編集部の「そういえば、」2023年11月

編集部の「そういえば、」2023年11月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。今月は秋のデザインイベントの話題がもりだくさんです!

時計の世話をする

そういえば、原宿のSeiko Seedで開催中の展示「からくりの森 2023」に行きました。11月26日に開催された、参加クリエイターによるクロストークも聴講してきたので、そこで聞いたお話も交えてご紹介します。

本展はサブタイトルが「機械式腕時計とAnimacy(生命感)の正体」となっており、4組のクリエイターによる機械式時計を用いた作品が展示されています。

機械式時計とは、巻いたゼンマイを動力とした時計で、電池や電源などの電力は使用しません。「機械」でありながら、すべてのクリエイターの作品に「生命感」という共通のキーワードが見受けられたため、このサブタイトルがつけられたのだそうです。

(左)13世紀の機構を再現したもの(右)19世紀の機構を再現したもの

nomenaの『連鎖するリズムのコラージュ』は、機械式時計の技術発展の歴史に沿って、それぞれの機構が順に駆動します。

だんだんと時を刻む精度があがっていくことがわかり、時間の正確さを追求するのに伴って、人類の生活も忙しなくなっていきました。しかし、「時間を表示する」という時計本来の機能を取り払うことで、機構そのものの進化の美しさを感じることができます。

siro「時のしずく」

siroの「時のしずく」は、水滴が生き物のように動く作品です。機械式時計の秒針の音をトリガーに風が発射されることで、しずくが飛び出していく仕組みになっているそうです。古代、たまった水の水面の高さで時間をはかっていた「水時計」も想起させる部分もあるように感じました。水の挙動がかわいらしく、長いあいだ見守りたくなります。

TANGENTによる『時の鼓動』

TANGENT「時の鼓動」

TANGENTによる「時の鼓動」は、石に機械式時計の部品が埋め込まれている作品。無機物の石に、鼓動のようなリズムを刻む時計の機構が埋め込まれることで、それが心臓のように感じられます。

「制作の過程で石を削ることで石の中が見えてきて、それは石が出来上がる時間の流れを辿ることでもあった」というお話は興味深かったです。

セイコーウォッチ株式会社デザイン部による『時のかけら』

セイコーウォッチ株式会社デザイン部「時のかけら」

セイコーウォッチ株式会社デザイン部による「時のかけら」は、時計の針の部分に自然のモチーフを挿し、それがゆらゆらと回ります。モチーフも、販売されているドライフラワーのようにキレイに整ったものではなく、日常にあるさりげないものを選んだということで、一つ一つのモチーフにもぜひ注目してほしいです。

ライティングも、雲が太陽の光をときどき遮るような自然界の明滅を表現しているそうです。それによって壁に映し出される影の形も、一期一会の儚さがあります。

機械式時計は動力であるゼンマイのネジを巻かないでいると止まってしまいます。そのため、毎日の展示オープン前にスタッフの方がすべての作品のネジを巻いているそうです。その行為を「植物に水をあげるような感じ」と表現していたのが印象的でした。

「機械」は「生物」とは対極の存在のように感じますが、メンテナンスという名の世話をしなければならない弱さがあるのだと気づきました。狂いないデジタル機器やシステムネットワークに囲まれて生活している中では、その弱さは「不便」に感じるかもしれません。しかし、弱さゆえに自分が関与する実感を得られることは魅力の一つになると思います。

そういえば私も、「世話をする楽しさ」から機械式の腕時計をずっと使っているのでした。

(小林史佳)

少し未来を考える、食品パッケージの提案

そういえば、2023年11月19日までスパイラルで開催されていた「MITTSU PROJECT -人と人をつなげる食品パッケージ- 展」にうかがいました。

MITTSU PROJECT -人と人をつなげる食品パッケージ- 展

「MITTSU PROJECT(みっつプロジェクト)」は、今年で創業135年を迎える紙製品・化成品メーカーの株式会社マルアイと若手デザイナーが共創し、少し未来の「ちょっとうれしい、ちょっと楽しい」を描くプロジェクト。

プロジェクト第1弾となる今回のテーマは、「人と人をつなげる食品パッケージ」。会場では、参加デザイナーのイシタ キョウさん、ta_rabo、21B STUDIO、若田勇輔さん・有留颯紀さんの4組が考えたパッケージ提案が並んでいました。

■イシタ キョウ「計量機能付きパスタ用パッケージ」
SANAGI design studio主宰のイシタ キョウさん。エンジニアリング・ファッションデザイン・プロダクトデザインと3つの異なる分野を学び、幅広いデザイン領域で活動しています。

MITTSU PROJECT -人と人をつなげる食品パッケージ- 展

今回の提案「計量機能付きパスタ用パッケージ」は、取り出し口の開閉角度を変えることでほしい分量のパスタを取り出すことができるというもの。

個人的にもっとも料理することの多いパスタ…。パッケージから専用容器に移し替えたり、毎回感覚で茹でてしまって多かったり少なかったりしてしまう料理ですが、「計量機能付きパスタ用パッケージ」があれば、いままでの地味なストレスが解消される!と思った提案でした。

■ta_rabo「Food Hood」
各研究機関での研究成果の可視化、素材の研究をおこなうta_rabo。さまざまな素材が持つ固有の自然科学的側面に着目し、デザインに取り入れています。

MITTSU PROJECT -人と人をつなげる食品パッケージ- 展

ta_raboは、「安心」で人と人をつなげる食品パッケージを提案。防災頭巾型のフリーズドライスープのパッケージで、フリーズドライスープがクッション材の役割を果たすため、防具として使用することが可能です。郵便ポストなどに備えておくと配達された郵便物のクッションとしての役割も。また、フリーズドライスープは粉々になってもおいしく食べられるのもメリットの1つです。さまざまな観点から見ても「安心」を提供してくれるパッケージ提案です。

■21B STUDIO「調味料のインタフェース」
有村大治郎さん、コエダ小林さん、時岡翔太郎さんの3名によるデザインチームの21B STUDIO。「よりやわらかな発想で、芯のあるアイデアを」をコンセプトに掲げ、プロダクトデザインを軸にデザイン提案をおこなっています。

MITTSU PROJECT -人と人をつなげる食品パッケージ- 展

彼らが提案したのは、質感が異なる2つの容器。それらは塩と砂糖の結晶を連想させる質感でつくられています。角の丸みなどの仕上げも結晶に合わせてつくられており、視覚や触覚を通して情報を感じ取れるようになっています。

個人的には、疲れていると文字が頭に入っていないことが多いので、視覚や触覚で感じ取れる容器は、育児などに追われながらも料理する方々におすすめしたいと思いました。

■若田勇輔・有留颯紀「想像を味わう」
クリエイティブラボ「CORNER」として活動する、若田勇輔さんと有留颯紀さん。CORNERは、アーティスト・デザイナー・テクノロジストなどさまざまな領域の専門家が集まり、未来のための“問い”となる作品を制作しています。

MITTSU PROJECT -人と人をつなげる食品パッケージ- 展

今回は、食べ物の名前や色、その場の雰囲気など、さまざまな情報によって味覚が大きく左右されることを利用したパッケージを提案。中身がまったく同じチョコレートでも、パッケージの情報で人の想像力によって新たな味を引き出してくれるという提案です。

なかには、映画のチケットをイメージしたパッケージ提案があり、将来は見た映画のイメージも新しい味を引き出す提案になっていったらおもしろいと思わせてくれる提案でした。

同じテーマでも、若手デザイナーそれぞれの視点から生まれた新しいパッケージの提案は、どれも商品化をしてほしいと思うものばかりでした。「MITTSU PROJECT」は、今後も続けていく予定とのことなので、ぜひ注目してみてください!

(岩渕真理子)