「おいしい」への自信が、表現を自由にする。BAKE Inc.のアートディレクション

「おいしい」への自信が、表現を自由にする。BAKE Inc.のアートディレクション
ブランドの本気をWebサイトで表現する

——小野澤さん自身も実際にBAKEのWebデザインを手掛けていますが、外部とコラボレーションする場合との違いはなんでしょうか?

小野澤:僕は元々フラッシュ制作者なので、Webサイトをつくる時にはインパクト重視なところがあるんです。でも、ブランドサイトでは写真をきれいにみせる現代的なセンスが必要ですし、なかなか一人では手が回らないので、外部の制作者にご協力いただきたいなと考えています。外部のクリエイターとご一緒させていただくことで、アニメーションの使い方や作り方などに発見がありますし、僕自身もスキルアップさせてもらっていますね。

BAKEの小野澤さん

小野澤:インハウスのデザイナーだけで制作していると情報が留まりがちな部分がありますが、ディレクターとして外部との窓口になることで、常に刺激が受けられるのがこのポジションの醍醐味だと思います。会社によって得意分野や持ち味が全然違うので、そこをいかにディレクションするかが楽しさであり、やりがいでもありますね。それに加えて、時間的に余裕があるキャンペーンサイトなどでは、僕が時々遊びで制作することがあります(笑)。

「RINGO」が2017年夏におこなった「FUURINGO」キャンペーンサイト。マウスの動きに対して風鈴が揺れる。<a href="https://ringo-applepie.com/fuuringo/">https://ringo-applepie.com/fuuringo/</a>

「RINGO」2017年夏のキャンペーンサイト「FUURINGO」。マウスの動きに対して風鈴が揺れる。https://ringo-applepie.com/fuuringo/

「BAKE CHEESE TART」が2018年夏におこなった、アーティスト山口歴とのコラボレーションキャンペーンサイト。山口さんの作品から感じる“筆跡”が、立体感や光沢感で表現されている。<a href="https://cheesetart.com/lp/summer2018/">https://cheesetart.com/lp/summer2018/</a>

2018年夏の「BAKE CHEESE TART」とアーティスト山口歴とのコラボレーションキャンペーンサイト。山口さんの作品から感じる“筆跡”が、立体感や光沢感で表現されている。https://cheesetart.com/lp/summer2018/

「クロッカンシュー ザクザク」で2019年4月に行った「いちごザク&パフェ」キャンペーンサイト <a href="https://zakuzaku.co.jp/lp/strawberry2019/">https://zakuzaku.co.jp/lp/strawberry2019/</a>

「クロッカンシュー ザクザク」2019年4月のキャンペーンサイト「いちごザク&パフェ」。ストップモーション的なアニメーション表現にあふれている。https://zakuzaku.co.jp/lp/strawberry2019/

——ちなみにBAKEでは表現の許容ラインはありますか?

柿﨑:「おいしくなさそう」なのはさすがにだめですが(笑)、BAKEは基準がかなり緩いので、NGに関しても緩いと思います。1ブランド1プロダクトというコンセプトがあるので、表現自体をタイトにしすぎてしまうと、どうしても単調になってしまうんですよね。むしろいろんな角度でアピールする必要があるので、期間限定のフレーバーなどに関しては、さまざまな表現方法にどんどん挑戦していきたいなと思っています。

Webサイトは、店舗のない地域や海外の方に、Webサイトを通して物質として伝えられない商品のイメージをお客さま伝える重要なツールだと考えています。BAKEのWebサイトはどれも物質感があると思うんですよね。単に情報だけを伝えるだけではなく、ブランドの手触りや世界観が感じられる。だからこそ、商品や店舗に触れた時にも違和感なく感じていただけている気がしています。

私と小野澤は同時期の入社で、「PRESS BUTTER SAND」の立ち上げが最初の仕事だったんですが、小野澤が関わるようになってからのWebサイトは、動きも含めてやっぱり変わったと思います。

BAKEの柿崎さん

小野澤:写真の綺麗さや物質感はその頃からあったものかもしれないですね。僕は「RINGO」が話題になっていたのを見て入社してきたので、僕が担当してから「昔のほうがよかった」と言われないようにがんばっています(笑)。外部の制作会社とコラボレーションしているのも、クリエイションに新鮮さを保ちたいというのもありますね。

田中:コラボレーション相手としてお声がけいただいた時は嬉しかったですね。BAKEさんは他のブランドサイトでもそうそうたる方々とコラボレーションされていたので、「がんばらなきゃな」と身が引き締まりました。

Super Crowdsはあまり「食」業界の仕事が多いわけではないんですが、普段からデザインするにあたって商品のシズル感を伝えるためにはどういった表現ができるかがWebサイトでの見せどころかなと思っていて、ChocolaphilとPOGGではどちらもそういったことを意識して制作しましたね。でもあくまでそういった表現に負けない個性や強さが、商品自体にあるからだと思います。

Super Crowdsの田中さん

小野澤:ブランドの本気をサイトで伝えるには、おいしそうだなとまず感じてもらった上で、時間をかけてつくられているんだなと感じてもらいたいなと思っています。そして、いつも楽しそうなWebサイトをつくるブランドだから、次も楽しみだなと思ってもらえるとうれしいなと。

田中:いち消費者としても、次にどんなものが来るか楽しみですね。

「おいしい」への自信が、表現を自由にする

——前回、チーフクリエイティブディレクターの貞清誠治さんに、「食」をデザインする上でのやりがいについてうかがいましたが、柿﨑さんはアートディレクターとしてどのように考えていますか?

柿﨑:日本では「食」の領域は保守的でセンシティブな部分があるので、デザインも安全なところに落とし込まざるを得ないんですよね。私は前職で一般消費財のデザインをしていたんですが、かなり窮屈に感じていて、BAKEに入社したからには真逆のことをやろうと思ったんです。ターゲットがマスになるほど「間違いのないこと」が表現として大事になってくるのは分かるのですが、「お菓子といえばこの色」という業界の固定概念を、デザインで超えていくことを目標にしています。

小野澤:うちは商品は、おいしさに関しては自信があるからこそ、表現は自由にできているんですよね。

柿﨑:BAKEはやりたいことがやれる環境ではありますが、デザイナーも店長会議や営業会議に出席して現場の意見を聞くことが不可欠です。かっこいいものでも売れなければ事業会社としてはだめですからね。数字でアウトプットを振り返るからこそ、デザイナーが事業者意識を持ち続けられているんだと思います。

小野澤:自分たちのブランドに対しての客観的視点って、社内にいると見えづらくなるんですよね。事業者としての視点を忘れないことこそが、そのバランス感を保つ基本にもなると思っています。

——今後のBAKEの展開について教えてください。

柿﨑:Chocolaphilは2号店が9月20日に大丸心斎橋本店にオープンしました。大丸心斎橋店はインバウンドのお客様も多いですし、そういった反応をもとに、よりアッパー層向けの高価格帯商品の開発に挑戦したいと考えています。また、台湾で「BAKE WORKS」というポップアップも10月に実施したので、今後海外向けの商品開発にもチャレンジしたいですね。

台湾で行われた「BAKE WORKS」の様子

台湾で行われた「BAKE WORKS」の様子

小野澤:田中さんとはもっと一緒におもしろいことをやりたいんですよね。Chocolaphilの制作期間は3カ月ぐらいでWebサイトだけの制作だったので。お菓子を食べる時のキット制作とか、どう?

田中:できるかもしれないですね!

柿﨑:表現媒体を問わないクリエイティブ実験もやりたいですね。BAKEの今までのデザインポートフォリオをつくる要望も社内からはあるので、Webや紙といった表現媒体で区切ることはせずに、アウトプット重視で決めるような試みもおもしろそうですよね。

小野澤:僕がWebサイトに3Dグラフィックを入れているのは、将来的にARが来ると予想しているからなんです。店舗に着いたら勝手にWebサイトが立ち上がる仕組みもできそうだし、その頃にはVRも定着して専用ブラウザもあるでしょうから、そのためにいまから新しい表現に挑戦できればと思っています。

文:木村早苗 撮影:寺島由佳里 取材・編集:堀合俊博(JDN)