクリエイションが生み出される過程について、チーフクリエイティブディレクターの貞清誠治さんにお話をうかがった前編に続いて、後編となる本記事では、BAKEのアートディレクションについて、具体的な制作行程をうかがっていく。

お話をうかがったのは、BAKEアートディレクターの柿﨑弓子さん、Webディレクターの小野澤慶さんに加え、「POGG」「Chocolaphil」のWebサイトを手掛けたSuper Crowds inc.デザイナーの田中研一さんの3人。ブランドコンセプトからパッケージ、Webサイトにいたるまで、徹底した世界観の統一を実践するBAKEのアートディレクションと外部コラボレーターとの協働についてお話いただいた。

ブランドコンセプトの核を決めるビジュアルとことば

——アートディレクターとしての柿﨑さんの仕事について教えてください。

柿﨑:私はクリエイティブ部の部長として、BAKEのブランドを運営するにあたってのクリエイティブ全般を担当しています。業務内容としては、現在展開中の6ブランドのシーズナルプロモーションなどのデザインと、新ブランド立ち上げ時のデザインディレクションです。デザインにおけるコンセプトやストーリーメイキングから、アウトプットへと落とし込んでいく仕事です。

BAKE Inc.クリエイティブ部 部長 柿﨑弓子<br /> 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、デザイン事務所を経て、2016年BAKE Inc.入社。各ブランドのプロモーションや店舗グラフィックなどの制作、「PRESS BUTTER SAND」「Chocolaphil」の立ち上げに携わる。

BAKE Inc.クリエイティブ部 部長 柿﨑弓子
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、デザイン事務所を経て、2016年BAKE Inc.入社。各ブランドのプロモーションや店舗グラフィックなどの制作、「PRESS BUTTER SAND」「Chocolaphil」の立ち上げに携わる。

——今年2月に新しいブランドとしてガトーショコラ専門店「Chocolaphil」をローンチされましたが、開発の過程について教えてください。

柿﨑:BAKEのブランド立ち上げのきっかけにはいろんなパターンがありますが、もともとお菓子の王道であるチョコレートをBAKEで取り扱いたいという思いがあって、チョコレートのカテゴリーでいろいろと商品開発をしていたのがそもそものはじまりでした。

ChocolaphilのWebサイト

ChocolaphilのWebサイト

Chocolaphilのパッケージ

Chocolaphilのパッケージ

柿﨑:社内で最初に試作品を発表した時に、商品開発部のスタッフが「チョコレートよりチョコレートを感じるガトーショコラ」と言っていたのが気になったんですよね。その後、商品への思いやコンセプトを掘り下げていくうちに「ガトーショコラはタブレットのチョコレートよりも口どけがよく、口と喉で香りが感じられる」ということが、ブランドの核になっていきました。

Chocolaphilの素材には、鎌倉のアロマ生チョコ専門店「ca ca o」を使用させていただいています。ca ca o社長の石原さんの知り合いが社内にいたというご縁がきっかけだったんですが、商品づくりにあたってのca ca oのマインドに共感して、素材として使わせてほしいとお願いしました。コンセプト制作の段階では、背景やストーリーなどの情報があったほうが制作側のイメージも膨らむのではと考え、チームのメンバーで鎌倉にうかがってお話を聞かせてもらいました。

アートディレクションを進めるにあたっては、そういった素材のストーリーや、つくり手の想いなどを見聞きし、核となるブランドコンセプトをビジュアルやことばを使って提案しています。そこから表現としてのデザインコンセプトを導き出し、それを元にパッケージやキービジュアルなどに落とし込みながら、店舗設計やWEBサイト、コピーライティング、動画制作などが同時進行で進むという流れです。

柿崎さんのアートディレクションフロー

柿崎さんのアートディレクションフロー

柿﨑:インハウスデザイナーの役割は、共通認識として社内に理解を浸透させつつ、社外のコラボレーターにも伝えることだと思うんですよね。社内理解が進むとデザインがやりやすくなり、みんなでゴールに向かいやすくなるので、なるべく資料ではビジュアルとことばでつくりたいもののイメージを伝えるようにしています。ちょっとしたイメージや雰囲気、トンマナなどをピックアップしながら、どうしてその方向性なのかというバックグラウンドを固めておきたいんです。ものをつくる上で、インプットとアウトプットがつながっていた方がいいと思うので。

Chocolaphilのコンセプトカラー

「Chocolaphil」のブランドコンセプトを表す資料

「Chocolaphil」のブランドコンセプトを表す資料

柿﨑:たとえば、Chocolaphilのキーカラーはウルトラマリンという青色なんですが、ウルトラマリンには「海を越えてきた青」という意味があり、「ca ca o」のチョコレートが太平洋を渡って遥々やってくるイメージとウルトラマリンのことばの意味が重なり、この色をブランドカラーとして設定しました。そしてサブカラーのシルバーは、チョコレートらしさを感じさせる銀紙を表しています。青の色や銀の質感も、デザインの核になる意味や使いたい理由、背景を明確にしておくことで、クリエイターも理解しやすくなるんです。

Webサイトの表現に遊びを。Super Crowdsとのコラボレーション

——Webディレクターとしての小野澤さんの仕事について教えてください。

小野澤:僕は第二マーケティングのWebチームのマネージャーをしています。新ブランドの立ち上げにあたってのWeb制作や、外部の制作会社さんのディレクション、キャンペーン用LPページのほかにも、先日リリースした「BAKE アプリ」の制作なども担当しています。

BAKE Inc. 第二マーケティング部 Webディレクター 小野澤慶<br /> 学業終了後、大手プロバイダーにて3DCGソフトを使ったキャラクター業務の傍ら、Web制作の業務に携わる。 退職後はWeb制作会社にてデザイン、フロントエンドを担当し、HTML、FLASHを使ったサイト制作やアプリ開発に従事。 株式会社BAKEに2016年11月入社。ブランドサイトのディレクションやテクニカルディレクター、キャンペーンサイトのデザイン、サイト構築、フロントエンド業務を兼任している。

BAKE Inc. 第二マーケティング部 Webディレクター 小野澤慶
学業終了後、大手プロバイダーにて3DCGソフトを使ったキャラクター業務の傍ら、Web制作の業務に携わる。 退職後はWeb制作会社にてデザイン、フロントエンドを担当し、HTML、FLASHを使ったサイト制作やアプリ開発に従事。 株式会社BAKEに2016年11月入社。ブランドサイトのディレクションやテクニカルディレクター、キャンペーンサイトのデザイン、サイト構築、フロントエンド業務を兼任している。

ChocolaphilのWebサイトの制作にあたっては、僕がラフデザインとしてワイヤーフレームを作成して、実際の制作をSuper Crowdsの田中さんに依頼しました。こちら側のお願いとしては、店舗のデザインと共通した鏡面反射をメインビジュアルとしてトップで見せたいことと、ムービーを入れたいこと、その程度でしたね。あまりこちらでつくり込み過ぎてしまうと引っ張られてしまうと思うので、あとは田中さんがどう解釈していただけるかな、と思ってお願いしました。

小野澤さんによる「Chocolaphil」Webサイトのワイヤーフレーム

小野澤さんによる「Chocolaphil」Webサイトのワイヤーフレーム

柿﨑:コラボレーターとしてお仕事をお願いする際には、どう表現されるのかは基本的にお任せするというスタンスでやっています。コアの部分は変えずに、どれだけ遊んでもらえるのかだったり、自分が思いもしなかったアイデアで返していただけるのを楽しみにしてるんです。

田中:BAKEさんはそのハードルがめちゃくちゃ高いんですが(笑)。Chocolaphilのプロジェクトでは、柿﨑さんからいただいた資料にファッションからリファレンスがあったので、制作にあたってのリサーチではエッジがあるものや銀紙のパッケージなど、お菓子に関連のないモチーフも参考にしました。

Super Crowds Inc. CCO/デザイナー 田中研一<br /> 1987年生まれ。広島県出身。2010年岡山県立大学デザイン学部卒。メーカーのインハウスデザイナーとして家電製品、雑貨などを中心にプロダクトデザインを担当。2014年よりSuper Crowdsに参加。コンセプトメイキングからCI・BIデザイン、プロダクト・パッケージデザイン、Webデザインまで、ブランディングに関わる幅広い範囲に携わる。

Super Crowds Inc. CCO/デザイナー 田中研一
1987年生まれ。広島県出身。2010年岡山県立大学デザイン学部卒。メーカーのインハウスデザイナーとして家電製品、雑貨などを中心にプロダクトデザインを担当。2014年よりSuper Crowdsに参加。コンセプトメイキングからCI・BIデザイン、プロダクト・パッケージデザイン、Webデザインまで、ブランディングに関わる幅広い範囲に携わる。

田中:当初は銀や鏡面の表現を取り入れようと考えていたのですが、商品写真でテクスチャを感じさせる方がWebサイトでは適切かなと。バランスを見ながらデザインを詰め、商品写真が入った時に最も魅力的に見えるよう考えました。

Chocolaphilは、チョコレートなのにキーカラーが青ということに驚いたんですが、サイトでは文字にいたるまで青で統一していて、黒い文字はまったくないんです。制作を進めていく中で、もともとブランドコンセプトとしていただいていたキーワードをもとに叩き台となるアイデアをつくっていき、カメラマンさんから写真が上がってきたタイミングで写真を入れ込み、トンマナや細部も調節して、写真を活かすデザインへと仕上げていきました。アニメーションやインタラクションは最初の提案ではそこまで決め込まず、様々なグラフィックやアニメーション表現をムードボードとしてまとめてイメージをお伝えしました。アニメーションなどの動きは、最終段階のわりとギリギリのタイミングで確認してもらった感じですね。

——BAKEとのお仕事で、他のクライアントと違うことはありますか?

田中:お題としていただくコンセプトが明確なので、それをどう表現するのか考えていくのがやっぱり醍醐味ですね。あと、僕はSuper Crowdsの前に家電や雑貨などのプロダクトデザインをしていたのですが、もともとグラフィックやWeb上がりのデザイナーではないだけに、どういったコンセプトなのかであったり、ものとしての魅力があるかが大前提としてあるんです。BAKEさんとのお仕事の場合は、ものがしっかりしているのは大前提ですし、普段は自分がコンセプトをつくることが多い中、ご提示いただいたコンセプトの核をもとにどうやっていくのかについて考えていけるので、他の仕事とは違う醍醐味ではありますね。

小野澤:田中さんなら絶対いいものになるとの信頼感があったので、あまり決め込まずに、自由に遊んでもらえるような頼み方にしています。その方がいいものができますしね。

柿﨑:田中さんは、Chocolaphilの前にスイートポテトパイ専門店「POGG」のサイトの制作をお願いしていたんです。そのときにとても気持ちいい動きのあるサイトをつくってくださったので、Webサイトでの動きの表現に関しては信頼していましたね。写真の出方や動きが気持ちいいし、ちょうどいい場所にふわっと出てくるのがすごくいいんですよ。

POGGのWebサイト

POGGのWebサイト

田中:アニメーションにおける緩急のつけ方は、弊社の強みだと思います。おいしさを伝えるには商品に魅力があることはもちろんですが、POGGであれば、商品のコンセプトが“相反する価値の融合”というものだったので、Webサイトのコンセプトにもそれを取り入れました。レイアウトは、雑誌のような文字組み、グリッドを活かしたソリッドな印象に仕上げていますが、アニメーションは、とろっとしたやわらかい印象に仕上げました。異なる価値観の融合を目指したんです。クールさ、柔らかさ、おいしさなどの表現も使い分けが重要なんですよね。

小野澤:以前、「THE BAKE MAGAZINE」の編集長をしていた塩谷舞さんに、「かっこいいWebデザインができる会社知らない?」と聞いて紹介してもらったのがSuper Crowdsさんだったんですよ。写真の使い方やアニメーションの表現をどちらもセンスよく表現できる会社は珍しかったし、ファッション系の実績があるところも、BAKEとの親和性を感じました。お菓子の世界観を壊さずに、Webサイトならではの動きのある表現で遊んでもらえそうだと思って依頼しました。

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