編集部の「そういえば、」2021年8月
ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。
どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。
どこにもない、視えない場所に連れていってくれる「See by Your Ears」
そういえば、サウンドアーティストのevalaさんによるプロジェクト「See by Your Ears」のインヴィジブルシネマ「Sea, See, She -まだ見ぬ君へ」を、この前スパイラルホールで見ました。
インヴィジブルシネマ=目に視えない映画であり、「See by Your Ears=耳で視る」作品であるこの映画は、まさにその名の通り音に耳を傾けるという行為によって鑑賞するもので、真っ暗闇の中で音の洪水を浴び続ける体験を通して、なにが視えるのかを鑑賞者に問うような作品です。
目の前に手をかざしても見ることができないほどの漆黒の中で過ごす70分間、身体感覚は曖昧になり、次第に自分の目が開いているのか閉じているのかも自信がなくなっていきます。そういった完全に視覚情報が遮断された環境で、人は何を「視る」ことができるのかを考え続ける、かなり特殊な体験が続きます。
目の前に広がる光景は黒一色のはずなのですが、耳に飛び込んでくる多様な音からは、海や川、大地、森、草木、朝・昼・晩と表情を変えていく空などのあらゆる色が頭の中の視覚情報として浮かんでいきます。それらは絶えず移り変わり、音の変化とともに表情を変え、浮かんだイメージの数々は時間と共に重なり、ぶつかり合い、細切れとなり、また別のイメージの空間へと鑑賞者を強引に連れ去っていきます。
永遠のようで一瞬のような「耳で視る」体験の最後には、「視ることができない映画」として再度「視る」ことの再定義がうながされます。まだ未体験の方に向けて詳細は伏せますが、視える/視えないの境界線上で揺れながら、「Sea, See, She -まだ見ぬ君へ」というタイトルの意味がわかる瞬間は、他の作品では得られない感情が込み上げてきました。物理空間には存在しない、視ることもできない場所に連れていかれるような体験で、さみしさの中に心地よさや懐かしさが漂うような、えもいわれぬ気持ちで胸がいっぱいになりました。
また、独自の映画としての素晴らしさはもちろん、サウンドアートとしての躍進性にも溢れた作品だと思います。波の音や風に葉が揺れる音など、ぱっと聞いて何の音だかわかるようなものも多いですが、ホワイトノイズやシンセサイザーらしきサウンド、民族楽器のような独特な音色、自然と楽器がミックスされたことで生まれる響きの複雑さなど、何の音がどのように鳴っているのかを探り続けるだけでも楽しめますし、音と音楽のあいだとは何だろうかということを考えさせられます。
終了後のトークイベントでevalaさんが語っていたことによると、植物が水を吸い取る葉脈の音など、微細なマイクで採取した自然音の数々が意外な組み合わせで鳴っているところもあるとのこと。一度では処理できない音と視えない視覚情報の濁流に飲み込まれた70分だったので、また機会があれば再び体験して咀嚼したいです。
(堀合 俊博)
“チェン飯愛”がまっすぐ伝わるドラマ「お耳に合いましたら」
そういえば、最近夏バテ気味で食欲減退していたのですが、食欲をそそられるドラマを見つけました。
「お耳に合いましたら」は、テレビ東京がSpotifyと共同で制作しているオリジナルドラマ。伊藤万理華さん演じる主人公の高村美園が、あるきっかけからポッドキャスト番組をはじめていくというパーソナリティ成長記で、配信する番組のテーマは、主人公が愛してやまないチェーン店グルメ・通称「チェンメシ」です。
松屋や餃子の王将、富士そばなど多くの人が知っているチェーン店が登場し、主人公がそこのメニューを食べながら、その“チェンメシ愛”を語っていくというストーリーになっています。
ほかのドラマと違う点は、実際に主人公のポッドキャスト番組がSpotifyで配信されているということ。あわせて主人公が好きで聞いているという設定の、氷川きよしさんのポッドキャスト番組が配信されていることも、世界観が徹底されていて驚きました。また、毎回主人公の番組収録を温かく見守る役として、吉田照美さんやクリス・ペプラーさんなどレジェンドパーソナリティが各チェーン店の店員として出てくるのも面白いです。
このドラマは言ってしまえば主人公の日々の生活と、チェン飯を食べている様子を覗き見るといったごくシンプルな内容なのですが、見ていて心地よいのは、好きなものを屈託なく好き!と言っているところ。なかなか自分の好きなものを発信する機会はありませんが、ポッドキャストとか気軽に始めるのもありなんだなとか、まわりまわって誰かの好きなものに加えられると楽しいだろうなと感じました。
あと感じるのは、映像の湿度や音質のちょうど良さや、出演者の服選び、オープニングやエンディングの雰囲気などいろいろなポイントでのセンスの良さが伝わってきます。そして何よりチェーン店のメニューを堪能したくなりますね……!(笑)エンディングでは毎回主人公が各チェーン店の店内でダンスを踊っているのですが、そちらも可愛らしいのでぜひ一度見てみてください。
ちなみに余談になりますが、昨年末に実施された調査によるとポッドキャストの国内ユーザーは1,100万人以上いるそうで、しかもその半分近くは1年以内に利用を始めた方とのこと。JDNもしかりですが、昨年春からテレワークを実施している企業も増えたことも影響しているのかなと感じました。まだまだ続く自粛生活、おうち時間の楽しみとして新しいドラマやポッドキャストを今後も開拓していきたいと思っています!
(石田 織座)