デザインのチカラ

IMAGICA DIGITALSCAPE

INTERVIEW 11 リコーGR DIGITAL フィルム時代から変わらずに進化を続けるカメラ

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INTERVIEW 11

リコーGR DIGITAL フィルム時代から変わらずに進化を続けるカメラ

株式会社リコー プロセスイノベーション本部 総合デザインセンター プロダクトデザイン室 PD-1G グループリーダー 奥田龍生氏

2012.09.26

デザイナー自らがモックアップ製作

GR DIGITALの誕生からデザインを担当してきた奥田氏。具体的に企画化される前から先行モデルを自主的に提案するなど、デザイン部署を率いて積極的にデジタルカメラのデザインを行ってきた。現在も新製品のデザインはスタディから始まり、社内でのモデル検討、モックアップ製作などを経て最終決定に至る。

奥田:フィルムのGRからデジタルへ移行する前、デザインチームとして先行開発を手がけた時には、デザイナーが自分でスタイロフォームを削って模型を40個ほど制作しましたね。

その後も、レンズの大きさやグリップの形状が少しずつ異なるデザインを提案し改良してきました。パッと見はわかりにくいとはいえ、握り心地が重要になるため、細部の形状の検討には時間をかけることが多いです。社内で簡易的に制作するモデルは、3Dデータから直接出力してケミカルウッドを削り出して製作します。そのなかから良いと思った形を、実際にもっと高い精度でプロのモデラーに作ってもらう、というのが大きな流れです。

スタディの段階では、握りやすさや大まかな形状を考察し、モックアップではより具体的にグリップのシボやメタリック部品とのバランス、革を貼ってみたらどうなるか、など試作も加えながら実際に近づけて製作し、検討していきます。

スタディ段階では大まかな形状を考察し、モックアップでより具体的なバランスを検討する
スタディ段階では大まかな形状を考察し、モックアップでより具体的なバランスを検討する
ケミカルウッドを削り出して簡易的に制作したモックアップ
ケミカルウッドを削り出して簡易的に制作したモックアップ

デザイナーも企画担当者も、個人的に使い込んで使用感を確かめる。そのときにも常に立ち戻るのは「道具感」というキーワードだ。

奥田:新しいアイデアが出たときにも、『道具感』から外れるようであれば、やめようか、と。きらっとしたメッキのパーツをいれたりする意見があったとしても、すぐにコンセプトとの違和感が浮かび上がります。

コンセプトは「撮影するための道具」

GRのコンセプト「撮影するための道具」にこだわってデザイン検討される
GRのコンセプト「撮影するための道具」にこだわってデザイン検討される
携帯性、写りの良いレンズ、操作性を心がけ正統進化を続けるGRシリーズ
携帯性、写りの良いレンズ、操作性を心がけ正統進化を続けるGRシリーズ

奥田:GRはコンセプトを守ることを徹底しています。「撮影するための道具」はデザインコンセプトでもあり商品コンセプトでもあるのです。

事業に関わる全員がGRのコンセプトを理解し、何をしたらGRユーザーの期待に応えられるかを考えながら仕事をしています。例えば、設計ならGRらしいレンズ性能とは、マーケティングならどんなカタログ、販促がふさわしいかなど、目指すものが明確なので製品から販促まで一貫したイメージを作ることができます。その中でプロダクトデザインは、コンセプトを伝えるのにわかりやすく、重要な役割を担っているものの1つだと思っています。

GRのような個性的な商品を10年以上継続できるのはこのコンセプトを大事に育てていこうとする姿勢の賜物だと思います。

そして、2011年にはGマーク「ロングライフデザイン賞」を受賞。製品単体に限定せず、GR DIGITALシリーズのコンセプトが高く評価された結果だ。

奥田:GR DIGITALIIでのGマーク金賞と並び、とても嬉しい賞です。この10年で継続してきたGR DIGITALの個性。つまり、『携帯性』、『写りの良いレンズ』、『操作性』。その3点をずっと表現してきたデザインに対する評価だと受け止めています。

GR DIGITALを一度使った人ならば、手放せなくなっている操作性については、自信があります。新しいユーザーへのアピールについては、今後はデザインだけじゃなく仕様も含めて考えていく必要もあるでしょう。携帯電話のカメラ機能もどんどんハイスペックになっていますし、あえて小型のデジタルカメラで撮影することの意味も考えていかなくてはなりませんね。

カメラデザイナーに求められる要素

カメラのデザインは、機能性や店頭でのコンシューマー製品としてのスタイリングなどの視点で捉えるならば、他のプロダクトデザインと近い。とはいえ、カメラのデザインに携わるならば、やはり写真を撮るのが好きな人のほうが圧倒的に向いている、と奥田氏は言う。

奥田:写真を撮る人の気持ちを理解できることは大事です。どう使うか、どんな佇まいが撮る気を起こさせるのか、など考えやすいはずです。そして、ユーザーの潜在的な期待値を発見できること。さらに、自分の好みだけではなく、GR DIGITALのユーザーが次に何を期待しているのか、察知できること。
「そうそう、こんなGRが欲しかった!」と言ってもらえたら成功です。

「ユーザーが何を期待しているのか、感じる力が必要です」
「ユーザーが何を期待しているのか、感じる力が必要です」

デザイナーには、ユーザーよりも深いところで製品を理解し、次の一手を打ち出すための探究心が求められる。

奥田:カメラに限らずどんな製品のデザインにも共通しますが、機能的な面については、若手デザイナーに『よく見て、よく使いなさい』と言います。インハウスのデザイナーとしては、会社やチーム全体で取り組む姿勢でいるけれど、やはり、個々の思いつきやこだわりが活きることも多い。だから先読みできる価値観や、個人の独創性は大事にしてほしいです。何もよりどころがなければ提案できないので、普段から他のプロダクトや素材を見て、触れていることも必要です。GR DIGITALと同クラスのカメラを買う人が、どんなものをほしがっているのか、感じる力だとも言えますね。店頭での華やかさとか、マーケットでの斬新さとかではなく、顧客がどんなものをほしいのか、感覚的にわかることが、鮮度のある本質的な提案をするためには不可欠だと感じています。

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/