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INTERVIEW 23 Sony 生活の中のアイデアを誰でもカタチに-First Flight「MESH」

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INTERVIEW 23

Sony 生活の中のアイデアを誰でもカタチに-First Flight「MESH」

ソニー株式会社 新規事業創出部 萩原丈博氏(MESH プロジェクト リーダー)

2016.01.29

ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」、その名の通りアイデアの「種」を促進させるプログラムだ。2015年7月にオープンしたクラウドファンディングとEコマースのサイト「First Flight(ファースト・フライト)」は、そこで生まれた事業を積極的に展開するためのプラットフォームであり、すでにいくつもの革新的な試みが商品化を実現している。

生活の中のアイデアをカタチにするIoTデバイス

無線でつながる小さなブロック形状の電子タグを組み合わせることで、電子工作やプログラミングの知識がなくても、連係動作を簡単につくり出すことができる「MESH(メッシュ)」。それぞれのタグが、動きセンサー、LEDライト、ボタンスイッチなどの機能を持っているので、タブレットのアプリ上でワイヤレスに連係するだけで、例えばドアに取り付けた動きセンサータグが出入りを感知すると、部屋のLEDライトが点灯するといった仕組みをかんたんに楽しめる。

電子工作やプログラミングの知識がなくても、「あったらいいな」というアイデアをかんたんに形にできる「MESH」

電子工作やプログラミングの知識がなくても、「あったらいいな」というアイデアをかんたんに形にできる「MESH」

この「MESH」、実は「First Flight」がスタートする後押しをしたプロジェクトのひとつでもある。開発チームを率いている新規事業創出部 MESH プロジェクト リーダー 萩原丈博氏は、入社以来、ネットワークのソフトウェア開発に携わってきた。アメリカのスタンフォード大学へ社費留学した経験から、生活の中でふと思い浮かんだアイデアを源に開発をはじめたプロジェクトだったと振り返る。

萩原丈博(以下、萩原)「目覚まし時計のストップボタンを洗面所に取り付けて、起き上がってそこまで行かないと止められないようにすれば、目覚まし効果があるな、とそんなことをぼんやり考えたりします。留学中にヘルスケアのプロジェクトに参加したことがあり、ヒアリングしてみるとみんなそれぞれに要望が違うということがあって。それなら、完成品を作り上げるよりも、誰もがかんたんに使えるツールを提供するほうが解決に近づくのではないかと考えたのが、『MESH』のきっかけです」

新規事業創出部 MESH プロジェクト リーダー 萩原丈博氏

新規事業創出部 MESH プロジェクト リーダー 萩原丈博(はぎわらたけひろ)学生時代、コンピュータサイエンスとアート、デザインに関する分野で活動。2003年ソニー(株)入社、So-netなどでネットワークサービスの企画・開発に従事。2011年~2012年、スタンフォード大学訪問研究員。米国・西海岸シリコンバレーでの滞在経験を経て、2012年に社内スタートアップMESHプロジェクトをスタート。プログラミングや電子工作の知識がなくても誰でも簡単に楽しく「あったらいいな」を形にできる世界を目指している。

研究開発の部署に所属しソフトウェアのアルゴリズム開発に従事していた萩原氏。アメリカから帰国し、その部署の中で将来の事業に繋がる研究開発を行う組織があったことから、「MESH」の前身となるアイデアをそこに提案した。2013年の夏頃からは、ヒアリング調査やデザインに対するフィードバックの声を少しずつ形に反映させながら進めた。

萩原「低予算で3か月間進めてみて、そこで何らかの結果が出たら、さらに次の3か月間プロジェクトを続けられるという形でした。3か月単位で仮説検証していき、ひとつの区切りになったのは2014年5月、アメリカの西海岸で10万人以上の来場者が訪れる『Maker Faire』に出展した時ですね。『MESH』と名乗ったのも、その時が初めてだったのですが、お客様の反応を知るには絶好の機会でした。各方面から、扱ってみたいとか、どこで買えるのかとか好反響だったのが嬉しくて…。まだ現在の商品版の手前の状態だったので、ほしいという人にきちんと届くようにクラウドファンディングを利用してなんとかしていきたい、と考えるようになりました」

しかし当時、まだ社内に「First Flight」は存在しない。そこでアメリカのクラウドファンディングサイト「Indiegogo」を利用して、2015年1月にクラウドファンディングへ踏み出した。

Make,Experience,SHare、お客様の体験とともに進化する「MESH」

ファンディングが成立したら、当然のことながらきちんと商品を届ける責任が生じる。クラウドファンディングに社内でゴーサインが出た時点から量産体制での発売を目指した。外形デザインは社内のクリエイティブデザインセンターに所属するデザイナーに手を借り、プログラミングの画面と操作モジュールはUIデザイナーと一緒になって、あらゆるタグの結びつきかたを想定しながら考えた。専門的な知識を持つメンバーに恵まれたのは、人材の宝庫であるソニーの強みとも言える。

萩原「アプリとしてプログラミングの画面が使いやすいかどうか、タグがものとして手になじみやすくて扱いやすいかどうかなど、あらゆる方向性から確認するためにワークショップなどを開いて、できるだけ開発チームから遠いところで、『MESH』のことを知らない人にさわってもらうようにしました」

「MESH」最初のプロトタイプ

「MESH」最初のプロトタイプ

機能によって、電子タグは色分けされている

機能によって、電子タグは色分けされている

ファンディングは2か月後の2015年3月に成立。支援者には5月に無事出荷できた。7月からは一般発売も開始できるまでになった。スムーズな早さに感じるが、アメリカの展示会に参加した後の半年間に、世の中へ送り出せるまでの設計を詰め、確実に出せる準備を積み重ねた成果だろう。さらに「まだまだ進化したい」と意欲的だ。

萩原「お客様の要望からセンサーや出力の種類が増えていくのは自然な流れでしょう。でも、誰もが扱えるからといって、本当にゼロからアイデアを考えて『MESH』でつくるのはハードルが高いと思います。使い方を集めて共有できるようにしたり、それぞれの使い方にアレンジを加えたり、自分の思い通りにできたりする楽しさも提案したいですね。そのためには、モノづくりだけでなく、コトづくり、コミュニティづくり。この3つを進めていきます」

新規事業を立ち上げるまでのハードルは常に、いくつも存在するものだ。進める道を探し出すことも、革新的な取り組みに欠かせない宿命だろう。その点でも「MESH」は先駆的な存在になった。こうした成功例の蓄積が、「First Flight」の真価を証明しているようだ。

First Flight
https://first-flight.sony.com/

Fashion Entertainment プロジェクトサイト
http://fashion-entertainments.com/

MESH プロジェクトサイト
http://meshprj.com/


取材協力:ソニー株式会社 http://www.sony.co.jp/


インタビュー:高橋美礼 撮影:永友啓美

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