デザインのチカラ

IMAGICA DIGITALSCAPE

INTERVIEW 11 リコーGR DIGITAL フィルム時代から変わらずに進化を続けるカメラ

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INTERVIEW 11

リコーGR DIGITAL フィルム時代から変わらずに進化を続けるカメラ

株式会社リコー プロセスイノベーション本部 総合デザインセンター プロダクトデザイン室 PD-1G グループリーダー 奥田龍生氏

2012.07.25

プロのカメラマンにも愛用される、リコーのコンパクトデジタルカメラ「GR」シリーズ。アナログ時代の銘機という系譜を継承しつつ、2005年の発売以来、II、III、IVとバージョンを重ね、2011年にはGマーク「ロングライフデザイン賞」を受賞。デザインにおいても高い評価を受けている。

フィルムからデジタル黎明期へ

奥田龍生氏は、GRシリーズがフィルムの時代から、カメラのデザインに携わってきた。デジタルカメラ黎明期の『DCシリーズ』、『RDC-7』等の特徴ある機種のデザインを担当した後、2002年にはGRのデジタルカメラ版ともいえるコンセプトデザインを提案。
そしてGRのDNAを受け継いだデジタルカメラとはどのようなデザインなのか、思考を深め続け、2005年に発表された『GR DIGITAL』のディレクションを担当。その後もデザイナーを統率してデジタルカメラにおけるデザインのあり方を模索し、GR DIGITALのゆるぎない存在感を支える人物だ。

奥田:フィルムカメラのGRの時は、先輩がデザインするのを横で見ていたような状況で、ちょうどデジタルカメラが世の中に出始めた頃でした。GR DIGITALについては、社内でもまだデジタル化の企画さえ立ち上がっていなかったのですが、デザイナーたちで先行のプロトタイプを作って提示したんですね。

奥田龍生
奥田龍生
'87年入社後、複写機、プリンターなどのプロダクトデザイナーを経て、'94年にカメラデザイナーに就任、黎明期のデジタルカメラDCシリーズ、RDC-7、GRのフィルムカメラGR21、GR1V、GRレンズなどを担当する。'02年にはGRデジタルの原点となるGRデジタルコンセプトデザインを提案する。'06年カメラグループリーダー就任後はGRD、GX、CXなどのプロダクトデザイン、UIデザインのディレクションを手掛ける。

デザインの先行開発はよく行われるものですが、初代GR DIGITALが2005年に発売される数年前のことです。『こういうのやりたいよね』と考えたデザインを積極的にアピールしました。当初は企画部署でも商品化の予定はありませんでしたが、技術的なタイミングにも恵まれ、高画質のデジタルカメラが作れる時代になってきた背景などもあり、社内全体がGRのデジタル化へ挑戦する姿勢になってきたと記憶しています。
コンセプトモデルは、数年先を見据えつつ、我々の技術的資産を生かすためにデザインしたものでした。デジタルカメラとしてどれくらい小型化できるかといった提示も含めて、当時からデザインの目標値は明確だったと思います。

GR DIGITALのコンセプトモデル。インパクトのある赤い側面が印象的だ。(2002年)
GR DIGITALのコンセプトモデル。インパクトのある赤い側面が印象的だ。(2002年)

デザインは「道具感」と「正統進化」を目指す

GRシリーズの前身には、パトローネ入り35ミリフィルムを使うカメラとしては当時最も薄い、25ミリのボディが評判になった『R1』(1994年発売)という、レンズシャッターカメラが存在する。

奥田:R1は実際にプロの方にも気に入られてよく使われていましたが、高画質のカメラとして作られているわけではなかったので、より優れたレンズを装備したカメラが求められた結果、『GR1』が生まれたんですね。
GRシリーズで一貫しているコンセプトは、『道具感』です。薄くてもしっかり握れるグリップや荒いシボの黒塗装、無駄なグラフィックを廃したデザインなど、あらゆる部分に道具としての魅力を与えたいと考えています。

フィルムの時代から変わらない、黒のボディとしっかり握れるグリップ
フィルムの時代から変わらない、黒のボディとしっかり握れるグリップ

GR DIGITAL~GR DIGITAL IVまで担当デザイナーは固定されていないが、奥田氏は、基本的な方向性とコンセプトを守るディレクターの立場からGRシリーズのデザインを統括してきた。

奥田:他の方向性もたびたびスタディするんですけれど、デザインにおいては、『撮影するための道具』と『正統進化』が、変わらない姿勢です。『正統進化』とは具体的に言うと、マーケティングの観点からだけで形に変化を与えるというよりも、モノとして、ちょっとでも使いにくいと感じた部分があればそこを修正していくこと。やたらに形状を変更するのではなく、必要な改良を重ねるような作り込みを大切にしています。

リコー R1(1994年9月)
リコー R1(1994年9月)
リコー GR1(1996年10月[デートなし]、1996年11月[デートつき])
リコー GR1(1996年10月[デートなし]、1996年11月[デートつき])

他にはない個性を大切に

GR DIGITALは、サッと取り出してサッと撮影できる「スナップシューター」的なカメラ。他メーカーからここまでコンセプトを明確にした類似機種が登場していないことからも、社内全体の意見として、GRは継続してこのポジションを守るべきだと考えられている。

奥田:今までの個性は変える必要がない部分ですし、一定の評価もいただいてきました。とはいえ、毎回、モデルチェンジのたびに、プロカメラマンの方々のところへ直接出向き、意見に耳を傾けて細かい改良点に生かしています。ユーザーアンケートやネットをチェックするなど、一般のお客様の意見も気にかけますし、もちろん自分たちも使っています。

「やはり自分たちで撮ることは大切ですね。」と語る奥田氏
「やはり自分たちで撮ることは大切ですね。」と語る奥田氏

一時期は、デザイナーも毎日GRで撮影しよう、と意識的に撮影していたこともありました。日常生活のなにげない1シーン、風景や室内、飼っている猫の写真などを撮影するだけでも、自然に実感できることがたくさんありますよ。ユーザーが求めているものを感じ取るという感覚ですね。

スナップショット撮影には特に重宝されるマクロが強く、広角を生かした街撮りにも適性を持つGR DIGITALに対するニーズは根強い。その期待値はデザインにも大きく影響するものだった。

・取材協力:ペンタックスリコーイメージング株式会社

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/